第四十四話「内通者」
当たり前だが「お前
「尋問など認めない。我々を尋問するということは、我々を信用できないということ。そんな連中と共闘することはできない」
先ほどの温和で丁寧な態度を一変させ、ぼくは鋭い声で威圧的に、〈朝鮮人民解放戦線〉の頭目である
瞬時に周囲の空気が凍りつき、しくしくと泣いていた
部屋の出口付近、
刹那、時間にしてコンマ零数秒。真茶がポケットの中から小型拳銃トーラス・カーブを抜き、〈黒電話〉の
彼の横にいた
間髪入れずに
「おい、やめろ。
「尋問は不服かい。
そんな彼に臆することなく、ぼくは
「もし我々の中に内通者がいるというのであれば、それはこちらで調査することだ。我らが
先任者の
しばらく沈黙が続いた。拉致があかないので、ぼくの方から立ちあがり、切り出すことにした。
「ふむ。仕方がないな。行こう。真茶、忍美」
ぼくがふたりを連れて去ろうとすると、
「仕方がない、じゃありません。自分たち〈解放戦線〉のアジトを知られておいて、あなたたちをこのまま帰すわけにはいかない」
抑揚のない冷淡な口調で彼は、そう告げた。
「おい、やめとけ。
「行こうか」
ぼくが出ていこうとした時、「待てよ」と
「まだ何か」
ぼくがやれやれと露骨にため息をついて振り返ると、
「わかったよ、白金さん。尋問はなしだ。ここで仲違いしたところで、
ぼくは一変して柔和な笑みを浮かべ、
「あなたが合理的判断のできる方で良かった、
晴れて同盟再締結となり、ぼくたちは〈解放戦線〉の面々とともに、今後の作戦について協議した。具体的に交わした協定は以下の通りである。
「〈党〉について得た情報の共有」
「〈党〉やその他勢力に襲撃された際の共闘」
「我々白金機関秘密工作部隊が活動しやすいよう
「白金グループによる〈解放戦線〉への物資や活動資金の提供」……この四つである。
夕食を終えると、ぼくたちは一時的な拠点となった居酒屋・
「おい。信用していいのか、あいつら」
疑惑に満ちた眼差しでぼくを見つめながら、真茶は問う。
「いざとなればあいつら全員殺すことはできるが、お前の身に何かあれば私がヒヅル様に責を問われるんだ。もう少し慎重に行動しろ」
真茶は相変わらず鋭い眼つきでふてぶてしく尊大な態度であったが、その言葉の裏には、ぼくを守るというヒヅル姉さんからの言外の任務を忠実に履行しようとする見上げた職業精神があった。先ほどのぼくと
「ありがとう、真茶。心配してくれてるんだね。その心遣いだけでぼくはお腹いっぱいだよ。君は見た目の美しさだけではなく、素敵な
ぼくの
「先輩、先輩ー。うちには何かないんすかー」
忍美が後ろで手を振りながら、ぼくに物欲しそうに訴えかけている。
「そうだな、忍美。君も若くて美しくて朗らかで、女優さんのように素敵な女性だと思うよ」
きりっ、という擬音が聴こえてきそうな
「きゃうん」
まるでぼくにハートを射止められた、とでも言うように彼女は芝居がかった仕草で頬を赤らめ、もじもじしながら顔を背けた。
「先輩もお、さっきすごくかっこよかったですよお。尋問とかうち怖くて怖くて、ほんとは泣きそうになってたっす。くすんくすん」忍美は泣き真似をしながら言った。うん。絶対嘘だ。
「お前らもう結婚しろよ」真茶が茶化すように言った。真茶だけに。
「まあ、何とかなるさ。彼らの協力があった方がこちらも色々と動きやすいのは事実だし、〈党〉の
ぼくが自信に満ちた笑みを浮かべて言うと、真茶が
「そうか。上手くいくといいな。だが、もし連中の誰かがお前や私に危害を加える素振りを見せれば、誰であろうと許可なくぶっ殺すってことだけは、はっきり言っとくぜ」
真茶の、今まで殺してきた人間の
「頼もしい限りだ。ぼくだけでなく、忍美のことも頼むよ。無論〈敵〉が君に銃口を向けた場合は、ぼくも君を護ろう」
ぼくがそう返すと、真茶は得意げに、しかし歪で邪悪な笑みを浮かべた。
「余計な心配してんじゃねーよ。自分の身の心配だけしとけ、ぼく」
「ねー、先輩先輩。ところで、ベッドがこれだけなんすけどお」
忍美が部屋の中央に鎮座した大きなダブルベッドを指さして、言った。周囲を見ても、寝具はどうやらこれだけのようだった。
「ひとり分足りないな。私はソファで寝るから、お前たちふたりで使っていいぞ」
真茶がにやにやしながら言った。
「会って間もない女性と
「あらあ、先輩って
忍美は
「冗談だ。味方であろうと、他人と一緒のベッドで寝るのは落ち着かないのでね。なら、私は床で寝るとしよう」
真茶が露骨に
「なら、真茶がソファを使えばいい。ぼくが床で寝る」
「先輩がベッドでいいっすよ。長旅で疲れてるでしょ」
妙に優しそうな笑みを浮かべた忍美が言った。
「それはぼくの
「何だ。誰も使わないなら私がベッドで寝るぞ」
ぼくと忍美が譲りあいをしている中、真茶が漁夫の利をかっさらうようにベッドに飛びこみ、そのまま寝てしまった。
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