マジック・ワンダー・ワールド

比名瀬

【少年と少女と】

『熱く煮え滾るような焔の中で』

 辺り一面が真っ赤に揺らめく────


 いや、吹き付ける焔が大地を焦がしていく。


 周囲が赤く熱い。

 周囲だけでなく、大気に満ちている魔力をも同調するように熱されて焦がすほどの熱量となって身体を焼いてくる。


 それは怒りのようで。

 それは憎しみのようで。

 それは苦しみのようで。


 周りのように熱く熱く焼かれた手に持つ盾を、今一度強く握りしめ直す。


 それは、自身の後ろにいる少女を守るために。


 ちらりと、背後へと目を向ける。


 彼女は膝をついて、方で息をしている。

 周りの焔にも負けられないほどに赤く輝くような艶髪が、周囲の焔の息吹ブレスで暴れるように振り乱れていた。


 疲弊はしているようだが、敵を睨みつける瞳はまだ諦める事を知らず、敵意を隠さずにギラギラと輝いているようにも見えて、こちらにも闘志が湧いてくるようだ。


 少女の確認を終えて、今度は周囲の焔を吐き散らす元凶の敵、前方にそびえるような巨大な黒い龍を盾越しに睨みつける。


 龍鱗が剥がされ、痛々しく赤黒い鋭利な裂傷を身体中に作った巨大な黒い龍は、今も尚、赤々と燃え盛る焔を吐き出し続け、未だに周囲を焼き尽くし続けている焔の息吹ブレスは止む気配を見せない。


 そして、その焔を吹き出す黒い龍の額にある、待機が揺らぐ焔越しでもわかるほどの、より強く禍々しく全てを飲み込むような暗黒色の輝きを放つ宝玉。

 あの巨大な黒い龍の強大な魔力を秘めているらしい中核。

 そこには一筋のヒビが入っており、もう一撃与えることさえ出来れば、あの宝玉を破壊して龍を止められるのだろう。


「ハアッ!!」


 ズオン、という莫大な衝撃音と共に焔が斬り払われる。


 一瞬の間を置いて、黒い龍とは真逆の真っ白な龍鱗で覆われた鎧甲冑を身に纏う騎士が、目の前に降り立つ。

 白い龍鱗の鎧騎士は、手にした巨剣を横薙ぎに振るうと、再び迫り来る焔が軽々と薙ぎ払われ、遅れて轟音と衝撃がやってくる。


「早くしろッ!!此方の方も持たん!!」


 それだけ言うと、彼は黒い龍目掛けて巨剣を振り上げて突撃していく。


「そろそろ行けそうか…っ!?」


 盾がそろそろ持つのも嫌になるほど熱くなってきており、背後の少女へ必死に問いかけた。


「大丈夫。思いっきりやっちゃって」

「よし来た!来いやあっっ!!」


 その声に、少女が駆け出す。

 それと同時に、前へと掲げていた盾を後ろへと向き直り、盾の取手付近に手をかざして、彼女の踏み台へとなるように斜めに掲げていた固定する。

 駆けてきた少女の足が盾を踏んだ感触がやって来て、そして────────


「いっ………けえええええええええっっ!!!」


 力の限り、盾を振り上げると同時に盾の取手付近にあるギミックを起動させて、少女諸共思いっきり上空へと押し投げた。

 上空を飛ぶ少女は、黒い龍へと目掛けて空中で剣を構えて狙いを定めている。


 下からは、巨剣を振り上げる白い龍鱗の鎧騎士。

 上空からは、剣を構えた少女。


 巨大な黒い龍は、どちらを狙うか一瞬迷った後、脅威度の差からか下にいる白い龍鱗の鎧騎士を狙う事にしたようで、再び鋭い牙が並ぶ口元から焔が溢れ出し、白い龍鱗の鎧騎士を焼き尽くそうとする。


 だが、


「本命は上だ!!」


 巨大な黒い龍が人間の言語を理解出来たかはわからない。

 その声が黒い龍に聞こえた直後、上空の少女が突き出した剣が、巨大な黒い龍の額にある宝玉へと突き刺さった。

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