EP13-6 一時閉幕

 ユウからの報告を受け。


「さて、どうやらフラッド阻止のあちらは片付いたようだな」とクロエ。


 その台詞に不満げな顔をする沈黙のメベド。クロエは彼に向けて銃を構えたまま、OLSで確認を取る。


[アイオード、メベドこいつ固有情報オリジナル取得おとしたか?]


[――いいえ。彼は1ナノ秒当たり十万回の情報改竄を行っており、情報の特定は困難です]


[そうか。ならば改竄データごと全て保存しろ]


[情報量が膨大な為、記録可能時間は50秒が限界です]


[構わん]


[承知しました。記録を開始します――]


 その会話が終わると、タイミングを計ったようにメベドが口を開いた。


「どうやらダークネストークスこちらの亜世界での計画は失敗してしまったようだね。グレイターヘイムに続いてまたしても、ね? ――やはり君は優秀なルーラーだよ、クロエ。それだけに残念で仕方ない……君は本来こちら側にいるべき存在なのに」


「? ――どういう意味だ?」


「今話したところで、到底受け入れられないだろう。……君たちはウィラに――いやウィラ彼ら自身ですら、自分たちが『何をさせられているのか』を理解していない」


「…………」


「まあ次回は別の方法でやるとしよう。それにもう一つは成功したようだしね」


「もう一つ……だと?」


「この状況でお前に次があると思っているのか?」とリアム。


 すると目的地をこちらへと変えたマナが合流し、状況を察した彼女はメベドを挟むようにその退路うしろに立った。レールガンに換装しつつ、四方を取り囲む光の壁を作り出す。

 リアムはいつメベドが動きを見せても取り押さえられるよう神経を研ぎ澄まし、クロエは照準を外さぬままIPFを展開して言った。


「お前には重要参考人として源世界に同行してもらうぞ」


「これは同行というより暴行の構えだけどね」と、苦笑するメベド。


「フラッド誘発は超一級の重大犯罪だ。にはならん――[リアム、タイミングを合わせるぞ]」


[了解]


 リアムとクロエが慎重に呼吸を合わせる。しかしそのOLSの会話にメベドワの声が割り込んだ。


[悪いけどまだ僕にはやるべきことがあるから、これで失礼するよ。だけど一つ忠告しておこう。アルテントロピーは亜世界だけで働く力ではない――。君たちは最も蓋然性の高い情報から疑うべきだ]


 メベドはそう言い残すとその場から跡形も無く姿を消失させた。そこで「記録終了」とAEODアイオード

 クロエが舌打ちしながら、青く光る瞳に搭載された望遠や探索機能を使って周囲を確認する。リア厶も自身の五感でもってあらゆる気配を探る――が。


「ダメだ、取り逃がした」とリアム。


(紐付けを解いたか……)


 クロエはハンドガンをしまうと苛立つ様な溜め息を吐いて、灰色の空を見上げた。



 ***



「それで――」と口を開いたのはリアム。


 彼らが居るのは、コンテナのような四角い白い部屋はこの中。クロエが即席でその場に作り上げた建物である。

 中央に作られた丸テーブルを囲む椅子にレイナルド、ロマ、ミリア。そしてリアム、マナ、クロエ、ユウの四人の規制官らは、思い思いの場所に立っていた。


「レイナルドの云うフェリシアという女性のことを、君は知らないんだね? ミリア」


 ただ話しているだけのリアムに見惚れていたミリアが、ハッとなって答える。


「えっ? ――は、はい。そもそも私はここ100年は城から出ておりませんし」


「――だそうだ。レイナルド」とリアム。


「……つまり……俺は騙された……ということか……」


「まあ我々規制官すら手玉に取るような相手だ。君が見抜けなかったとしても仕方のないことだ」


 レイナルドは「すまない」と、ミリアに謝罪した。その横でレイナルドにくっつくように座っていたロマが、疑問を口にする。


「じゃあ……一体誰がフェリシアさんを――」


メベドあの男だろうな」とクロエ。


 それにリアムが同意する。


「……うむ、奴に間違いないだろう。その正体については、源世界に戻ってからルーシーに記録データの解析を頼むしかないが」


「ああ。そこから何かしらの手掛かりが掴める可能性もある。望みは薄いがな」


「ロマ――いやアーシャ。君には現世界に帰還してからも、本部で少し聴取に付き合ってもらうことになる。ハイダリ氏と一緒に。――いいね?」


 リアムが訊くと、ロマは申し訳無さそうに頷く。


「ではフェリシア嬢については――クロエ、お願いできるかな? メベドがどんな小細工をしたのかは解らないが、君ならその呪いとやらも解けるだろう」


「了解した」とクロエ。


 会話が一段落したと見て、ミリアがおずおずとした演技でリアムに尋ねる。


「あ、あの――私は……?」


「ああ、そうだったね。――クロエ、彼女も転移者だが、源世界への帰還を望んでいる。同行しても問題無いかな?」


 リアムがそう問うと、クロエはOLSでミリアを確認してから答えた。


「PA120か。ならば潜在リスク対処名目で連れて行けばいいだろう。それにそもそも私はこの世界の担当ではない。お前の判断に口出しするつもりはない」


「ありがとう。――ではミリア、クロエが処置を終えるまで君は待機していてくれ」


「承知致しましたっ!(これでリアム様と――)……あ、それでしたら一度血晶城に戻っても? 一応下僕どもガウロスらにも挨拶を」


「構わないよ」と、微笑むリアム。


(嗚呼、この笑顔――マジ神だわ……)


 するとそのミリアの眼差しから、何となく乙女の機微を読み取ったクロエが、それをアシストした。


「――リアム、彼女を潜在犯扱いするなら、お前も付いていったほうがいいんじゃないか?」


「ん? ああ、そうだな」


 クロエはミリアの目が輝くのを見て少し笑みを浮かべてから、ユウに向かって言った。


「ユウ、お前は先に戻り、局長に今回の件を報告しておけ。詳細は追って私からする」


「了解しました」


 すると即座にユウの姿が跡形も無く消え去った。


「よし、ではレイナルド・コリンズ。お前の恋人の許へ行こうか」とクロエ。


「……ああ。……宜しく頼む……」


 斯くて各々の希望は成り、彼らは為すべきことを成しに一時方方へと散っていったのであった。

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