1999.08 BR 猫の心を持つ男

猫の心を持つ男

マイクル・A・ディモック 堀内静子訳 早川文庫 1995年


REVIEW


 マイクル・アレン・ディモックは男性名ですが女性の作家です。著者写真ではトレンチコートに中折れ帽の男装で登場しています。しかも内容は、ゲイの精神科医とたたき上げの刑事の限りなく愛情に近い友情を描いたミステリーです。こんなおいしい話を絶版にしてしまうのは惜しいので、興味を持たれた方はぜひ捜してみてください。


 精神科医ケイレブの患者が謎の死を遂げた。警察は自殺と発表するが、そんなはずはないと直感した彼は、独自に調査をはじめる。一方、捜査にあたったシネス刑事はじつはケイレブに殺人の容疑をかけていた。人間を犬型と猫型に分類し、超然と生きる精神科医と、たたき上げの実直な刑事。ふたりはいつしか立場を超えて理解しあうが、時すでに遅く、第二の殺人が……マリス・ドメスティック・コンテスト最優秀作に輝く話題作。(文庫解説より)


 この作品は上記のミステリーの賞を獲った処女作です。

 ジャック・ケイレブという42才の精神科医(茶色の髪、青い目の穏やかな顔つきの男。ちょっと頭が薄くなっている……のは気にしないこと)が、この事件は自殺ではないと言ったところから話ははじまります。もうひとり、同じことを考えていた刑事のシネスは38才の離婚の危機をかかえた敏腕刑事で、殺人現場に現れたケイレブを疑い、尾行する。


 ケイレブというゲイの精神科医の書き方が堂に入っていて、さすがゲイ大国だなーと思います。エイズのホスピスの病院(最終医療の病院)でボランティアをしていたり、ベトナム戦争で心の傷(PTSD 心的外傷後ストレス障害)を負った人々のセラピーに患者として参加していたりする。ケイレブは良心的兵役拒否者で、怒りにかられてひとりの狙撃手を殺したことにずっと罪の意識を持っていた。そして、死んだ恋人(事件の関係者の息子)をいまだに忘れられずにいる。


 表題の『猫の心を持つ男』というのはケイレブのことなのですが、ケイレブは人間を犬型人間と猫型人間に分けて考えています。犬型人間は社会的に認められることを人生の目的にしていて、猫型人間は社会的に認められるより、物事の本質を見極めることを人生の目的にしています。

 ケイレブはフロイトとスピナーという二匹の猫を飼っています。これがうにゃうにゃと何もせずに部屋をさまよっているのも、小説の魅力のひとつです。


 シネスの外的描写はないのですが、女性にセクシーと言われているのでいい男と断定。レーザー光線のようにストレート。離婚寸前の奥さんと男の子を持つワーカホリックの中年刑事です。

 ケイレブがゲイだと告白したとき、シネスは自分がそれをまったく読めなかったことにショックを受けます。刑事としての洞察力に自信があったからですね。そして、ケイレブが自分の反応を読んでいることに動揺したり、ケイレブが女性と仲良くしているのを見て混乱したりします。ケイレブいわく、「いまだに『ホモセクシュアル』は『女嫌い』と同義語だと思っているんだ」。離婚のことをケイレブに相談して、あとで「ゲイに何がわかる」とひとりで怒っていたりする。反応がかわいい人ですね。

 最後に誤解が解けて奥さんと復縁するのですが、私はこのまま奥さんと離婚させてケイレブとくっつく話を書いてしまおうか、とヨコシマな心を抱きました。だってすごくヨコシマな終わり方してるんだもん。『レディ・ジョーカー』よりもすごい。でもあとで『猫の心』本を出してもだれが読むんだ? という素朴な疑問が出てきてやめました。


 シネスはケイレブがゲイだとわかるとケイレブに嫌悪感を抱きますが、だんだんと警戒心を解いていきます。

 話にはあまり触れてませんが、ストーリーも緻密で面白い。上質なミステリーです。

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