第四十五話「美煐」
「こんなところにぼくを呼び出して、一体何の用かな」
翌日ぼくは、
童顔の
「その。私も日本で暮らしたいんです。
緊張した様子で生き残るために必死にぼくという
「あのね、
ぼくに冷たく一蹴されると、
「君のお父さんには助けられたが、我々が約束したのは、お父さんに何かあった時に君を無事にここまで連れてくることだけだ。
ぼくの突き放した態度に、それでも
「あの。私、学生じゃないです。義務教育は終えてるし、今年二十五歳なので、日本語さえできるようになれば何とか……」
「えっ。同い年だったのかい」
ぼくは間の抜けたような顔で
「なるほど。君が学生の身分でないのはわかったけど、日本に移住してすぐに生活できるわけでもないだろう。脱北を手伝うにもリスクがある。それを手伝ったとして、ぼくに一体何のメリットがあるというのかな。ぼくはこう見えても、日本の治安を守る立場の人間でもある。君を日本に連れて行って、食いっぱぐれて犯罪にでも走られてはたまらないし、責任を問われて養わなければいけないリスクに見あう対価を、君は支払えるというのかい」
ぼくの事務的な返答に、
「き、聞き入れてくれなければ、あなたたちのことを〈党〉に通報する、と言ったら」
肩をわずかに震わせ、小さな声で精いっぱいに、
やれやれ。
ぼくは肩を竦め、露骨にため息をついた。
「ますます
「あなたたちには、血も涙もないの」
残酷な現実を突きつけられた
さすがに
「ぼくたちがこの国を解放してみせるよ、
「無理よ。無理無理。絶対無理。今まで何人も仲間が殺された。パパだって殺されてしまったわ。あなたは〈党〉の恐ろしさを知らないのよ。勝てるわけない。お願いだから、逃げて。一緒に連れてって」
「おい」
泣き喚く
「何を喚いてるんだこいつは。殺しとくか、とりあえず」
その無機質な石造りの仮面のように冷淡な
突きつけられた銃口の冷ややかな感触と真茶の殺気に、
「大方こんな国はもうたくさんだから日本へ連れていってくれ、とでも泣きついてきたんだろう。さもなきゃ私らのことを〈党〉に通報するぞ、と」
朝鮮語がわからずとも、場の雰囲気や声色で何となくわかるのか、真茶の推理は見事に的のど真ん中を射ていた。
ぼくは首を横に振り、真茶を止めた。
「よせ。むやみに一般人を殺すなと言っただろう。それに彼女を殺したら、どのみち〈解放戦線〉との同盟はなくなる。それどころか報復されるかもしれない」
真茶は不服そうにふんと鼻を鳴らし、トーラス・カーブの銃口を下げた。
「甘いやつだな。ヒヅル様なら容赦なく
「姉さんは無闇
ぼくが怒気をこめた低い声で言うと、真茶は肩を
すっかり怯えてしまった
「我々の目標が何か言わせてもらおう。君のように善良な〈普通の人たち〉が安心して暮らせる世界を作ることだ。そしてそれは必ず実現する。約束しよう。だから少しの間だけ、待っててほしい」
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