十五
夢葉と黒川先生を救出したぼくたちは、乾さんたちとの合流地点であるポイントCへ向けて、地下水路を北上していった。しばらく歩くとだだっ広い貯水場が見え、通路の出口手前で霧崎が立ち止まり、ぼくたちを手で制した。
「隠れて」
霧崎の指示に従い、ぼくたちは通路の出口から顔だけ覗かせ、辺りを見まわした。
白い学生服の集団と、ぼろ
「よくもやりやがったな。政府軍の犬が」
「先に手を出したのはそちらですよ。そもそもこの地下水路は市の所有であって、あなたがたは不法占拠の犯罪者です」
ひときわ目立つ金色の肩章のついた
白虎学園生徒会書記・
星野の足元には、どてっ
「ああああ。やめてよして」
住人の中年男性が、大相撲の外国人力士並に肥満した
巨大女生徒は、そのまま自らの体ごと彼を押しつぶすように地面にねじ伏せた。
「うっ」
あまりの重圧に耐えきれず、中年男性は失神してしまった。
「
星野が千代野なる巨大女生徒の肩に手を置くと、彼女は反転し、そのまま星野を抱きかかえんと両手を大きく広げた。
「あ。や。やめなさい」
慌てふためいた星野が腰に下げたこれまた豪奢な金の彫刻が施された
霧崎が眉を寄せて言った。
「
「道はわかるのかね」と、黒崎先生が霧崎に訊いた。
「この地下水路の構造は全部把握してる。むしろ把握してないあんたらの方がおかしいわ」
小馬鹿にするように霧崎は
「おまえらも政府軍の犬か」
唐突に背後から声をかけられ、ぼくの心臓は口から射出されんばかりに暴れ狂った。そしてふり向いたときには、もう霧崎のナイフが地下の住人の喉元を切り裂いていた。彼は死んだ。
だが今の騒ぎで、当然連中にぼくたちの存在はばれてしまった。
「プリンセス・ユメハ。見つけましたよ。皆さん、彼女を捕まえるのです。彼女を生け捕りにした者に百万円差しあげましょう。銃を使ってはなりません。他の者たちは殺してもかまいません」
口に
わらわらわらわら。
統率のとれた動きで、刀や槍を抜いた白虎学園学生兵たち十数人がぼくらに向かって襲いかかってきた。
ぼくのワルサーと霧崎のウージーが同時に火を噴き、連中をなぎ倒していく。
たたたた。
ぱあんぱんぱんぱん。
しかし、もともと予備の弾倉まで持ってきていたわけではないので、四、五人殺した時点で残弾が尽きてしまった。
「だめだ。逃げよう」
霧崎が我先にとウージーを投げ捨てて反転し、連中に背を向けて走りだした。敵はまだ十人以上残っている。夢葉や黒川先生を守りながら彼らを倒すのは難しいだろう。ぼくらは霧崎に続いて反転し、走りだした。
どすどすどすどす。
ものすごい足音を立てて、すさまじい勢いで
「逃げられませんよ。こう見えても千代野さんは百メートルを十一秒台前半で駈ける俊足の持ち主です」と、星野が解説した。
「きゃあ」
足を負傷していた夢葉はたちまち千代野に背後から抱きかかえられ、持ちあげられてしまった。
そしてそのまま、千代野は自らの体ごと夢葉を押しつぶすように地面にねじ伏せた。
「うっ」
あまりの重圧に耐えきれず、夢葉は失神してしまった。
「夢葉」
「振り向くなバカ。走れ」
霧崎が強引にぼくの手を引っぱった。
失神した夢葉にわらわらと群がる白虎学園の学生兵たち。
「プリンセス・ユメハは確保しました。発砲を許可します」
星野が淡々とそう言うと、彼の部下たちは一斉に拳銃を抜き、ぼくらに向けて発砲してきた。
走らなきゃ。
逃げなきゃ
悔しさに歯
「夢葉。必ず君を助けに行くからな。必ずだ」
すでに気絶していたであろう夢葉に、ぼくは無駄と思いつつも叫ばずにはいられなかった。
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