ライバル令嬢登場!?11

♢ ♢ ♢








 エメラルドグリーンの瞳は真っ赤な紅色に、そして、柔らかそうな亜麻栗色の髪は薄いネイビーブルーの色へ変わっていく。着ている服もきっちりとした白色のタキシードから、黒の燕尾服へとその姿を変えた。瞳は切れ長の二重で、鼻筋が通っている。かなりの美形ではあるが、年の功は私とさほど変わらないだろう。私の目の前にいるのは、レイ君の面影を見ることはできない。


キッと彼の瞳を見返すと、彼はお手上げだとばかりに両手を上げて、両手足を縛られている私の目の前に胡坐をかいて腰を下ろした。


「“俺”の変身魔法を見破ったのは、あんたが初めてだよ」

「変身魔法?」

「そう。対象の姿形、背格好に変化させる変身魔法。対象を目視するだけで、どんなやつにだって化けれる。おまけに、俺は見た目だけじゃなくて、声まで変えれる。そこまで変化させる変身魔法を使うことができるやつは、そうそういないんだぜ?」


 そういいながら両腕を背後に回して体重をかける彼はどこか得意げに語る。そして、器用にも右手で顔の右半分を覆い、左半分だけレイ君の姿を形どる。そのまま顔の左半分に手をずらせば、彼の姿に戻った。要するにレイ君に変身魔法で化けていたらしい。


「利き手と匂いは盲点だったな。利き手の情報はクライアントから聞いていなかったし、煙の匂いは香水で消したつもりだったんだが、あんた鼻がいいんだな」


 そういって彼は肩をすぼめてみせた。そして、懐から細長い煙管を取り出した。『バレたしな、もういいだろ?』と煙管を一回転させて。


「一体、貴方は誰なの!?私を拘束して何がしたいの!?それに、レイ君に化けてた目的は何!?」


 目の前で慣れた手つきで煙管の中に刻み煙草を入れている彼に私はそう問いかけた。


わからないことが多すぎる、そう思った。すると彼は『質問が多いご令嬢だな……』と鼻で笑って口を開く。


「俺の名前は、今は『ノア』と名乗っている」

「今は?どういうこと?」

「俺は仕事なら何でも請け負う何でも屋のようなことをやっている。それで、依頼に応じて、毎回名前を変えているのさ」

「じゃあ、今回も誰かに依頼されてやっていることなの?」


 私がそう問いかけると彼は『あぁ』といって煙管に火をつけて、その煙管を口元にあてがった。そして、大きく煙を吸い込み、ゆっくりとそれを吐き出した。部屋の中に煙の匂いが充満する。


「俺が受けた依頼は、全部で4つ。一つは誰にもばれないようにあんたをこの場所に隔離すること」

「ばれないようにって……。どうやって運んだの?」


 ここがどの場所かはわからないけれども、人ひとりを運ぶのだって重労働だ。移動している際に誰かに見られないなんてことあるのか。そんな私の疑問に


「テレポーション」


彼は煙管をふかしながら何事もないように言う。


「つまりは、移動魔法さ。あんたを眠り薬で眠らせたあと、この場所へテレポートするだけ。それにここは他の場所とは違って人避けの結界魔法をかけてある。だから、探知魔法を使ったとしても、この場所は見つからないし、テレポーションで突然途絶えてしまったあんたの気配からこの場所を特定することはできない」

「そんな……」

「そして、二つ目はここであんたを拘束すること。それにここは城内だけれども、警備も手薄だ。あんたがいたあの塔からかなり離れている場所だしな。おまけに、この場所の周りには、俺が警備員に化けさせたクライアントの仲間がいる。万が一にもこの場所に助けは来ないし、逃げ出せたとしてもクライアントの仲間があんたを捕まえる」


 自力での脱出は不可能。それに仮にこの男の目を盗んでこの場所を抜け出したとしても、彼の仲間に見つかってしまえば一巻の終わりだ。おまけに助けまで望めそうもない。絶望的な気分で思わず拳を握りしめる私に


「三つめは、あんたに第三王子への不信感を抱かせることだ」


彼は口元を歪めて言った。


「まぁ、これは失敗してしまったんだがな」


 落胆したように肩を落として。


「どうして、そんなことを?」


私がレイ君へ不信感を抱いたからと言ってなんなんだ。この計画の首謀者の目的がわからない。すると、彼は『さぁ?』と言って首をかしげる。まるで興味など一切ないかのように。


「さぁ?って……。他に何も聞かされていないの?」

「報酬さえもらえれば俺はいい。それ以上首を突っ込む必要を感じない」

 

 本当に何も知らないようだ。では、この計画の首謀者は一体何がしたいのだろう。私を隔離、拘束して、レイ君への不信感を抱かせて、一体何になるというんだ。そんなことを思ってふとあることに気が付いた。


「じゃ、じゃあ、貴方のもう一つ受けた依頼って?」


 彼は四つあるといっていた。その以来の中に首謀者の意図があるのではと思った私は、煙管を傾ける彼の紅色の瞳を見返す。すると、彼はその紅色の瞳を細めて私を見て一言言い放った。「あぁ、俺のクライアントをあんたに化かせることだよ」と。


「私に……化けること……?」


 彼の言葉をオウム返しに繰り返した私にノアと名乗る彼は『あぁ』と首を縦に振った。


(どういうこと?私に化けて何をするつもり?)


 一介の中流令嬢である私に化けたところで他の誰かにメリットがあるとは……と思いかけたところで、はたと気が付いた。


「もしかして……レイ君?」


(私に化けて、レイ君に何かをするつもり!?)



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