デート 前編

 お休みの日、あーでもないこーでもないと考えながら服を選ぶ。といってもたくさん持ってるわけじゃないから、すぐに決まったんだけどね。

 今度のお給料でもう少し洋服を買おうと決め、持ち物を確かめてから時間に合わせて出かける。夕飯をどうするかとか決めてないけど、一応父にはいらないと言っておいた。

 待ち合わせは、父や兄とも待ち合わせた、市のゆるキャラがいるところ。ドキドキする~と小さく呟いて歩き、駅に着く。ちょうど五分前に着いて、見回したらすぐに乙幡さんを見つけた。


「おはようございます、乙幡さん」

「おはよう、紫音ちゃん。じゃあ、行こうか」

「はい!」


 差し出されて手を見つめて乙幡さんを見上げる。にっこり笑って「繋ごうか」って言われ、照れながらその手を握るときゅっと握り返してくれた。


「まだちょっと早いから、先にコーヒーでも飲む?」

「いいですね!」

「なら、どこにしようか」


 駅周辺にはいろいろあって悩むとのこと。結局駅ビルに行こうという話なので、下に下りてそこに行くことにした。

 一番小さいカフェラテを頼み、席に移動する。イブだからなのか、カップルが多数いた。


「で、今日行くところなんだけど、あちこち行ったあと、ゲーセンはどうかな」

「ゲーセンがあるんですか?」

「ああ。南口の駅ビルの中に入ってるんだ」

「本屋さんもありますか?」

「あるよ」


 駅の近くだけでも本屋さんが五軒あると聞いて驚く。そんなにあるのか……と若干遠い目をしながら雑談をして、まずは南口を歩く。

 といっても南口は駅前に喫茶店やラーメン屋さん、居酒屋やレストラン、ドラッグストアが入っている建物や雑居ビルがあるくらいで、北口ほどお店があるわけではないという。


「俺は南口に住んでるんだ。ここから近いよ」

「そうなんですか」

「そのうち連れてってあげるよ」

「え……」


 耳元で連れてってあげると言われて焦る。いや、一応公衆だからっていうのはわかるけど、内心ではひゃあぁぁぁっ! って叫んでた。そんな私の様子を見て、乙幡さんはクスリと笑う。

 南口の駅を見上げてみなって言われて見上げる。


「ここ、とあるアニメの中でも使われてるんだって。俺は見たことないアニメなんだけど、同じ部隊で立川出身のやつが言ってた」

「ほえー。もしかして、モノレールもですか?」

「らしいよ。某聖人男性のやつと一緒だな」

「すごいですね……」


 怪獣映画の撮影も来たことがあると言っていたから、そういったことを招致しているんだろう。

 モノレールに沿って遊歩道を歩くと、電気屋さんの横に出る。そのままモノレールに沿って線路下を歩き、途中で有名ドーナツ屋さんがある場所を教えてもらった。


「あんなところに……」

「結構便利だぞ」


 感心しながら歩き、以前来たところに出る。本屋さんはここにもあって、赤いバラの包装紙の百貨店にも入っているという。

 ぐるーっと回る形で遊歩道を歩き、それに沿って何があるとか、ここのお店の何が美味しいとかを教えてもらった。串揚げもあるそうで、食べたいというとそこでお昼にしようと言われたので、ビルに入ってエレベーターに乗る。

 ランチは一時間半、飲み放題がついて税込み1500円と安い。バイキング方式で、自分の好きなものを取って来て、テーブルで揚げるんだそうだ。


「嫌いなものはある?」

「特にないです」

「俺が適当に持って来ていいかな」

「はい」


 飲み物も持って来てくれると言ってくれたけど、さすがにそれは遠慮して、乙幡さんがくるのを待つ。来たら交代でウーロン茶を持って来た。

 二人で乾杯をして、串に刺さっている食材を油に入れると、ジュワーっと油が音を立てる。それを見ていたら、またクスリと笑われた。


「なんですか?」

「いや、反応がいちいち可愛いな、って思ってさ」

「は!?」

「こういうのは初めて?」

「はい。家族でもしたことなくて……」

「え……?」


 あ、余計なこと言っちゃったと後悔する。だから家庭の事情で家族と一緒に住んだことがないと簡単に伝えると、痛ましそうな顔をして目を伏せてしまった。


「あの、全く連絡が取れなかったわけじゃないですよ? 確かに母は碌でもない人でしたけど、父や他の兄弟とはちゃんと連絡を取れていましたし、最近になってやっと会えたから、そんな顔をしないでください」

「……そっか。今はどうしてるんだ?」

「父と再会して、すぐに一緒に住むようになりました。まあ、ほとんど強引な感じで進められちゃいましたけど」


 苦笑すると、「そうか」と言っただけで、それ以上のことは聞かれなかった。そんな会話から始まったけど、何が好きだとかどんなものが好きだとか、揚げ物をしたり食べたりしながらたくさん話をした。


 だからこそ、乙幡さんが好きだって気づいてしまった。


 兄を除くと他の自衛官とも一緒に洗い物をしたし話もしたけど、一番多かったのが乙幡さんで、一番話しかけてくれたのも乙幡さんだった。冗談を言って笑わせてくれたり、チヌークを操縦して失敗した話もしてくれて、たくさん話をしてくれた。

 そのおかげでもっとチヌークが好きになったし、同時に乙幡さんに惹かれていってたんだって、今ならわかる。


 時間が来たのでお喋りをやめ、支払いをしてお店を出る。


「先に映画館で何をやっているか見てみる?」

「そうですね」

「いいのがなかったら、そのままゲーセンに行こうか」

「はい!」


 差し出された手を握り、エレベーターに乗る。顔が近づいて来たと思ったら、掠めるように唇にキスをされた。


「あ……」

「またあとで、ね」


 にこりと笑った乙幡さんは、私の手を引いて開いた扉から出る。誰もいないからっていきなりキスとか……、ひゃあぁぁぁっ! と内心で叫んで、俯いたまま歩く。

 きっと真っ赤になってるんだろうなあ……。

 信号を渡ってすぐに映画館があって、そこを見たけど話題のやつは夜まで席がないというので、一旦窓口からどいた。


「やっぱ公開直後だから無理だったか」

「そうですね」

「他に見たいのはある?」

「うーん……特にないんですよね」

「なら、ゲーセンに行こうか」


 それに頷いて、上にある遊歩道に上がる。そこを歩いて駅に向かい、南口にある駅ビルに行った。エスカレーターを降りると本屋さんがあって、そこに入って行って首を傾げる。


「ここからゲーセンに行けるんだ」

「そうなんですね! 帰りに本屋さんに寄ってもらってもいいですか?」

「いいよ」


 本屋さんを抜けるとゲーセンに行く。扉が開いた瞬間にあらゆるゲームの音楽が響いて来て、ちょっと煩いくらい。

 格闘ゲームをしたり(一回だけ勝ったけど、あとは負けた)、レースのゲームをしたり。レースゲームでは負けっぱなしだった。

 音楽ゲームでは私がなんとか勝てたけど、運動神経では乙幡さんに敵わないなあって思う。他にクレーンゲームもやった。

 クレーンはいくつかあり、まずはネズミーランドのキャラを取ってくれた。お目当てのものを聞かれて教えたら、一回で取ってくれたのには驚いた。


「すごーい!」

「一回で取れるとは思ってなかったけどな。他には?」

「じゃあ……」


 別のものを言うとそれも取ってくれて、結局入れたお金の分は全部取ってくれたから、私はほくほくだ。それを見てたらしい従業員は顔を引きつらせていたけどね。

 持っていたエコバッグにぬいぐるみを入れ、別のクレーンゲームに行く。そこではマグカップが取れるようで、そこでも乙幡さんは一回で取っていた。

 二人で同じのを取って分け合い、残りは私が持って帰るようにした。父へのお土産にしようと思っている。

 従業員は呆れたような顔をしていたけど、いいじゃん。残り具合からして、普段はそれほど取れるようなものではなさそうだったし。

 他にはパチンコやスロットがあったけど、これはコインを買わないといけないし、次はいつこれるかわからないからとやらなかった。それでも一通り遊んだのでゲーセンをあとにし、本屋さんに寄ってもらう。


「いっぱい取れたね」

「俺も驚いた。こんなに取れることは滅多にないんだけどな」


 目当ての本を見つけたのでそれを買い、駅のところまで戻る。揚げ物を結構食べたのに、ゲーセンで体を動かしたせいなのか、お腹が空いてしまった。

 駅のところはカップルや家族連れがたくさんいるし、イルミネーションもあってクリスマスを実感する。


「イルミネーションを見に行く?」

「モノレールのところですか?」

「いや、昭和記念公園のところ」

「わー、行きたい! でもお腹空いちゃった……」

「ははっ! 中に食べ物があるそうだから、そこで食べようか」

「はい!」


 まだ公園の中に入ったことがなかったから、嬉しい。

 モノレールに沿って遊歩道を歩き、階段を下りてゲートに向かう。いつも下から見上げていた通路はここなのかあ……と納得していたら、ゲート手前からお土産屋さんが並んでいた。

 見たけど特にほしいものはなかったので、そのままチケット売り場に行くと、並んでいた。


「買ってくるから待ってて」

「はい」


 ゲートの前にもイルミネーションがあって、その写真を撮ったりしながら待っていると乙幡さんが来る。交互にトナカイとサンタさんのイルミネーションの前で写真を撮り、チケットを受け取ってゲートの中に入った。


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