歌姫と道化師

@honobono87

第1話漆黒の声なき歌姫

~キーンコーンカーン…~

A「おい!ゲーセン行こうぜ!」

B「俺今日バイトだよバーカ。」

A「えぇーお前にオススメな音ゲー今日公開なのに!」

B「まじで?バイト行くついでにちらっとみてー」


最後の授業が終わり、教室内はいっきに賑やかな雑談が飛び交う。

俺のクラスメイトでよく絡んでいる、神崎透(かんざきとおる)、玉木愛(たまきあい)、夏目陽加(なつめはるか)が心配そうな表情をして俺の席へ駆け寄ってきた。


神崎「優(俺)!お前最後の授業中に学校くるとかやるなぁ。しかも堂々と入ってきたかと思えばその顔って、どうした?」


神崎は、黒髪に短髪で、目尻が上がっている。塩顔イケメンというやつだろうか。高身長で無駄な肉もない。陸上で鍛えあげた細マッチョ的な体つきだ。顔良し性格良しで、男女両方にモテるいいやつだ。

そして、神崎が言うように、俺が学校にきたのは最後の授業が半分くらい終わった頃。つい30分前の話だ。

そして、俺の唇は切れて少し腫れている。


夏目「どーせ、また正義の味方ー!とか言ってヤンキーに喧嘩売ってきたんじゃないの?うわー、痛そう。大丈夫?」


夏目は、茶髪のショートカットで大人びた顔つきをしている。細身で足が長く、モデルのような体系をしている。陸上で活躍しており、活発で元気な女の子代表ともいえよう。


優「ははーばれた?すげー寝坊してさ、12時に起きたんだよ。そいで学校行ってる途中ですんげぇおっぱいおっきい綺麗なお姉さんがいてさ、ヤンキーにしつこくナンパされてたから、高嶺の華を守ってきた!」


玉木「またそんなことゆってる。カットバン持ってるから貼る?あ、でも消毒しなきゃだから、保健室行こ?」


玉木は、濃いブラウンの髪色にミディアムロングで可愛らしい顔をしている。身長が低く、女の子らしいかんじだ。優しくて世話焼きなので、クラスの男子からも人気らしい。この世話焼きに俺は少しタジタジだ。


玉木が俺の手を引っ張り、保健室に連れていこうとしたとき、担任の森崎美智子先生こと、もりちゃんが鬼の形相……チューリップの花のような赤い顔をして俺を呼んだ。


担任「こぉぉらぁぁー!守道!お前授業終わりかけなのに堂々と教室入るなよ!まずは職員室か保健室だろーが!鬼の形相でとか思ったか?あ"ぁん?」


俺「ぜーんぜん!もりちゃん、チューリップの花のような赤い顔してかわいい!遅刻したことも事前に電話しなかったのもごめん!もうしねぇから」


ちょっとでもチューリップが肌色に戻るように、100点満点の微笑みを投げかける。


担任「なにがチューリップの花のようなだよ!保健室いくよ!話はそのあと!」


俺「やっべ!俺バイトあんの忘れてた!もりちゃん、明日説教ちゃんと付き合うから!玉木わりぃ!じゃな!」


と、自分が発した『バイトあんの』らへんで教室飛び出して来たから、後半は全く伝わってないかもしれないが、途中まで追いかけてきたもりちゃんの顔は鬼の形相で、怒りの声が校舎に響いた。明日はおっかねぇschool Lifeだな。青春だぜ!


新校舎を駆け足で後にして、誰も立ち入らなくなった旧校舎へと向かう。旧校舎は、現在立ち入り禁止だ。古くて耐震工事すらできないほど老朽化が進んでいるという理由で、形を残したまま放置されている。

もともと旧校舎は古くて、幽霊のひとつやふたつ出そうな雰囲気を持っていた。誰も立ち入らなくなってたった1年で、より一層いかめしくなった。

だからだろう、東高校の生徒は幽霊がいるだの、校長先生の部屋に置き去りにした日本人形が夜に動いているなど噂がたち、生徒は一切近寄ろうとしなくなった。

だから、先生も生徒もこんな物々しいところに誰かが入るはずがないと思っているだろう。

しかし、俺は旧校舎一階にある窓の鍵が1つだけかかっていないことを知っている。旧校舎から新校舎へ移る物品運びのとき、旧校舎の最終締め切りの日に俺がこっそり開けた窓だ。

先生の注意をひいて、戸締まりが終わったことを伝えるのは至難の技だったさ。


いつものようにその窓を開けて旧校舎へ入り、二階を目指す。

俺が勝手に机や椅子も移動させて、あれこれ持ち込んでいるので快適に過ごせる空間になっている。

夕日が照るこの時間、結晶のように光る埃に息が詰まる。


階段をゆっくりと登り2階のフロアに着くと、ふと、埃が激しく舞う。

俺が少し動いただけの舞い上がり方ではない。どうやらどこかの教室の窓が開いているらしい。確かにこの前きたときは、2階のすべての窓が閉まっていることを確認してから出たはずだ。おそらく、警備員か先生だろう。いつかはバレることだ。いつでも来れなくなることを覚悟はしていた。

この背徳感のある旧校舎との思い出もここまでかと虚しさを感じつつ、少し警戒しながら目的の教室へと向かう。

気配を消して教室を覗き込むと、警備員でも先生でもない先客がそこにいた。


吸い込まれそうな輝きの黒い長髪を揺らす女の子が真っ白な部屋の窓辺に立っていた。どこか遠くを見ながら音をこぼさず、口を動かしている。どうやら歌っているようだ。歌声は無いが、もしそれに声があれば、美しい歌声なのだろうか。

それとも彼女はみんなが噂する幽霊の類なのだろうか、そう思うほど彼女は美しい。

俺の前に漆黒の歌姫が舞い降りた瞬間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る