第二章・亀裂した関係

 僕には、リアルの方に友人がいた。同じ商業高校で同じクラスの栗山風太郎と言って、背が高くてひょうきんな奴だった。彼もパソコンを持っていて、インターネットを活用していた。

「なぁカミナリ、ホームページ作ったから見に来てくれよ」

「前にソニットのサーバーに設置するって言ってたやつだね」

「そうそう、アドレスはこれだから、来てくれよな」

 そう言って、長々と書かれたアドレスが記載されている紙を、僕に渡してきた。僕はその紙を自分のバックの中へと入れた。

「そのパックに入れるのかよ、他のとごちゃごちゃにならないだろうな」

 僕のバックには、いろんな物が入っていた。割り箸から工具類まで至れり尽くせりだ。僕の座右の銘は、なくて困ることはあってもあって困る物はなしで、様々な場面を想定してバックの中にいろんな物が入っていた。自転車通学してるのだが、たびたび自転車のチェーンが外れたりパンクしたりすることがあるのだけど、この便利バックの中にある物のおかけで、修理することができた。うっかり箸を忘れてきた人がいれば、何十本もある割り箸を渡すことができた。急な雨にだって、常時折りたたみ傘が三本入っているので、友人五人ぐらいまでは雨をしのぐことができた。ポケットティッシュも数十個入っているし、爪楊枝だって入っていた。

「大丈夫だよ、メモ用のスペースに入れてるから。他のも中で整理して入れられるようにポケットがあるから、ごちゃごちゃにはならないさ」

「相変わらずどうなってんだその四次元バック」

「どっかの猫型ロボットアニメみたいに言うなよ」

 僕のバックは自転車の荷台部分にくくりつけないといけないほど巨大だし、ちょっと重いけど、いたって普通のパックだ。栗山も他の友人も僕のバックのことを、四次元バックと命名しているが、僕にとってこいつは便利バックという正式な名前があるんだ。

 僕は教材入れ用の小型のリュックに教科書とかを入れてから、便利バックを担いで帰路に向かうことにした。


 自宅に着いた僕は自室のパソコンに向かった。今日は両親ともに仕事で遅くなるため、いつもよりも長くネットに繋げることができる。

 早速パソコンの電源をつけて、インターネットを開き、栗山から教わったアドレスを入力して、栗山が設置したというページへと飛んだ。

 トップページの背景は、真っ黒で、白地の文字が四つ上から並んでいるだけのシンプルなページだった。

「黒好きの栗山らしいな」

 僕は独り言をつぶやいてから、まず一番上の趣味の部屋をクリックした。飛んだ先には栗山が好きなバイクの写真が貼り付けられていた。どうやらいろんなバイクを紹介していくページにするつもりのようだった。

 次に、二番目の文字列である掲示板をクリックして飛んだ先のページはどっかの掲示板レンタルサーバーから借りた掲示板のようだった。誰一人としてまだ書き込みがないので、足跡代わりに僕が書き込みをしておいた。

 三つ目の文字列には、日記という文字があったのでクリックしてみたが、準備中の文字が出ていた。まだここは試行錯誤中と言うことなのだろう。

 四つ目の文字列には、秘密の小部屋とあった。

――なんだこれ。

 僕はそう思いながらその秘密の小部屋というのをクリックした。すると、黒いページの上の方に、

《これより先に進むと画面が回転したり、様々な事象が起きますが、安心して見てくれ》

 と書かれた太字のメッセージがあり、その文字の下に、入り口と書かれた文字があった。どうやら入り口と書かれたメッセージをクリックしたら何かが起こるようだった。なんだか嫌な予感を感じながらも僕は、その入り口と書かれたメッセージをクリックした。

 入り口と書かれた文字をクリックした途端に、ウィンドウズの画面が揺れ出し、そして回転してページが崩れていった。この突然の現象が起きている間、キーボードもマウスも操作を受け付けなかった。

「そういや栗山のやつ、コンピューターの操作やプログラミングに詳しかったな」

 僕はそうつぶやくしかなかった。なんの操作も受け付けないままパソコンの画面上では、ウィンドウズの画面が崩れたり破裂したりしていた。


 三分ほどしてようやく画面が停止され、インターネットプラウザのウィンドウが強制的に閉じられて、いつものパソコンの画面が戻った。恐る恐るマウスを動かすとカーソルが普通に動き、バウバウを起動させるアイコンをクリックしたら普通にバウバウが起動した。

「あー驚いた。けどなかなか面白かったな」

 僕は栗山のサイトのことを星之介さんとライトダークさんに教えることにした。例の秘密の小部屋の秘密は内緒にしておいた。


 数日後、栗山に呼ばれた僕は、栗山のホームページが削除されたことを知った。どうやら親元のソニットの禁止事項に触れていたとかいう理由で、サイトが強制閉鎖されたらしい。

「何でだよ、ちゃんと注意事項だって貼ってあったし、別に悪いことなんかしてねぇのに」

「秘密の小部屋が閉鎖の原因」

「ああ、そうなんだトよ。だったらそのページだけ閉鎖すりゃいいのに、他のも閉鎖されたんだぜ、ひでー話だろ」

 栗山家の彼の部屋のパソコンを目の前にして、栗山は憤っていた。掲示板だけは他のサービスからの借り物だったので、閉鎖は免れたようだが、他のページは完全に削除されていた。

「IPアドレスとかわかる?もし誰かがそのページのことをチクったんだとしたら、誰がしたことかわかるかもしれない」

「ホームページ自体はなくなったけど、自分のマイページは残ってるから閲覧履歴で確認できると思うぜ」

 そう言ってから栗山は自分のマイページを開き、閲覧履歴を見た。そこには僕のアドレスの他にもう一つ、見慣れたアドレスが記載されていた。

「これ、星之介さんのアドレスだ」

「知ってるのか」

 僕はブログを持っていて、そこに日記みたいなのを記載していた。そこには星之介さんもたびたび見に来ていて、閲覧履歴でアドレスもわかっていた。栗山のサイトに唯一来ていて、明らかにソニットに例のページのことを告げたと思われるアドレスと、星之介さんのそれが全く同じだった。

 僕は早速家に帰って、星之介さんにメールを送った。

「星之介さん、僕が以前紹介したサイトが閉鎖されました。どうやら他の人からの指摘があったらしく、それで閉鎖されたようですが、何か知りませんか」

 このようにメッセージを記載して送った次の日、返事が来た。星之介さんは仕事をしているため、メールの返事が遅いときがある。

「あのサイト閉鎖されたんだ。僕は知らないけど、誰かが報告したんじゃないかな」

 このようなメッセージが帰ってきたが、嘘をついているのは確実だった。なので僕は少しきつめにメールを送ることにした。

「調べたら星之介さんのIPアドレスしか閲覧履歴になかったんですよ。どう見たって星之介さんがソニットによけいなことを報告したとしか思えないんです。お願いだから嘘つかないでください」

 このメッセージを送って二日後、見知らぬアドレスから【張りすぎた写真館】にある箱庭の、僕の島の掲示板に書き込みがあった。ここのサイトのゲームにはそれぞれ個別の掲示板があって、そこに記入して会話のやりとりをすることができるのだが、このサイト書かれた人のIPアドレスがわかる機能がついていた。そのため星之介さんのアドレスもわかっていたが、この日書き込まれていたのは別のアドレスだった。その書き込まれた内容とは、

「カミナリさんこんにちは。星之介さんからあのサイトのことを聞いて、あのサイトのことをソニットに報告したのは自分なんです。星之介さんも僕も、閉鎖までするとは思っていませんでした。許されることではないとは思いますが、一言謝らせてください。ごめんなさい。本当はちゃんとメールとかで謝るべきなんでしょうけど、僕自身はネット環境がなく、今ネットカフェを利用して書き込みをしています。本当にすいませんでした」

 これだけだった。句読点が多い上に漢字もある、誤字脱字がないように細心の注意を払っている感じなので、これを書き込んだのは明らかに星之介さんだった。チャットの時と違ってあの人は、いつも誤字脱字に注意を払っていた。句読点もしっかりつけていた。以前僕はブログで、

「死んでまえ」

 とでかでかとあるアニメみたいな感じの物を冗談で書き込んだとき、あの人は真剣に叱ってくれた。とても誠実そうで信頼できる人かもと思ったから、僕はこの人に自分の本名を明かしたあの人はそのお返しにと、僕にあの人の本名を教えてくれた。一回り以上も年の離れた友人ができたと思って僕はとても嬉しかったし、この数年本当に楽しかった。なのに、あの人はそんな僕の想いを裏切った。僕は悲しみを振り切るようにパソコンの電源を切った。

 それから星之介さんは連絡してこないしバウバウでも出会わないし、こちらから呼びかける気も起きなかった。


〔次話へ続く〕

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