黙示の賢者

@totoro0013

第1部 邪神と女神 編

女神真伝・序

 これはとある世界の物語。

 その世界には魔素マナが溢れ、魔素は人々に魔法という不思議な力の行使を可能とさせていた。

 人々は魔法を使うことで、火を起こし、水に癒され、風と揺蕩い、土と生きた。

 魔法とは、それ即ち自然そのものであった。

 そうして人々は文明を発達させ、時には争うこともあった。

 だが、それすらも自らの種の進化の礎として、平穏に暮らしていた。


 いや、それだけではない。

 その世界では、人の営みだけが全てではない。

 妖精、エルフ、竜、魔族を代表とする人ならざるもの達も、その世界でそれぞれの生を謳歌していた。

 あるものは森と暮らし、あるものは種の中で規律を作り、あるものは弱肉強食という絶対のルールにその身を置いた。


 だが、「人」と「人ならざる者」はお互いに住む領域を分け、決して交わることはしなかった。

 交わろうとはしなかった。

 彼らは分かっていた。

 決して片方の一方通行な思い込みや意見ではなく、双方が双方ともにお互いの事を「異種族」として認識していたことを。

 例えばの話ではあるが、我々「人間」という種族が「蟻」という生き物と「共存」はできても、果たして「共生」はできるだろうか?

 答えは、否、である。

 「共」に「在る」ことはできても、お互いにお互いを尊重して「生きる」ことはできない。

 人間には人間のルールがあるし、もちろん人外にも人外のルールがある。

 お互いに意思の疎通は不可能、もっと言えば、意思の疎通など


 それが彼らの見解だった。

 おそらく、彼らは双方とも本能的に分かっていたのだ。

 もし仮に、意思の疎通を図ったとしてもお互いに理解できない。

 理解できない以上は、傷づけるしかない、壊すしかない、殺すしかない。

争うしかない。

 この世で最も恐ろしいものは、「武器」でも「魔法」でも「災害」でもない。

 それは「未知」である。


 「武器」や「魔法」ならば、知識さえあれば十分に対策はできるだろう。

 「災害」ならば、それは自然現象の一環として許容できる。

 なにより、こちらも予兆があれば来るべき時に対して備えることができるし、仮に突発的なものだったとしても、以前の災害を参考にして起こった後にいくらでもリカバリーが効くだろう。

 そして究極的に言ってしまえば、その時にそこにいた自分たちの運が悪かったと諦めもつくだろう。

 しかし「未知」は違う。

 「未知」である以上、予測も不能、対策も不可能、予後の動向も不明。

 想像してみてほしい。

 四六時中、君の後ろを凶器(と狂気)を持った人物がニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながらついてきたら、果たして正気を保つことができるだろうか?

 いついかなる時に牙をむくか分からない恐怖。

 いついかなる時に何をするか分からない恐怖。

 「未知」とはそういったものである。


 理屈で対抗できない以上、「未知」である以上、「生物は殺せば死ぬ」という世界の基本原理に乗っ取った対応をするのは自明の理であろう。

 少なくとも彼らはそう考える。

 しかし、また同時に彼らは理解していた。

 お互いに争ってもいたずらに血を流すだけで生まれるものは何もない、と。

 そのための不可侵、そのための不干渉だった。

 それこそがこの世界の絶対のルール、そのはずだった---。

 そう、それは今からおよそ1000年前のこと---。








以下、「女神真伝」より序文を抜粋

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 古の時、古の地にて世界を滅ぼすための存在生まれり。

 これ即ち「邪神」である。

 邪神はこの世の全てをその手中に収めようとするものなり。

 邪神によって多くの人と命が潰える。

 人々が絶望の底に追いやられたときに救世主来れり。

 これ即ち「女神」である。

 女神は人々の中から邪神を倒すための強者を選ばれた。

 これ即ち「八英雄」であり、

 「聖剣の勇者」

 「四大魔導士」---「炎帝」「水聖」「風神」「土王」

 「三大賢者」---「黙示」「中庸」「死生」

 の八人から成る古今東西無双の者たちである。

 女神は八英雄に加護を与え、八英雄は神授された神器をもって邪神と相対す。

 邪神と八英雄との死闘は七日七晩続き、八日目にしてついに邪神を追い詰めた。

 聖剣の勇者、因果に決着をつけるために邪神を両断しようとするも、

 それを制止する者あり。

 彼らが主神、女神であった。

 女神、邪神を深い慈悲をもって抱擁すると辺り神々しき光に包まれる。

 そして、邪神と女神はともに永遠の眠りについた。

 願わくば、このような悲しき戦いが二度と起こらないようにと。

 此処即ち「終焉の地」なり-----

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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