scene11*「あした」

ある日の事、何となく通ってみた道で、新たな出会いがありましたとさ。

アイツもこの道使ってたんだ。




【11:あした 】



学校帰りに今日は何となく、本当に何となく遠回りで帰ろうと思った。

いつも使ってる道とは違う、一本隣の通り。


ちょっと下町の名残があるこの町。

路地なんていっぱいあって、まるで猫になった気分でスルスルと通っていくのは気分がよかった。

駅の方向を知っているから迷うなんてことないし、路地に良いお店はあるもので激安の老舗のお団子屋さんとかあったりして、なんだか自分だけの秘密を持ったみたいだ。


どんどん細い道を進んでいくと、前に同じ学校の学生服の男子が目に入った。

誰だろう、他学年かな。でもあの鞄とあの背丈とあの髪型は見覚えがあるな。そう思ったときに、振り向いた。

同じクラスで、そこそこ話すヤザワだった。

アイツもこの道使ってたんだ。


「 あ 」


目が合うなり、言葉も重なる。すると、だんだん近づいてくる。

私は思わず硬直してしまって、まるで奴が迫ってくるのを待ってるみたいだった。

え?私何かしたかな?何でこっちくるわけ? てな具合に混乱していると、ヤザワが話しかけてきた。


「ちょーどよかった。410円貸してくれ」

「は?」

「だから410円。あんだろそんくらい。貸してくれ」


ちょっ、これってカツアゲ!!??チョット待ってよ!!いきなりの内容に慌てた。


「な、なに言ってんの!?やだよ!」

「マジ頼むから!マジ返すって!だから410円貸してくれ!」

「やだって!なんでこんな得体の知れない買い物に貸さなきゃなんないわけ!?」

「俺は発売日当日に買って読みたいの!!」

「……エロ本を買う金などあるわけがない」

「ちげーって!!」

「じゃ、何」

「ワンピース。ジャンプの。 単行本派なんだよ俺」


なーんだ。そういう事。だけど……


「……なんであたしが貸さなきゃいけないの。明日買いなさいよ」

「俺らそこそこ話すしさぁ~いいじゃんか~」

「たかが410円でも、バイト給料日前のびんぼー学生からしたら、貸すには痛いんじゃボケ」

「この俺が頭を下げてるというのに」


ふてくされて、とんがらせた唇が、不覚にも可愛いなんて思えてしまった。

ここまで頼まれたら意地悪するもの何だか悪い気になってしまい、まぁ、1000円とかってわけじゃないしいいかと思ってため息をついた。


「……ちゃんと返してよね」

「マジで!?返す返す!」

「うっそくさいなぁー」

「俺の精神は確実に助かっている!」


調子良さに私ブツクサ言いながら財布をだし小銭を確認する。410円は無いけど500円あったから貸した。

そして使い道が本当にその通りなのか不安なので、一緒に駅前の本屋までついてくことにしたけど。


本屋に入ると、ONEPIECEの最新刊が『本日発売!!』の紙まで貼られて、レジ前に平積みにされていた。すぐさまレジを済ませて、ヤザワは紙袋を嬉しそうに鞄に入れた。


「マジさんきゅー!」

「ちゃんと返してよねー!このプチ負債者め!」


改札で反対方向に分かれるときに、 そんな言葉を交わして別れた。

別れ際、ちょっとだけ振り向いてみたけど、わかっていながらもヤザワがそうしてくれるはずもなかった。

ホームで反対側を見るとちょうどヤザワがいて、鞄から買ったばかりの単行本をいそいそと出していた。読み始めたなと思った途端に、ちょうど私が乗る電車がきて視界がさえぎられてしまった。


(……こっちに気づけよ、ばーか。)

電車の中からそんなことを思って……ちょっとだけ寂しい気持ちが芽生えた。



翌日。

結局学校で会話もせず、接する事もなく、内心( やられた )と思った。

目も合わせもしない。どうしたことか。腹がたって今日はもうさっさと帰ることにした。


帰りに昨日の裏道をまたなんとなく通る。そしたら、前方に昨日と同じシチュエーション。

ただ違うのは……ま、待ち構えてる!?こわ!!


「やっぱここ通った」

「ストーカー?やめてくださいませんか?」

「そりゃねーだろ~!借金返しにきたって」

「わざわざこんなとこで渡さなくてもいいじゃんか」

「男女の照れというものだよ」

「わっけわかんない」


なんかちょっと嬉しい。奴から500円を渡されると同時に、少しだけしんみりした気持ちが心に積もった気がした。そのまま自然と駅まで一緒に帰ることになった。

しかしながら駅に向かう途中ずっと無言で、なんだか気まずい。その時にぽそっと照れを含んだ声でヤザワが言った。


「実はさ、昨日の駅のホームで、挨拶くらいしたかったんだけど……なんか照れてできなかったんだよな。っつーか今も何気すげー照れてんだよね」

どきっとする。

「な、なんで照れるの」

内心ドキドキさながら尋ねてみると、本当にすごく照れくさそうにして頭を掻いてそっぽをむいては

「よくわかんねー」

と、一言だけ言った。


あたしも、なにげすごい照れてんだけどね。


同じに言いたかったけど、私のほうも何故だか言葉が出なくって、結局はお互い黙りこくってしまった。


微妙な距離で2人並んで歩く。ただの友達なのに。しかもそこそこ話す程度のクラスメートなのに…。

気まずいような、どこか嬉しいようななんとも言えない気持ちだった。


それなのに多分、明日も二人でこの裏道を通りそうな予感がちょっとだけした。




( また話したくて、昨日の裏道を、またなんとなく通る。 )

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る