第十六話「黒獅子組」
あれから二週間が過ぎ、ぼくはさらに二度、つまり計三回、
とはいえ、初回から何か進展があったわけでもなかった。鷹条宮美は、迷っているようだった。ぼくが信用に値する人間かどうか、本当に自分に父を止められるのか。自分に協力した週刊
鷹条宮美は天下のお嬢様学校である
「私と同い年の妹さんがいらっしゃるのね」
「ああ。君とは対照的な感じだけど、根はまっすぐでいい娘さ。機会があったら紹介するよ」
「なぜこの仕事を?」
「妹や君のような善良な人々が安心して暮らせる世界を作りたい。それだけだよ」
「おもしろい方ですね。その星さんという方」
「うん。彼は非常に面白いよ。人情味あふれる熱血漢だが、ちょっと間抜けなところがあってね。女装した男性を口説いたり、アダルトサイトのワンクリック
ぼくの話に聞き入っているうちに宮美の警戒心は次第に薄れ、笑顔を見せてくれるようになった。
だが当然いつまでもそんな真似をあの鷹条総理が許すはずもなく、とうとう宮美は渋谷のマンションから連れだされ、総理が
しかし日本中に網を張っている白金機関の優秀なエージェントとその協力者たちの手にかかれば、日本全国どこに彼女を隠そうがすぐにわかる。そして居所さえわかってしまえば、あとはアルマの虫型ドローンを飛ばして建物の内部構造、標的や警備の配置と動き、人の出入りなど潜入に必要なすべての情報を把握し、彼女を連れだすための策を練るだけ。
アルマのドローンが送ってきた映像を参考に、ぼくたちは白金タワーの会議室で作戦を立てていた。
「いや。やりませんよ。ひとりじゃ。ぼくはジェームズ・ボンドじゃない」
「大丈夫。ヒデルは私が守る」タブレット端末を操作しながら、アルマが静かに言った。以前の人見知りはどこへ行ったのか、その言葉は自信に満ちあふれ、とても頼もしかった。
「万一に備えて、ティキちゃんも呼んだ方がいいかも」雲母が提案した。
「賛成だね。今回ばかりはドンパチなしとはいかないかもしれない」ぼくは
組長宅には、ぼくたちの侵入を予期してか、夜間であっても見張りの組員が巡回しており、宮美の幽閉されている客間までには最低でも三人以上の見張りを無力化しなければならないようだった。組員の武装は多くがせいぜいトカレフやマカロフといった自動拳銃だが、ひとたび騒ぎになれば
だが潜入工作の達人である
二〇一三年十月二十二日深夜零時。作戦決行の
広域暴力団黒獅子組組長・
耳に仕込んだ無線機からアルマが語りかけた。『上出来。ヒデル。標的は変わらず寝室にて入眠中。部屋の前の廊下には拳銃で武装した組員が巡回してる。気をつけて。念のため〈
ぼくは声は出さず、背後を飛び交うカメラ付きのゴキブリドローンに向けて親指を立てた。
今回の作戦も宮美を起こしてぼくたちと共に来る意思があるか否かの確認を行う。それはあくまで任意同行という
だが、今回ばかりは宮美がぼくの誘いを断らないという確信があった。というのも、カメラ付きのドローンで屋敷を観察していてわかったのだが、どうも組長の息子が彼女にしつこく求愛しているようで、その度に彼女はどう
アルマのドローンに頼るまでもなく、ぼくは麻酔銃で廊下を歩いていた組員を眠らせ、宮美の眠っている寝室の扉の前まで辿り着いた。扉には鍵がかかっていたが、単純構造のディスクシリンダー錠で、ピッキングで簡単にこじ開けることができた。
「誰」
鍵を開けた音で起きてしまったのか、部屋の中から宮美の声が聞こえてきた。
ぼくはそっと扉を開け、しい、と、口もとに人差し指を当てて宮美に沈黙を求めた。
宮美は黙って首を縦に振った。どうやら警戒してはいないようだった。
時間がないので、ぼくは単刀直入に訊く。
「来るかい」
彼女の耳もとで、ぼくが
無線機からアルマの声が聞こえた。『ヒデル。組員がひとり廊下を歩いてる。東側のトイレに入った。気をつけて』
ぼくは小声でアルマに訊き返した。「西側の通路には誰かいるかい」
アルマは即座に返答した。『出口付近に
「いや。大丈夫。東側から行く」と、ぼくは返した。
麻酔銃にせよ、ドローンの麻酔針を使うにせよ、無闇やたらと眠らせてしまえば地面に倒れこんだ時の音で侵入がばれてしまう恐れがある。あくまで
宮美は当然無音歩行術の訓練など受けているはずもなく、床の
たーん、という
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