scene19*「大雪小雪 」


それを言うなら、大寒と小寒だろ。

まったく、バカにどうしてこんなに夢中になるんだか。悔しいったらない。



【19:大雪小雪 】



「あー寒いっ!どうしてこんなに寒いの!?バカなんじゃないの!!」

「そりゃ冬だからな。当たり前だ」


冬休み明けの朝の登校はことさら冷える。

俺はいつもどおりに彼女と駅で待ち合わせて学校へ向かう。

こいつは毎日飽きもせずに同じことを言うんだから呆れてしまう。そりゃあミニスカートにしてたら寒いだろう。


「お前もタイツとかはけばいいじゃん」

そう確信をつくと、マリンは唇をとがらせながら「それはそれ、これはこれ」と訳の分らんことを言う。

「なんでだよ」

「だって制服で足出せるの今しかないじゃん。可愛くありたいじゃん」

「太ももを寒さで真っ赤にさせてる奴が何言ってんだよ」

「うるさいなぁ!ホッカイロして毛糸ぱんつ穿いてるから大丈夫だもん!」

「……あとで見ていい?」

「ばか!」


毎年暖冬だというけれど、つい先日も雪がいきなり降ったりしてるし、何だかんだで寒い。

歩きながら太ももをすりよせる仕草がどうにもエロくて、彼氏としては「可愛くありたい青春重視」でそんなスカート短くされて、エロい仕草で歩かれても心配でしょうがない。


「まぁ、この寒さもあとちょっとだろ。だいたい暦どおりだし」

「ホントかなぁ~。こんな寒いんじゃ本当にいつ春がくるかわかんないよ」

「その目安にカレンダーにも書いてあるんだろうが」

「えっと……なんだっけ…。あ、あれでしょ。大雪と小雪。だよね?」

「は?」

「だから、書いてあるじゃん。カレンダーに。大雪小雪みたいなやつ」

「……それを言うなら、大寒と小寒だろオイ…」

「えっ!そうだっけ!?」


おいおいおい。マジ勘弁してくれよ。すっとぼけた回答に、俺は朝からため息が出そうだ。というか既に出ている。


「こうして俺たちは、大人からゆとり世代とか一括りに言われるんだろうな……」

「いやいや!違うから!分かってたよちゃんと!言葉のアヤ!」

「またかよ。言葉のアヤどころじゃねーからそれ」

「今日から国語の授業本気出すから。ほんと」

「国語っつーより一般常識だろ……」


我ながら、どうして勉強のできなさすぎる彼女を好きになったのか。

俺は成績は良いほうだと思うけれど、ものすごく頭が良いというわけではない。ちょい良いくらい。

ただ、彼女のほうがよくこれで高校受かったなってレベルで、普段も頭悪すぎてびっくりさせられることばっかだ。


……なのに、一緒にいて意外と楽しいんだから恋とは不思議だ。

付き合って一年ちょいだけど、飽きたことなんて一度もない。



1年の時に同じクラスになって、色々話すうちに楽しくて、

会話する分にはすごく面白いから頭の回転速いのかと思いきや成績はめっぽう悪くて、

何かほっとけなくて気が付いたら好きになってたなんて……。

俺、バカな女の子が好みだったっけ?って当初は我ながら困惑してたけど……。



考えてみたら、俺のハンバーガーセットについてきたナゲットを奪って食べてた時に、俺はこいつに告ったんだよな……。

今思うと何でよりによってあのシチュエーションで告れたのか我ながら謎だ。



「マサル?何考えてんの?」


そんな俺の気持ちをよそに、かまわず尋ねてきては俺の顔をのぞきこむ。


……やっぱり、可愛いんだよなぁ。いちいち。

バカだけど、いちいち可愛い。



「……毛糸のぱんつ見せてくんねーって言うから、何色か考えてたんだよ」

「え!!??ほんと!?マサルってバカなの!!??」

「嘘に決まってんだろ。お前の毛糸ぱんつ見て誰得だっての」

「……ほんとだったらあとで見せてあげようかと思っちゃったよ……」

「おまっ…!そっちのがバカだからな!!!誰にでも言うなよ!それ!」

「あっはっは!そんなのマサルだからに決まってんじゃん!」



ケタケタ笑う顔見て、逆に心配過ぎて誰にも渡したくねぇなって思ってしまう。


なんつーか、こいつと話してると無意識にバカ笑いできるし、頬の筋肉がゆるむし、ホッとしてどんなにかっこつけて取り繕っても全部ムダなんだよな。

だけど、そのムダにされるのが何故か心地良い気がして。


好きになるのは理屈じゃないって知った。

こうしてバカみたいな会話で、冗談言ったり笑ったり。

それを重ねるたびにどんどん好きになってる自分がいる。



「教室、誰かストーブ付けてくれてるかな~」

「バスで来てる奴ら早いからあっためてくれてんじゃね?」

「……マサル、なんかさっきからニヤニヤしてない?」

「気のせいだろ」

「いや、なんかニヤけてる。毛糸パンツそんなに見たいの?」

「じゃあ見せてくれんのかよ」

「うぐ……」

「ま、大雪小雪って言っちゃう奴のパンツ見てもな」

「だからそれは言葉のアヤだってば!もぉ!」



マリンは力のない腕でぽかぽか叩いてくる。

かわいーかわいー。そう言ってやると、悔しそうな、でもまんざらじゃなさそうな表情をしてたまらなく可愛かった。

まったく、バカにどうしてこんなに夢中になるんだか。悔しいったらない。



「……他の誰にも見せんなよ」

「え?」

「毛糸のパンツだよ。やっぱ後で見せろ」

「マサル、どうかしちゃったの?」

「お前が、大雪小雪なんて、バカなこと言うからだよ」

「は?何それ??」

「いいから、今日帰り俺んち連れてくから」

「……う、うん」


それで分かったのか、顔が赤く染まった。


俺は俺でかっこつけつつも……絶対に赤い顔してるのが自分でも分かったから、誤魔化すみたいにして目の前のマシュマロなほっぺをつまんでやったのだった。




(  俺だけがすげー好きみたいで悔しいから、仕返し。  )

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