2020.07 TEXT 細く長い蜜月

■2020.07 細く長い蜜月


 私はボーイズラブ(BL)小説を書いています。ボーイズラブとは男性同士の恋愛を題材にした物語群のことで、ボーイズラブという言葉が存在しなかったころからのお付き合いです。昔はやおい、JUNE(オリジナルジュネ)、耽美と呼ばれておりました。なので「BLって何?」「腐女子って何?」「オメガバースって何?」と思いながらも細々とこの業界と付き合ってまいりました。


 これがなかったら、私はBLを卒業していただろうという出来事がふたつあります。

 木原音瀬先生の作品に出会ったことと、『ユーリ!!! on ICE 』というフィギュアスケートのアニメが放映されたことです。


 木原先生との出会いは1996 年にBLの小説雑誌に掲載されていた「センチメンタル・フレンド」です。

 「センチメンタル・フレンド」は同じ高校の卒業生が医者と患者になって再会するお話です。整形外科医の攻めは高校時代、受けに好意を持っていましたが、受けが攻めの好意を盾にお金をせびり続けて気まずくなったという過去がありました。現在の受けは女のヒモになっていて攻めとの地位の落差に劣等感を覚えるのですが、私は、相手の恋愛感情のベクトルを上げていくことで話が成立するBLにこんなマイナスの要素を書いていいんだと新鮮な驚きを感じ、「私が本当に読みたかったBL はこれだったんだ」と思いました。

 木原先生はじきに単行本デビュー作『セカンド・セレナーデ』を出版し、次々とヒット作を出すようになります。私はずっと作品を追いかけました。実質的なデビュー作である「眠る兎」が掲載された雑誌のバックナンバーを取り寄せたり、木原先生のお名前を雑誌『小説JUNE』「小説道場」のあと一歩欄でお見かけしたりしたのもそのころのお話です。


 木原先生の作品は他のボーイズラブとは一線を画していて、華やかな攻めや美しい受けはさほど出てきません。そのへんに住んでいそうなふつうの男の人たちが突然エアポケットに落ちるように深い同性同士の恋愛に嵌まるのです。その恋愛に嵌まる過程のリアルさ、拒絶するときの容赦のなさが、木原作品を「切なく」「痛い」と言わしめる原因だと思います。性的指向と関係なく、男が男に恋をする。ある男が同性をかけがえのない存在として見なしてしまう。その運命の苛烈さ、抗いようのなさを、淡々とした筆致で丁寧に書いていく。そこが木原先生の真骨頂だろうと思います。


 私も同じ時期にBL小説を書き始めました。1995年のことです。精神的におかしくなった母親と、息子たちのお話でした。それは弟と兄が恋人になるお話で、子供のころ、兄は母親に虐待されていたという設定なのですが、私はBLの恋愛よりも家族の愛憎の話を書き込んでしまい、BLのLの部分まで辿り着くことができませんでした。


 そして六年後の2001年に別の兄弟の恋愛の話を書いたのですが、その小説を途中で放り出しました。私にはBLの両思いを書く技量がないのだと思いました。その状態が2002年から2016年まで続きました。長すぎる春でした。

 その間、私は自分の創作・雑文のサイトを閉じ、フィギュアスケートのライトなおたくとして過ごしていました。いわゆるスケオタです。

 BLとのお付き合いは読み専で細く長くつづいていました。が、自分は、もう二度とBL小説を書くことはないだろうと思っていました。


 それをひっくり返したのがテレビアニメ『ユーリ!!! on ICE 』でした。

 ユーリを初めて知ったのは、BLのポータルサイトである「ちるちる」の記事でした。ヴィクトルと勇利の熱すぎる師弟関係のPVを観たときは「ふうん」と流していたのですが、フィギュアスケートのコレオグラファーに宮本賢二先生のお名前を発見したときに「観よう!!」と思ったのです。

 宮本賢二先生は髙橋大輔選手や浅田真央選手など、日本のフィギュアスケート選手の振り付けを担当してきた有名なコレオグラファーです。一年で数十人の選手のコレオ(振り付け)を担当する、人気の振付師です。

 賢二先生のコレオに惹かれて作品を観だした私は、うっかり師弟関係の沼に足を踏み入れ、人生で初めて二次創作を書きたいと思いました。

 が、2017年の正月、ふと2001年に書いていた小説の存在を思い出し、それをとっとと終わらせて心おきなく二次創作の沼へ行こうと思いました。

 2017年の一年をかけて小説を書きました。2002年までに書いた五万字と、2017年に書いた三十万字を足して、三十五万字。それは私が初めて書き上げたBL 小説でした。

 そのときには二次創作の情熱は消え、私はすっかり一次創作(創作BL)の沼に落ち着いていました。そうして私は細々とBL小説を書き始めるようになったのです。


 私がエブリスタを利用しだしたのは、2001年に書いた兄弟の話『Believe In Spring』を転載したかったからです。

 私は当時、18歳未満は閲覧禁止のBL投稿サイトに作品を投稿していたのですが、そこのライトな作風に自作が合わないような気がして、作品の転載先を探していました。そうして流れ着いたのがエブリスタです。

 『Believe In Spring』は、私が1995年に書いた小説とまったく同じ欠点を持っていました。兄弟の恋愛よりも、兄弟の恋愛による家族の崩壊を克明に書いているのです。

 木原先生が好きな自分は、BLのファンタジー的な要素よりも、リアルな描写のほうが好きです。ふつうの家庭で兄弟がふつうに(?)恋愛をしたらどうなるか、自分のなかのリアルを辿って行ったら、お話が恋愛物ではなくホームドラマになってしまったのでした。

 一般小説とBLの中間にある話の落としどころがわからなくて、私は困っていました。そしてBLのLを求める読者さんに引け目を感じていました。

 エブリスタで一番私が助けられたのは、各ページのページコメントでした。連載のときにちょこちょことお話に突っ込みを入れてくれる読者さんの存在に、私は助けてもらいました。BLなのにLの少ないお話に付き合っていただいて、家族の行く末を心配していただいている。私は読者さんに登場人物の心配をさせるのが得意であるらしく、「私はこの家族の母親が一番心配です」というページコメントをいただいたときは、「そうだよね~」と泣き笑いになりながらもとても嬉しかったです。

 私はBLというにはLが少なすぎるという自分の欠点に劣等感を持っていたのですが、エブリスタはそんな自分の中途半端な小説でも細々と読んでくれる読者さんがいるという非常にありがたいサイトでした。

 これからはBLのLをもうすこし増やして、自分のリアルを両立できるような作品を書いていきたいと思います。

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