眼鏡が擬人化したせいで、掛けられなくなった
近藤近道
顔に掛ける
「おはようございます。カケルさん。私はカケルさんの眼鏡。この度、人間の姿になりました」
朝起きたら、女の人が僕の顔を覗き込んでいた。
「えっと、すみません、誰ですか」
僕は眼鏡を探した。
視力があんまりにも低いので、眼鏡を掛けないと人の顔もろくに判別できないのだ。
「ですから、私です」
「は?」
「私はカケルさんの眼鏡です。人の姿になりました。これからよろしくお願いしますね」
女の人は顔を私によく近付けて、笑顔を見せた。
「人になったら、顔に掛けられないじゃないですか」
「私、顔にかけられるの、好きですよ」
「そういうことじゃなくてですね」
「あれ、なにか違いました?」
「まだ人間の言葉に慣れていないんですね」
「はあ。そうみたいです」
と女の人は首をひねった。
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