第四十九話「愛情戦隊」
「
居酒屋・
その
「何だ、どうした」
「貴様あ」
出会った時から終始ロボットのように無表情だった〈黒電話〉こと
「しかし、彼の背後にはいつの間にか緑の全身タイツに身を包んだ大男の姿があった。……なーんちって」
そう、
くしゃ。
まるでアルミ缶でもたたき潰すように、その酒樽の如き巨大な鉄塊は、圧倒的質量で
「くそ」
ぼくは〈全能反射〉により、〈緑色〉にワルサーPPKを発砲したが、彼はその巨体に似合わぬ獣のように俊敏な動きで、ぼくの銃撃を
「先輩」
忍美が叫ぶと同時に、ぼくは転身した。
ぱあんぱんぱん。
いつの間にか背後に回りこんでいた
真茶が素早くトーラス・カーブをポケットから取り出して銃撃するも、
「え。ちょっと、何」
ぼくたちと同じ
「ばか。来るな」
とっさにぼくは
……が、時すでに遅し。
しかしそれも束の間、「きゃあ。変質者」と、すぐに金切り声をあげて暴れだし……
ごん。
〈赤色〉に頭突きされ、
「こっちだ」
どういうわけか〈赤色〉はぼくたちに
時刻は夜の十時を回り、濃紺の空には薄い
外に出たぼくを待っていたのは、赤、青、黄、緑、そしてピンク、と、色とりどりの全身タイツに身を包んだ異様な……そう、まるで日曜朝に子供が見る特撮の戦隊ヒーローのような格好をした奇怪な連中だった。
彼ら五人は一個の生命体のように息のぴったりあった俊敏な動きで、各々が
「勇敢なる切込隊長、空手マスター
「中国拳法の達人、カンフー
「怪力巨漢、ハンマー
「剣豪外人、サムライ
「そして四人の力の源、愛の源泉・ラブリー
「五人揃って、愛情戦隊ラブファイブ!」
最後は五人全員声を合わせ、本当にどこかの戦隊ヒーローのように大見得を切った彼らの表情は、真剣そのものであった。
ぼくはどう反応したらよいか戸惑ってしまったが、すぐに頭を切り替え、ワルサーPPKの弾倉を交換した。
程なくして真茶や忍美、
「お揃いでようこそ」
ベンツの中には、ふたつの人影があった。
ぼくはそのうちのひとり、助手席側に座っている、蒼きスーツに身を包んだ
こいつは、想定外の大物がいたもんだ。
ナサニエル・ブラックメロン。
米軍需産業大手ハルバード社のオーナーであり、秘密結社ヘリオスの頂点に立つブラックメロン家の次男。
「朝鮮人民解放戦線の面々でよろしいかな。私の名は」
「上様」
ナサニエルが名乗りを上げようとしたところ、運転席にいた長い巻き毛の金髪が印象的な妙齢の女性が遮った。
「敵地です。不用意に名乗らぬよう。元々私はこの実験と、あなたの来朝には反対だったのですよ。それを無理矢理押し切っていらしたのですから、この地では私の指揮下に入っていただきます。それが〈総統〉の御意志」
金髪の女性は眉間に
「ふむ。それもそうだな。ごめんね、オフィーリア。以後気をつけるよ」
「ですから、私のことはコードネームで呼ぶように、と……まあいいでしょう」
オフィーリアと呼ばれた金髪の女性は、ナサニエルの無用心さに
ナサニエルが懐から一本の太い葉巻を取り出し
「ありがとう」ナサニエルはその童顔に似合わぬ仕草で葉巻をぷかぷかと吹かしていた。「この国には一度来てみたくてね。〈アレの実験〉をやるにもちょうどいいし、君はとても有能だと聞いているから、何とかしてくれると思ったんだ。まさか、我が国の兵士を使って実験するわけにもいかないしね。……さて、
「ですから。コードネームで呼ぶように、と……はあ」
ナサニエルが性懲りもなく不用心に
「問題ありません、
なるほど。
どうやら
「〈実験〉ねえ。さしずめ私らは、あの化物どもの性能をテストするための当て馬ってところか」
いつの間にかギターケースからVSSを取り出していた真茶が、憎々しげに言った。
「てめえ。よくも
「くたばりやがれえ」
殺意を剥き出しにした
五人の〈戦隊〉は、
ぐしゃ。
直後。
ダンプカーが正面衝突したようなすさまじい破砕音とともに、
腹部が大きく
数瞬して、今の
「うるさい。だまれ」
「う。げ。おえ」
そして、すぐさま
苦痛か恐怖か、あるいはその両方か、
すでに事切れてしまったであろう
「これがぼくたちの〈愛〉の力だ」
ブラックメロン家次男ナサニエルが、微笑みながら拍手していた。
「うんうん。いいね。素晴らしい力だ。〈人工全能〉を凌駕すると銘打っただけのことはある」
ナサニエルは眼の前で起きた血の惨劇に眉ひとつ動さず、自らが所有する軍需産業の生み出した〈生物兵器〉の、そのあまりに凄まじい性能に、満足しているようだった。
「うふん。素晴らしいわ。イエロー。ご褒美よ」
桃色の全身タイツに身を包んだ、おそらくは五人の中で最も年長と思われる
隙だらけだったので、真茶がすかさずVSSで蜂の巣にするべく狙いを定めた。
……が、
「アイム・サムライブルー! イエー」
そのまま
持ち前の超聴覚により
「くそ。何だ、今のふざけた動きは」
あの真茶が、
彼女の右脇腹はぱっくりと裂け、鮮血がぼたぼたと
まずい。
あまりに想定外の展開だ。
ぼくは混乱し、
撤退。
真っ先に浮かんだのは、その二文字だった。
「おい。ヒデル。ここは一旦退くぞ。私らだけであの化物全員片づけて
真茶が激痛に顔を
「おやおや。お姫様を見捨てて逃げるというのかい。……だが、現実的な提案ではある。
ベンツの中でナサニエルが、冷淡な眼つきと声で、そう告げた。
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