第12話 2人と群れの激突

 ここはタヌキんど一世の家である。赤レンガが異様に目立つ家である。なぜ赤なのかというと、たましいの色だからである。たましいの色は勇気の象徴であり、人の中にある燃える心の塊りだからである。魂とは、こころの源であり、こころの源泉である。魂とこころと体があわさり生物ができている。生物はその物体であり、こころを持った物体である。それ故赤なのである。

 人の魂の色であり、タヌキんど一世のこころの色であるのが赤なのである。だから赤レンガなのである。その家で二人は目を覚ました。

 目を覚ました二人は、まずここがどこなのかわからなかった。ゴーレムに掴まえられ、ゴーレムの手から助けられ、助けられ?助けられ?あっ、思い出した!

 「おまえはあの時の黄色い狸だ。」

 馬を引く者は黄色い狸に向かって右手の人差し指で相手を指し示しながらそう言いはなったのだった。

 そして馬は、その二人の光景をみながらなんだこやつは、というような怒気を含んだ眼で相手を見据えていたのだった。


                  ▲


 こちらはゲーテと赤龍で、いまは南アメリカに向かっているところである。

 「なー赤龍ー!今から会いに行くやつってどんなんだ?」

 考え込むように手を胸の下らへんのところで左腕を上にして上下に重ねて横にした状態で肘を手で下から抱え込むように持ち、空中にたって停止した状態で、

 「えーっとなー。くちばしはオレンジで体は黒くて、目がまんまるで羽があるオニオオハシっていう鳥だ。その群れに会いに行く。」

 ゲーテは赤龍を覗き込むような瞳(め)をして、

 「ふーん鳥かー。て、群れ?で、そいつらとはどんな関係なんだ?」

 赤龍は空中停止した状態でゆっくりと話し始めました。

 「群れで生活しているから群れだ。関係ねー、関係・・・。

 これはまだ俺が龍になりたての小さかったころの時代の話だ。」

 「ん、おまえは何歳だ?」

 「ゲーテよりは生きてないからー、えっーと、」

 ここでいっかい慌てる。

 「って、いまはそんなことじゃなくてー。

 おれは小さいころ南アメリカに狩猟の練習にきていた。」


 赤龍【子供(自分)】

 楽しそうな眼で父を眺(みつめ)ながら、羽を広げて悠々(余裕の表情で)と跳んでいる。

 「ねー父さん、狩猟って楽しいの?」

 ハテナの部分を少し高めの声でいいながら言う。

 父は子供の顔を見て、

 「ああ楽しいぜー、あの生きている生物を狩るという残忍で性悪な世界の撲滅運動。あれは快感だ。だれにも止められない俺の攻撃。

 あの勝って相手を食すときの勝利の味。あれは忘れられない一時だ。あれを堪能するためにだけに我らは生まれてきたのだ、わかるか赤龍。」

 と言い子供の方を向いて笑顔に微笑む。

 「うん。で、こいつどうする?」

 ハテナのところのトーンをあげながら話す赤龍の前には、大分痛めつけられてぼろぼろになったオニオオハシがいました。

 「こいつはあまり腹の足しにはならない。ここに置いていこう。」

 オニオオハシはその赤龍の父の声を聞き、立ちあがり、両方の羽を自分の胸の前でそろえて合掌のポーズをとり、

 「みのがしてくれるんですか?あーありがたやありがたや。今度お礼をしなければなりませんねー。今の恩はけっして忘れません、それでは。」

 オニオオハシは小さな翼を左右に広げてゆっくりとではあるが、西に向かってどんどんと遠ざかっていくのだっだ。

 父は西の空をみながら、

 「いっちまったなー」

 両方の手を開け、腰の位置に手をおきながらため息のまじった声をだすのだった。

 そして赤龍もその西の空をあごをあげて見上げ、右手を大きく左右にふりながら、

 「はーい。元気でなー」

 「無邪気だなーおまえは」

 と父は言い、息子の赤い頭をなでなでするのだった。

 「へへへ」

 まんざらでもない様子で顔中に笑みを浮かべる赤龍は、右手を頭の後ろにやり、左手で父の手を握ってどかしながら自分の頭に手をもっていき、顔を赤くして笑うのだった。


 十日後。

 「獲物ぜんぜんみつからないなー。」

 赤龍の方に体ごと向けて地上の上に立ちながら、大きくて丸い胴体のしたにしっぽを通して後ろに伸ばしたかっこうで立ちながら、

 「もう五日も喰ってないからなー、お腹すくよなー」

 と嘆くのだった。

 それを見ている赤龍は、自分のお腹をさすりながら、「グー」という自分の腹の音を聴くのでした。

 「あっ父さん!」

 顔を上にあげ、斜め頭上を右手の人差し指で指示(さししめ)します。

 「んっ」

 首をかしげながら腕を組み、子供の顔を見ます。

 「あれみてー」

 笑顔をしながら西の空を見ている自分の子供をみて、

「んっ、あれはなんだ?」

 父の眺る西の空から何かの黒い大群が飛んできます。

「鳥の群れだー。おい、いくぞ赤龍」

「はい、お父さま」

「こういうときだけお父さまかー」

 と言い、赤龍の頭をさすりながら、

「かわいいやつだなー」

「へへへ」

 微笑む赤龍を尻目(眼の左奥の片隅で見て)に、父は背中を一度叩き、背中に手をおき、僕を空中へと押し出すのだった。狩猟の始まりである。


    ▲


 そのころオニオオハシは、群れで飛び、足に果物を掴んで赤龍のところへと向かっていたのだった。


 父と子供の赤龍に向かって鳥の群れが飛んできている。

 父は飛んでいる鳥(オレンジの大きなくちばしを持った黒色の鳥)の背中に向かって大きな二本の足をふりおろし、足で群れの中心にいる2匹の鳥の背中を引っかいたのだった。

 果物を持っていたため、鳥はその重みと痛みにたえきれず森の中に墜落していくのだった。それは赤いリンゴのような果実を持った鳥と青いオレンの実がいくつも実ったベリーをつかんだ鳥だった。

 そして子供の龍は、あまり大きくない鳥に目をつけ、上からではなく、普通に鳥の真正面から向かっていく。

 案の定、鳥は体を右斜めに傾け、大きく旋回しながら同時に右移動を行い、龍の足の刃を避ける。そして龍の背中にまわりこみ、後ろからオレンジ色のくちばしで勢いをつけて腰としっぽの間をつつく。鳥のくちばしが子供の龍の(人間でいうとお尻のとこらへん)の皮膚に喰い込み、くちばしの突き刺さっている所の皮膚だけが引っ込む。そして龍はその痛みに片目をつぶり、両方の手で鳥のくちばしをつかみ、万力のようにしてくちばしをつぶしにかかるのでした。

 龍の力にかかったら、鳥のくちばしなど、わりばしぐらいの固さほどしかなく、すぐにわれて粉々になってしまうのでした。

 くちばしを失った鳥は、空中で姿勢を保つことができなくなり、そのまま森の中に墜落します。

 その光景を見た鳥の群れは、龍に対してびびりはじめ、全身の毛がぴんぴんになり、鋭くとがります。人間でいう緊張状態と同じです。そのとき群れの中から一匹の鳥が前に出てきたのでした。

 その鳥は、よく見ると、十日前に我ら龍がお情けでみのがしたあのオニオオハシなのでした。

 このとき赤龍の親子は、やっとあのときのオニオオハシの

「みのがしてくれるんですか?あっ、ありがたやありがたや。今度お礼をしなければなりませんねー。今の恩はけっして忘れません、それでは」

 という言葉を思い出し、この今目の前にいるオニオオハシの群れが足に掴んでいる果実がそのお礼なんだなと思い、父と子供は背中から頭をたれ、お詫びをこめて深く礼をするのでした。

 その姿を見てオニオオハシの群れの緊張もとけ、次々と赤龍の親子の腕の中に果物をおさめていくのでした。そしてまた龍は、深く礼をし、子供の龍の手とオニオオハシの翼のかたっぽで握手をかわし、これからは仲よくしようというあいさつをかわすのでした。


     ▲


「これがおれとオニオオハシの出会いの物語だ」

 ここでゲーテは他の雲で手の形をつくり、目を大きく開き、きらきら輝かせ、拍手をしながら

「ん、それはいいが、おまえの父はそのあとどうなったんだ?」

 赤龍は、首を傾げ、考えるポーズ(手はそのままです)をし、

「また今度な」

「えー」

 そして龍はゲーテのほうに向かって立って飛んでいる状態のまま右手を前に押し出し、ゲーテのほうに人指し指をさし、さされたゲーテはちょっとおどろき顔を浮かべながら冷や汗をかき、赤龍はこう答えたのでした。

「てかゲーテ、おまえさんならわしから聞かなくても力を使えばすぐにわかっただろ」

 声をはりあげていいます。

「ああ普通にな。しかし、おまえがその話しをどういうふうに語るかも気になったもんだからちょっと聴いてみたくなっただけじゃ」

「ええそうかいそうかい。それでおれの語りはどうじゃった?」

 ふてくされた顔を浮かべながら手を胸の前で横にして組み、ゲーテの眼をまっすぐにみつめるのでした。

 そして赤龍とゲーテの眼があい、

「いいできじゃったと思うぞ。わかりやすかったから」

 「そうかそうか」

 赤龍は顔に喜びを浮かべます。そしてその言葉を聞き、上機嫌に左右の羽をぶるんぶるんと縦に大きく振り、(右羽が上にふれているときは左羽が下にあります)両方の手をかるく握り、上下に動かしながら、うきうき気分で空中横回りでまわりつづけるのでした。

 「おれは上機嫌~上機嫌~ゲーテはおれっっさまにたじったじー」

 「こらー」

 ゲーテはすごいけんまくでおこっていますが、それにもかかわらず赤龍は口で変な言葉を述べながら立ったまま横に回りつづけるのでした。


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