EP8-5 難敵

 SSFの兵士は一様にダークグリーンの迷彩服。軍用半帽ハーフヘルメットにはゴーグル型の透明ディスプレイと通信機器インターカムが連結されており、手には武器PFAのバトルライフルを携行。

 クレト達がヒロミツに参戦を申し出てから装備を整えている間にも、XM1の手によって隊員らの数は更に減らされ、残りは4名――ここまでの戦闘で彼らは、携帯型の小型誘導ミサイルや電磁爆弾EMPボムを使い果たしていた。そして現在は人数だけでなく、ライフルの弾薬もそう多くは残っていなかった。

 だがしかし、それで得られた戦果は極僅かな掠り傷程度である。

 SSFは後退しつつ、目抜き通りの真ん中を進むXM1を挟む様にして、道路に面した両側の建物に半々で隠れた。やがてXM1がズシンズシンと重々しく歩いて、左右に別れた兵士の射線が直角に交わる地点まで来ると、彼らはヘルメットの通信でタイミングを合わせる――。


「撃て!」


 ここぞとばかりにありったけの弾薬を使い、駆動部や関節部を的確に狙う十字砲火。

 しかしXM1は銃口を向けられた瞬間に自身の表面に『ウルズの刻』による膜を張り巡らし、その視えないシールドがSSFの放った弾丸を全て、着弾の数センチメートル手前で静止させていた。そして内蔵された熱電波検知サーモパルスレーダーにより、屋内に隠れているSSF兵士の位置を正確に捉えると、レールガンを1発発射――空気を突き破る轟音。

 その超高速の弾丸は『オレルスの弓』によって軌道を変えて、ガラスの無い窓から侵入し、兵士の体が半分無くなるほどの大きな風穴を開けた。――直径20ミリに及ぶ大口径レールガンの弾丸の前では、防弾ベストも強化スーツもまるで役目を果たせないのである。SSFの残りは3名。

 XM1のレールガンが約5秒で再び電圧上昇チャージを終えると、巨大な銃口は次の獲物を探す様に彷徨った。

 その100メートル程手前まで迫るクレト、コノエ、ホノカの三人。クレトが走りながらマイクを通して指示を出す。


「俺が先に突っ込む。ホノカは後から援護を。――コノエ、殊能で俺を飛ばせるか?」


「ヘイムダルで? ――なるほど、解りました。着地には気を付けてくださいね」とコノエ。


 クレトを先に行かせ、コノエは足を止めた。そして『ヘイムダルの頭』で1メートル程の障壁を作り出すと、障壁それを傾けてクレトに並走するように飛ばす。抜刀したクレトがそれに飛び乗った瞬間に壁は加速し、カタパルトの如く勢いよくクレトを押し出した。

 XM1がSSFの兵士に向けて次弾を発射しようとしたところに、空中から斬りかかるクレト。


「おおおおッ!」


 既に敵は『ウルズの刻』の範囲内である――しかし砂煙やSSFが静止する中、XM1はクレトに反応し即座にレールガンの向きを変えた。


「――なにっ!?」


 クレトは自分に向かって銃口が動いたのを見て、咄嗟に空中で身を捻る――青白い閃光とともに発射される弾丸。


「グぅッ!」


 致命傷は免れたものの、それは彼の左上腕部の肉を僅かに抉った。しかし被弾それでも尚クレトは、着地間際に斜めに薙ぎ上げた一刀でXM1の左手を斬り落としてみせた。

 不時着の勢いで転がるクレトは、すぐに体勢を立て直しつつ一旦距離を取る。

 クレトそこへXM1が『ヘイムダルの頭巨大な光の剣』で追撃を掛ける。


「っつ――!」


 クレトは刀でその刃を流す様に防ぐが、二度三度と受ける内に大きく仰け反り、体勢が崩された。そこへ加えられる横薙ぎの一撃を流し切れずに真っ向から防ぐと、彼は身体ごと真横に吹き飛ばされた。

 辛うじて受け身を取ったクレトに、XM1は銃口を向けレールガンを再チャージ――砲身が青白くチリチリと放電する。


(避けられるか――?!)


 しかし数発の弾丸が追撃それを阻止した――コノエの支援射撃である。


「させません!」と、100メートル先のコノエが続け様にライフルを発砲する。

 XM1はコノエの弾丸を『ウルズの刻』で表面に静止させたまま、チャージを終えたレールガンをコノエそちらに向けた。照準をロックし、発射――爆発音と砂煙を置き去りにする弾丸。

 コノエは5枚重ねにした光の障壁でそれを防ぐ。ガラスを砕き散らすように障壁を突き破った弾丸は、しかし4枚目でなんとか留まった。


(なんて威力――!)と、目を丸くするコノエ。


 額に冷や汗が垂れるのを感じながらも、彼女は前面に次々と障壁を追加して、射撃の手を緩めることはなかった。XM1もそれに応じて反撃を繰り返す。

 射撃に意識を割きながらでもコノエが障壁を作り出すのには2秒とかからない。しかし一方で、5秒で再チャージを終え即座に放たれるレールガンは、彼女の壁を確実に3枚は貫くのである。


(一瞬も――! 気が抜けない!)


 とは云え壁を砕く武器が1発毎にチャージを要するというのは、コノエにとっては幸いであった。


 コノエとXM1が激しい銃撃勝負を行う中――「お義兄様!」とクレトに駆け寄るホノカ。彼女がベルトのポシェットから携帯用の止血スプレーを取り出し、クレトの左腕に噴霧するとすぐに白いパウダーが固まって出血を止めた。


「馬鹿者、何故前に――」


「でも……!」


「俺は……っ、大丈夫だ。それよりXM1こいつは――」


 コノエとお互いにダメージを与えることのない不毛な銃撃戦を繰り返すXM1。その姿を見る二人。XM1はコノエと撃ち合ってはいるものの、背後のカメラは油断なくクレトらに向けられていた。

 ホノカは空中に溜まっていくコノエのライフルの弾丸を見て、誰にともなく言う。


「あの弾丸の静止……物体操作を?」


「いや――あれは『ウルズの刻』だ」とクレト。


「お義兄様の?!」


「ああ。それにさっきの剣は『ヘイムダルの頭』、それに俺たちの車を襲った弾丸は恐らく『オレルスの弓』だ。つまり彼奴は、少なくとも三人のネームドの力を持っているようだ」


「では多重発現――!?」


LEADリード研の連中も厄介な物を――っく……造ったな」


 腕の痛みに耐えながらも、クレトは苦笑いをしてみせた。


(しかもアレは『ウルズの刻俺の殊能範囲』内で動いた。それに俺は弾丸を止められなかった――ということは、空間系の殊能はお互いの能力を相殺してしまうということか)


「――だが、それならば打つ手はある」


 クレトはそう言ってホノカの手を引くと、一旦近場の建物へと身を隠した。

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