短編集ー夢

三条 かおり

恋愛小説

「小説みたいな恋をしたいって、本気でじゃないけどまあ、憧れはあるよね。でもごく平凡な一般人にはとてもそんな恋は訪れないってか、ならないよね。美男美女とかじゃないと絵にならないしさ。小説みたいな胸キュンな展開を自分達に当てはめてみ?いやないないって思うから。だけどさ、可能性があるとしたら付き合う時と別れる時だと思うんだよね。ほら、起承転結的な。一応、イベント、転換点、人生の岐路!って言っても私たち、付き合い始めはめっちゃありきたりだったけどね。だから、最後のチャンス。これ。ね?だから何か無いわけ?ねえ。」


彼は律儀に、句点ごとに「うん」と言う。精巧な機械みたいに。私が喋り続ければ、彼も「うん」と言い続けてくれそうなくらい、音も色も長さも、多分同じ。多分聞いてない。私が何を言ったって、私が息をついた瞬間、自動的に彼は口を開く。多分「うん」とその言葉しか今の彼にはプログラムされてない。


私は機械じゃないから永遠には息が続かない。彼は精密だからその隙を逃さない。ああ、冷蔵庫の二人分のカレー。最後にそれくらいは食べてくれるかな。それとも泣きながら一人で食べた方が小説っぽいかな。ああ、聞こえた音を、脳が理解するまで、お願い、待って、あと、少し。

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