第14話 インゴット
『では、これから負の骨頂のおまえら負の儕輩に我が修行を就けてやる。心して聴け』
「あーあ、なんで修行なんてみみっちいことしなきゃなんないんだよー。あーあこのへんな狸の話しはやくおわんねーかなー」
馬を引く者はこころのなかで思っていましたが、声にはださず、顔で訴えています。
いっぽう馬は、
「やったーい。修行だ修行。強くなれるー。おれはすごい馬になるー。でも馬のままでいれるのかなー?主人も変わったし、おのれも変わるのか?」
とうれしくはしゃぎながらも頭のてっぺんには?(ハテナ)の文字しか浮かんでいません。
『おまえらにはパワーがたりない。正直言うとおまえらはこの世界でいうインゴットにもかてやしねー』
「インゴット?」
二人は声をそろえて言います。
「んっ?言います?そういえばなぜ馬が人の声を発している?それとも、馬の言葉を馬を引く者が理解できてるから私達も理解できてる?」
作者はこころの中で思いました。
たぶん後者のほうが近いでしょう。読者には、それをわかってもらえれば、それだけでいいです。
では、話しを続けましょう。
『インゴットとは、土だけでつくられた土偶みたいな人間大の大きさの人形のことだ。』
そういうと、タヌキんど一世は畳の中心に敷いてある一枚を引っぺがし、中から大きな土人形を取り出しました。
それは身長150㎝の人形で、色は土色、目は土偶のように猫目でおおきく、しっかりと閉じており、鼻はなく、口は大きく笑ったような顔をしています。体は鎧のように堅く太ったように盛り上がり、腕も筋肉がついているような感じでもっこりともりあがっています。指が付いていますが、人間のような手ではなく、円形のリングにながぼそい指を六本六角形に刺し込んだだけのような形でいかにもドリルのように横回転しそうです。足も非常に強固で、お相撲選手並みの大きさの足に子供の履くスニーカーが左右にかわいらしくついています。
『こいつがインゴットだ。名前の由来は、弱いっつう意味だ。でも、生半可な気持ちできたら痛いめにあうぞ』
ひろげた手の上に乗せたままタヌキんど一世はいいます。
でも、なぜそんな重そうなものをいとも簡単に手の上に軽々と乗せていられるのでしょうか?作者は疑問でなりません。疑問の疑が幽霊のごとくゆらめいてこっちにおそってきそうです。なんだか意味わかりませんね。ほんとすいません。
では話しを戻し、二人はそのインゴットなる人形を見て、目を丸くしています。どうみても弱そうには見えないからです。
「これがこの世界で一番弱いんだったとしたら、この世界の生物ってどういう生態関係をしてるんだろ。一回こもって研究してみてえ」
なんて変なことを想像していました。よだれをたらしながら。
「ってなぜよだれなんだ?ここでたらすもんじゃねーだろ。いくらおいしくみえたとしても土だぞ土。くえたもんじゃねえぞ。こんなまずそうなもん」
作者は馬を引く者につっこみます。
「あっちゃー。またこいつの変なくせがでてしまったー。相手を自分の結婚相手にさせる目。ハートマークの眼。あれにかかるとこいつは相手を暴走させちまうんだよなー。といってるそばから狸が顔をこっちにむけて突撃大砲のごとくとっしんしてきやがった。
あたるあたるー。絶対当たるー」
と思い、タヌキんど一世は手に持っていたインゴットをどっかになげすて、その場から退散しました。そして狙う物のいなくなった顔は壁にぶつかるしかなくなり、壁に顔からめり込むのでした。
馬はそれを後ろの二本の脚でたったまま腕をくんでそっぽをむき、相手を上からおらーと見据えるポーズでガンをとばして見ていました。とってもどすぐろく、こわそうです。特に眼が。
嫉妬してるんでしょうか?たぶんそうでしょうね。
そのころなげとばされたインゴットは、地面にはころがってなく、ロケットのように足の下から赤い炎をだし、畳から10㎝程上のところを飛んでいました。 そして、めり込んでいるタヌキのお尻をみてニターっと笑っていました。
だから生半可な気持ちで行ったらだめだっていったのにと、頭を手でおさえるポーズをしながらタヌキんど一世は思っていました。
▲
インゴットは、猫目の眼を大きく見開きます。目の色はどす黒く、赤く光っています。赤く光った眼は、対象(馬を引く者)を認識しようと、壁にめり込んだお尻を見ています。そのお尻は大きく、真ん中から、丸くて太いもさもさの尻尾が生えています。
「対象を認識しています。少々お待ちください。
ぴーぴーぴーぴいーーーーーー。
対象を認識しました。これからは攻撃モードに入ります。」
インゴットはそう言うと、対象に向かって腕を振り上げ、リングごと指を断絶し、対象物に向かって発射しました。
リングは、対象物の前で一旦停止し、対象を取り込もうとリングの中をブラックホールみたいに黒くします。
リングは対象を吸い込むために横回転で左回りに回転し始めました。
最初はゆっくりでしたが、除々に速くなっていき、10秒後には眼で追うことができなくなるほど速くなりました。それは地球上のどんな生物よりも速く廻っています。
「回転速度が上限を超えました。これから対象物の取り込みを開始します。」
そういうと、リングから掃除機のモーター音のようなやかましい音がなりはじめました。
そして、馬を引く者は、後ろに急激な力でひっぱられます。
「う、うわあああああー。誰か助けてー」
大きな声で叫びます。
それを聴きつけた馬が反応し、主人の元へ行き、前足を器用に立て、主人をはさみこみました。そして、後ろ脚でふんばり、吸い込まれまいと必死の形相で歯を喰いしばり、引っ張っています。
しかし、そんなにうまくいくはずもなく、馬一人の力では到底勝てるはずもなく、除々にリングと馬を引く者の距離が縮まっていきます。
タヌキんど一世は、その候景をみて、こりゃーちとわしが力を貸してやらねばならないかな、と考え、よっこらしょと言い、重い腰をあげるのでした。
そして馬のお尻に手を置き、力を込め、引っ張りました。そして引っ張ると同時に右手(お尻をつかんでいない方の手)を前に出し、リングと同じように黒いブラックホールのようなものを手の真ん中に出現させ、リングよりも大きな吸い込みの力でもってリングを吸い込みにかかりました。
リングはその力に勝てるはずもなく、除々に距離が縮まっていき、その距離が1mに達したところで、インゴットは、リングに力を送るのを止め、リングを手放したのでした。リングは力なく垂れ、黄色い狸の手の中に吸い込まれるのでした。
それをみていた馬は、肩でハアーハアーと息をしながら、タヌキんど一世に向かって、憧れの眼差しをむけるのでした。
一方馬を引く者は、額にへんな冷や汗を浮かべながら、へえーと一息ついていたのでした。
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