婚約者は年下の王子様!?03



♢ ♢ ♢








 ということは、やはり目の前にいる“彼”もとい殿下は、あのときの『レイ君』ということになる。


 改めて見るとどことなく面影は残っている。


「この10年間、レナ姉の……いや、貴女にふさわしい人になるためだけに自分を磨いてきました」


 思い返してみると、にこりと笑う顔もあの頃のままだ。


 でも、待て待て。一瞬、トキメキそうになったけれど、よくよく考えたら私、「アラサー令嬢」!レイ君は、前世でいうなればDK。所謂、男子高校生だ。男子高校生が年の離れたアラサーに恋心を抱くものなのか。それに、アラサーと男子高校生って響き、なんだか犯罪チックな響きだ。


 は!犯罪!?もしかして、結婚詐欺ならぬ、婚約詐欺的なのか!?詐欺とは知らずにぬか喜びしている「アラサー令嬢」を後からあざ笑う的な!?


 一瞬、舞い上がっていた気持ちが、冷静になってくる。これは、やんわりとお断りするが吉と出た。


「でも、9歳も違いますし……」


 正確に言えば前世での27年を含めれば45歳ほど違う。精神年齢だけで考えると、親と子ほどの差がある。やばい、犯罪チックな響きどころの話ではない。


「たかが、9歳です。貴女を想っていた期間の方が長いですよ」


ぐぬぬ、手ごわい。ならば、次!


「で、でも!私はもう27歳です。殿下のお傍にいても、見劣りするかと。それに、この先は老いるだけです。」

「貴女は自分が思っている以上に綺麗ですよ。それに、人は皆、等しく年を取っていきますから」


 よろしい!ならば、次だ!


「で、でも!そうは言っても、私と結婚したとしても、殿下の周りには若くて美しい令嬢がいて、そちらに目移りしちゃうかも……」

「10年間、貴女のことを想い続けて、すべての縁談をこだわっていた私が、今更他の令嬢に目移りするはずはありませんが」


 私が言うことに対して、怯むことなく何のことはないように言ってのけるレイ君。冷静に考えたら、すごく恥ずかしいこと言われてない?


熱を持ち始めた頬をどうにか落ち着かせ、次にどう反論しようかと考えを巡らしていると


「……――レナ姉」


と耳元で囁かれた。10年前の愛らしい声とは違い、その声は低く落ち着いていている。私が考えを巡らしている間に、いつの間にか私の顔のすぐ右側に“彼”の顔が迫っていた。


「殿下と呼ばれるのは嫌だと言ったよね。昔のように呼んでいいんだよ。もしくは、呼び捨てにしてくれた方が“僕”的には嬉しいんだけど」


 10年前と同じ口調で言われたもののすぐ傍で流し目のエメラルドグリーンの瞳は、どこか怪しげで10年前にはなかった色気のようなものが漂っている。“彼”に見つめられる側が熱い。


「わかった?ほら、“僕”の名前を呼んで?敬語でかしこまらなくてもいいから」


極めつけはこれだ。なんだか低い声が甘く聞こえるのは幻聴か。あれか、男性に対する免疫がないだけか。


「……レイ君」


 カッと赤くなった顔を隠すように顔を背けながら言うと


「本音を言えば呼び捨ての方がよかったですが、今回はよしととします」


と元の口調に戻った。どこか満足気なように見えるのは私の気のせいではないだろう。そんなに『殿下』と呼ばれるのが嫌いだったのか。言わないように気を付けよう。婚期を逃したアラサーの男性の耐性のなさを舐めない方がいい。これは心臓に悪い。


 もしかして、レイ君は本当に私に好意を持っているのだろうか。犯罪とか、婚約詐欺でからかっているというわけでなく?


 そんなことを思い始めて


「……でも、レイ君のような紳士な人なら引く手あまただと思うんだけど」


熱を持った頬に両手を当てて私は言う。ここに来る時のエスコートも長いドレスを着ている私が転ばないように気を配ってくれていたし。


そう言えばレイ君は一瞬、虚を突かれたかのように黙り込んだ。


え?何?この反応!やっぱり私の嫌な予感が的中してるやつ?


けれども、黙り込んだのはほんの一瞬のことで


「私の婚約者は貴女以外いりません」


きっぱりと言い放ち、いたずらっぽく笑ってこうも付け加えた。


「それに、“僕”は、レナ姉が思っているほど紳士ではないのかもしれないよ」と。


こ、これはまさか……。私は確信した。


これは何かの罠に違いないと!



♢ ♢ ♢






 27歳の誕生日、9歳年下の婚約者(?)が現れました。

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