第1章 初めてのマギアビースト

1話 『一流ザーヴェラーの弟』

「あなたが、あの一流ザーヴェラーのライムント様の弟ですってぇ〜!?」


  早朝の朝日が差し込む教室にその声は響き渡った。ザーヴェラーとは、魔法使いのことだ。今の状況を説明すると、ライムントの弟――エーベルトがピンク髪の女に言い寄られている。

  エーベルトはいきなり詰め寄られ困惑していた。



  時は遡ること数分前。

  入学初日のエーベルトは学園の寮を出て、自分の教室へと向かっていた。しかし、エーベルトが廊下に出た瞬間、廊下に立って話をしていた男や女たちが一斉にコソコソとしだしたのだ。エーベルトは最初何を言われているのか分からなかったが、よく聞き耳を立ててみると、エーベルトとその兄――ライムントが兄弟だという話だった。その噂(事実)は教室へ行っても変わらなかった。そして、教室へと入った瞬間、ピンク髪の女に詰め寄られ、今に至る。


「答えなさい! あなたとライムント様との関係を!」


「だから、さっき言ったじゃないか。本当に兄弟なんだって!」


「嘘をつかないで! 魔法試験全て最下位のあなたと、あの超優秀なライムント様が兄弟なわけないでしょ!」


  そう。エーベルトは、入学時の魔法試験で学年の最下位を取ってしまったのだ。エーベルトにとって1番突かれたくない部分を突かれたため、苦笑しか出なかった。


「まぁいいわ。私はユリアンネ。あなたは――なんだったかしら?」


「え、エーベルトだよ。エーベルト・カールマー! あの優秀な兄貴の弟だよ!」


「くっ! まだ言うの!? あなたね、それ以上言ったら――」


「おらー。お前ら席につけー」


  そう言いかけたとき、教室のドアが開かれ、1人の女性が入ってきた。その後に続くように男も入ってきた。その男を見た瞬間、教室にいた女性達が一斉に喚いた。


「きゃー! ライムント様よー!!」


「かっこよすぎて濡れるぅ⋯⋯」


「きゃー! ライムント様ー! 出来ぞこないの私に、いけない魔法レッスンしてー!」


  などとセクハラコメントも多数あったが、それは置いておこう。

 

「うるせぇ! いい加減静かにしろ!」


  女性達が騒ぎ出すと、教卓に名簿を叩きつけ、教師と思われる女性が一括した。

  さっきまで騒いでいた女性達は、「ヒエッ」といって一瞬に静かになった。すごい能力である。


「自己紹介させてもらう。今日からお前らの担任を務めることになった、ヴェローザ・リーザベルだ。よろしく頼む」


  ヤンキーのような口調をした女性教師――ヴェローザが自己紹介をすると、どことなく拍手が沸き起こった。それに続き、エーベルトも拍手をする。――しないと殴られそうだからだ。


「次はお前らの自己紹介の番だ。私が指名していく。されたやつから自己紹介しろ」


  そういって名簿を見て名前を指名していく。


「じゃあ次は⋯⋯エーベルト・カールマー。ここにいるライムントの弟だ」


「なんですって!?」


  それに一目散に反応したのは、ピンク髪の女――ユリアンネだった。


「なんだお前は。早く座れ。今はお前の番じゃないだろ」


  鋭い目付きで言ってくるヴェローザに対し、一瞬怯むユリアンネだが、それでも食い下がらなかった。

  よほど、エーベルトがライムントの弟だと言うことが気に入らないのか、受け止められないのだろう。


「そ、それはそうですが、なぜ⋯⋯」


「知るか! さっさと座れ!」


「ひゃ、ひゃい!」


  ユリアンネは言われるままに背筋を伸ばしながら座った。


「じゃあエーベルト。続けろ」


「は、はい。俺の名前はエーベルト・カールマーです。そこにいる兄貴に憧れてこの学園に入学しました。みなさんよろしくお願いします」


  言ってエーベルトはお辞儀をする。いい出来かは微妙だが、それなりに紹介は出来たであろう。

  一拍置いて拍手がされたが、エーベルトの隣にいるユリアンネだけは拍手していなかった。


「次。ヨルク・セバスタン」


  名前を呼ばれると、エーベルトの後ろにいた、金髪の男が元気よく返事をして立ち上がった。


「俺の名前はヨルク・セバスタンだ!魔法マギアはそれなりに使える! それと! 小さい女の子が大好きだぁ!」


  そう変わった自己紹介をすると、笑い声と引く声が入り交じった。小さい子が好き――つまりロリコンである。教室に数人はいるよく見た目が幼い子は危険だから避難した方がいいだろう。


  その後も自己紹介は続き、最後の1人が発表し終え、自己紹介は終わりを迎えた。


「よし、自己紹介は終わりだ。改めて教師の方から自己紹介だ。私はヴェローザだ。そしてこっちが副担任の――」


  そう言うと、ヴェローザの隣にいたライムントは、可憐にお辞儀をし、言った。


「俺の名はライムント・カールマーだ。もうご存知の通り、そこにいるエーベルト・カールマーの兄だ。あまりエーベルトを困らせないでやってくれ」


  ライムントはそう言いながら、エーベルトに眼帯をしていない方の目を合わせてきた。それに返事をするかのように、エーベルトは苦笑した。教室からはさっきよりも小さい声で悲鳴が上がった。


「これで以上だ。今日はもう何もない。寮に戻るように」


  そうとだけ言い残し、ヴェローザは去っていった。ライムントもお辞儀をしてから去っていった。

  教室はいっきにざわめきだし、次々に教室を出ていった。


「よっ!エーベルト!」


「うわっ!」


  突然後ろから声をかけられ、肩をビクッとさせるエーベルト。後ろを振り向くとそこには、ロリコンのヨルクがいた。


「お前本当にライムントさんの弟だったんだな! すげーよ! 魔法マギアはどのくらい使えるんだ?」


「魔法は何にも使えないんだ⋯⋯。その証拠に、魔法試験は実技、筆記共に最下位だからね」


  エーベルトが苦笑しながら言うと、ヨルクは驚いたという顔をした。まぁ当然と言えば当然である。ライムントは、実技、筆記ともに満点、あの超強大な力を持つ『マギアビースト』討伐の前線に選抜されるほどの実力を持っているのだから、弟の、実力もあると思われても仕方がないのだ。


「へぇ〜! 意外だな! ライムントさんが優秀過ぎて弟もやばいと思ったけど、そうでもないのか」


  エーベルトはなんだか貶されている気がしてならなかった。


「まっ! そういうことか! 俺のことはヨルクって呼んでくれ! 小さい可愛い子見つけたら教えてくれよ?」


  「またな!」そう言ってヨルクは教室から出ていった。小さい子を見つけても安全な場所に避難させようと思ったエーベルトであった。

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