神ですかあなたは?

 気が付けば。広ささえ分からない真っ白い空間の只中。


『まさか、キミの様なクズがこのような大戦果をあげるとは、このわれらをしてカケラも予想していなかったよ』


 俺は、影が宙空ちゅうくうに浮き出たような……黒いもやもやと対面していた。ソイツの声は……ニュースで殺人事件とか報道するときに近隣の女性の声をボイスチェンジャーで加工したときの胡散臭いアレ、そのものだ。


「ま、マジかよ。神?」


『神で~~す』


「胡散臭いけど……これはゴッド? 今日はすげえことばっかだな」


『今日もクソも死んでるんだけどねキミ』


「そっか」


 不思議とショックは無かった。


『さて、話を戻すがたしかにわれらはゴッドだ。キミ、何か質問はあるかな?』


「俺死んだそうですけど、これからどうなるんです?」


『無に還す』


「そっか」


『もっと動じろよ……ウソだから』


「え? 神がウソつかないで欲しい」


 明日から何を信じればいいか分からなくなっちまうよ。


『なんなのキミ……まぁ、ホントの事を言えば、われらはキミを異世界に転生させようと思う』


「異世界転生……ウェブで流行っているあの……!」


 言った瞬間、神が馬鹿にしたように「ハハッ」と笑った。


『そういえばキミは、物質的な世界を生きているにも関わらず、非生産的な妄想にふけるのが趣味だったようだね』


「どうも辛辣だな、ほんとにゴッド? 言葉遣いに慈愛足らなくない?」


『キミたちの創作の中でも身勝手で他者を顧みぬ神などいくらでも居るだろ?

そういうパターンだと思ってほしい』


「ハズレを引いたか」


 胡散臭さがストップ高。


『ショックを受けるわけでもなく皮肉を返すか。キミ、人間性があまりにヒネくれているね。タコ足配線の方がまだ整然としているようだが』


「タコ、越えちまったか。俺の中にある万物の霊長としての誇り、刺激されとるぞ」


『ま、それほどヒネくれているからこそのあの最期、そしてあの奇跡と言えるのかな?』


「というか、さっきから言ってる大戦果とか奇跡とかって、なんだ?」


 俺がクズやタコ扱いされてるのは察せるとして、戦果ってのは純粋に疑問だ。


『ああ……キミが助けたあの娘、あの娘自身は何もないんだけど、生きていると優秀な科学者を産むんだよ。例えば高レベル放射性廃棄物を有益な固形燃料に変換する技術を確立したりね』


「マジかよ」


 よくわかんないけどすごい。


「すごい……偉人じゃないですか、多分。俺の血が偉人の役に立てるなんて感慨ヤバいな。恋人ルート目指すべきでしたかね?」


『キミのタネじゃ無理だ』


「かなしみ……」


 種無しと呼ばれたようで異常に悲しい。

 中学のとき、顔は良いもの彼女を作ってはヤレもせず短期で別れ続けた伊藤君、"種無しスイカ"って仇名付けててスマン。


「というかひょっとして、大戦果を起こしての転生なら、何らかのチートを貰えちゃったり?」


『いや、神は平等なんでね』


「神ってつまんねーな」


『仰る通りつまらないさ』


「そう言うなよ」


『なんなのキミ? だいたいキミの功績ポイントは異世界転生するだけで使い切ってるからね』


「生きているだけありがたいということですね」


『そういうこと。ま、でもキミの事は一応真面目に考えているよ』


「そうなの」


 意外だった。

 胡散臭いとばかり思っていたので少し感動したくらいだった。


『ああ。厳正な審査の上でキミの能力は決まる。運命を決める神器よ、いでよ』


 これこそが……神の奇跡!?

 黒いもやもやを中心に、数多の光が螺旋を描いた。

 光はやがて収束し、輝きのなかから3つの立方体が俺の前にふわりと現れた。


 それは、3つの六面ダイスだった。


『ゴッド・チンチロ・タイム』


 チンチロがはじまるようだ。


「俺の感動を返してほしい」


『神はね、結果で示すタイプなんだ』


「待って、品がない。なさすぎる。俺の運命をチンチロで決めないで?」


『井の中の人の子ゴミクズよ。品など人間のハウスルールに過ぎんのだ』


「俺は人間だぞ!」


『綾人クンの~~ちょっといい目を見てみたい~~~』


「このゴッド、あまりに俗!」


『行くぜェェェハッ!』


「ちょっと話聞い……アァ……賽投げられちまった」


 俺の心のルビコン川を軽く飛び越え、神器が出した目は────六・六・六。


『なに……だと』


「ヤバいな、よくわかんないけど強そうだ」


『ルールの理解も知性も足りないな』


「うるせーよ、これなに?」


『2.31パーセントの確率で出る役だ。1のゾロ目ピンゾロに続き上から2番目に強い』


「オッ、ひょっとしてチートですか? やったァ!」


『……確かに高能力だが、6は神界隈でもちょっと不吉な数字でな……』


「おい」


 この神、六分の一で不吉なモノが出るような方法でなんで人の運命決めようとすんの?


『中でも0.46パーセントの確率で出る6のアラシというと……平穏とは程遠い。ぶっちゃけ数奇な運命を辿る』


「チェンジ」


『だめだ』


「……ゴッドチェンジ!」


『神に二言はない』


言葉ごんですらないようですが」


 項垂れた。


『まぁそう落ち込むなよ』


「さっきから思ってたけどフランクっすね神様」


『マトモな神経してたら神なんてやっていけないよ』


「うける」


 心からうける。ウ……ウケ……ウケ…………


「なにもウケない」


『じゃあそろそろ転生させるけど』


「強制スクロール感キツくない? 暖かみがほしい」


『暖かみか。じゃあコーヒー飲む?』


「……神界で飲むコーヒー、興味がありすぎる!!」


『淹れたよ』


「はや、神」


『神で~~す』


 黒いもやもや(神)は陽気だ。神ってこんなもんでいいんだろうか。

 まぁ、人間界(?)でもヒトってこんなもんでいいのかって思うのが多いワケだし、神界も同じでどうでも良いのかもしれない。


 というわけで、いつの間にか俺の目の前に出現ポップしたコーヒーを無言で飲んだ。うまかった。


「言葉もない」


『ありがとう』


「天にも昇るうまさ」


『言葉にしてるじゃん』


何故どうしてこれほどうまいんです?」


『ゴッドの趣味でね。そういうスキルを作ってしまった。コーヒー豆とお湯があるという条件さえ揃えば、それだけで因果・時空を曲げ、至高のコーヒーという結果が産まれてしまうんだ』


「方法が孕んでる巨大なスケールとカップ一杯のコーヒーっていう結果が何も釣り合ってなくない?」


『でもうまかっただろ。気に入ったのならキミにこのコーヒーを淹れるスキルをあげよう』


「なんだろう……せっかくの異世界転生なら他の貰いたいけど……少しありがたい……」


『まぁこれしかサービスするつもりないし、つけとくよ。

じゃあ転生させるね。次目覚めたらキミは赤ちゃんだ』


「って何構えてるんですか?」


 目の前のモヤモヤが、突如出現した……明らかに銃っぽいものを持ってこちらに突きつけている────どう見ても穏やかではない。


『これは神器・ゴッド自動小銃』


「つっこみが追い付かない」


『必要ない』


「ある」


『いってらっしゃい』


「急に冷たい!」


『暖かみはもう切れたからな……あ、現地で困ったらステータスって唱えるんだよ』


「は?」


『それじゃあね』


 暴力的な光と音が響き、たぶん俺はひき肉になった。


 グチャ、という音がやけに近くで聞こえた。


 たぶん血関係の音。想像するのも嫌になりながら、俺は神の御前を(強制的に)退場した。

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