第五十九話「囮」
徐々に近づいてくる、ヘリコプターの音。
ぼくは壁に空いた穴から慎重に顔を出し上空を見あげると、さまざまな装備を積んだ旧ソ連製武装ヘリコプター・Mi24ハインドが、こちらへゆっくりと近づいてくるのを確認した。朝鮮人民軍が使用しているものだが、中に乗っているのはおそらく……
「飛びなさい」
ヒヅル姉さんが壁の穴から地上へと、飛び降りた。
ヴヴヴヴヴヴヴ。
けたたましい無数の炸裂音とともに、姉さんと
「ヘリオスの連中か」
「む」
何かを感じとったのか、
たたたたた。
タイプライターを思わせる乾いた音と同時に、
「何だ。貴様らは」
「KILL YOU ALL.HAHAHA」
スキンヘッドで眉毛のない白人兵士が、今度は姉さんに向けていきなりM4カービンを発射した。
たたたたたたた。
姉さんは映画俳優さながらの華麗かつ俊敏な体術でスキンヘッドの射撃を
「アンビリーバボー、ジャパニーズ・ニンジャ!」
姉さんはスキンヘッドの頭上を飛び越え、華麗に宙返りしながら両手に持ったデザートイーグルを、地に対し垂直に発射した。
狙うは、防弾アーマーの隙間。
横からの被弾にはめっぽう強い鋼鉄プレート入りのボディアーマーも上空からの被弾に対しては無力であり、肩口から垂直に内臓を貫かれたスキンヘッドは直ちに絶命し、地面に崩れ落ちた。姉さんの人間離れした身体能力と、正確な射撃があって初めてできる離れ業である。
「ジェイコブ!」
スキンヘッドの傍にいた黒人兵士が叫んだ。
仲間の仇を討つべく姉さんにM4を向け引金を引こうとした黒人兵士の顔面が、別方向から放たれた弾丸によって爆散した。茂みの中に潜んでいた
「よくもやりやがったな、ジャップども」
「敗戦国野郎どものケツに鉛弾ぶちこんでやれ。ファッカー」
英語で汚く罵る朝鮮人民軍兵士たちが、軍用ジープに乗って次々とやってきた。
「数が多い。一旦退きますよ。ヒデル。真茶」
姉さんが党本部ビルの裏側へ向けて、駈け出した。
ぼくと真茶も追走した。
ヴヴヴヴヴヴヴヴ。
攻撃ヘリMi24のバルカン砲が
「ヒデル。ヘリオスの狙いは、
刹那、戦闘ヘリから放たれたバルカン砲の弾丸の嵐が、姉さんと
姉さんは〈全能反射〉で
彼女と彼の間を、弾丸の大群が地を
「ち。貴様に助けられるとはな」
「行きなさい」
姉さんが叫ぶと、ぼくは建物の周囲に設置された対空砲へと向かって走り出した。
戦闘ヘリの機首にぶら下がっていたバルカン砲が、こちらへ向けられた。
すかさず
無論拳銃弾でコックピットの防弾硝子は貫けないが、敵の注意がふたたび
その隙にぼくは対空砲置き場のすぐ近くまで辿り着いた。
見張りの兵士が何人か、口から血を流して倒れていた。おそらく
「伏せろ」真茶が叫んだ。
ほぼ同時に、ぼくは身を低くした。
たたたたた。
タイプライターのような音と同時に壁に刻まれる、無数の弾痕。
そのままぼくは木の裏側へ飛びこんだ。
後ろに続く真茶を援護するため、倒れた兵士からAKを奪い、正体不明の襲撃者に向けて弾幕を張った。
ヒヅル姉さんと
シュゴー。
ヘリの主翼に搭載されたミサイルが
「姉さん」
ぼくは〈全能反射〉でAKをフルオート発射、ミサイルの狙撃を試みた。
が、漫画じゃあるまいし、さすがに高速で飛翔するミサイルに当てることはできなかった。
ぱああん。
凄まじい轟音とともに党本部ビルの正面の壁が爆砕され、一階と二階がシルベニアファミリーのセットの如く
『
耳に装備した無線機から、姉さんの声が聴こえた。
そうしたいのはやまやまだが、ぼくたちの眼の前に立ちはだかるこいつが、安々とそれを許してくれるとは思えない。
陽の光を浴びて
「白金ヒヅル、そして白金ヒデル。お前たちが苦しみもがいて死んでいく様を見ることができて、嬉しいわ」
オフィーリア・ベレスフォード。
半年前、
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