おかると!

矢田愛唯

第一章 出会い

☆出会い☆



 チュンチュンという小鳥のさえずりを聞きながら、僕こと桜田樹さくらだいつきは寮内1階にある学生食堂に向かう。

 今は二学年全員・約170人がこの食堂に来ているので人でごった返していた。

 ゆっくりだが流れていく人の波の外に、ポツリと1人の女子生徒が立っていた。壁にもたれ掛かって腕組みしている。

「おはよう亀有さん」

「おう、ランチーのあさめしーってな!」

 途中で合流していた筋骨隆々の四字熟語が似合う大男、赤羽涼太あかばりょうたがまたつまらないギャグを入れる。

「つまらんぞ赤羽……」

 亀有さんこと黒髪ロングで清楚な亀有蘭かめありらんが何故か悲しそうな声で……ってか泣きながらそう言った。

「死ぬな! 死ぬな赤羽! 自分のギャグが面白くないからって死ぬな!」

「そんなんじゃ死なねーよ! てかいいセンスだった思うんだけどな」

 涼太は顎に手を当てて先程のギャグ(?)を反省しているようだが、

「いや、普通にセンスないと思うよ?」

「グッサリ!」

 僕の言葉が涼太の胸に深く突き刺さったみたいだ。なんか胸を抑えて痛そうな顔してこっちを見ている。

「クッ! 樹がそんなに強かったなんて……検討違いだったぜ。だがこれだけは覚えておいてくれ……」

 涼太は死にそうな声で言葉を継いだ。

「樹よ、魔王を倒してくれ……。バタリ」

「リョーターぁぁぁあああああッ!」

 僕はキリッと亀有さんの方を向く。

「魔王! 許さないぞ! この僕が涼太に変わって――」

「――いいか桜田? 貴様が赤羽を殺したんだ!」

「ぁぁぁあああああ! そうだった忘れてた〜!」

「忘れるの早すぎかよ……」

 こ、これが魔王だって言うのか……。凄い戦闘力だ……。53万はあるぞッ!

「前が空いたぞ」

 亀有さんのその言葉に、

「よ〜し! 今日もたらふく食べたるぞ〜!」

 涼太は一瞬で起き上がって券売機の方へ歩み出した。

 それもそのはずだ。

 この学院には4Gもしくは四天王と呼ばれる人が存在する。

 そしてその中の一柱がファーストG・学食の仙人(Gakusyokunosennin)こと赤羽涼太なのだ。

 しかも涼太はその二つ名に恥じぬようない大食いで、彼より前に食事を済ませないと学食の料理がなくなるとまで恐れられている。

 疑うことのない学院のトップである。

 他の四天王については追々紹介していこう。他にも個性溢れる頭文字がGから始まる超人が何人かいます。



「桜田、知っていたか? 今日うちのクラスに転校生が来るみたいだぞ? しかも双子の」

「知らなかったなぁ。初耳だよ」

「二卵性双生児で、どっちも可愛いらしいぞ」

「ソーセージ!?」

 そんな反応を見せたのは僕ではない、涼太だ。馬鹿な涼太だ。

「ひ、人がソーセージ……ソーセージ人間ってことか!? てことはウインナー人間もいるのか!?」

 亀有は頭を抱えて大きくため息をつき、

「もうその時代遅れなギャグは辞めてくれ。詰まらんし不快だ……」

 と、絶望している感じで言った。

「ギャグじゃねーって。真面目にソーセージ人間がいるなら食べられないか心配なんだよ」

「安心しろ。お前であるまいし」

「そうか。それならいいんだ」

 何がいいの!? 点で言ってる意味が分からないんだけど!?

 しかし涼太はあたかもなんにもなかったかのように、

「米の神様、じゃがいもの神様、にんじんの神様、たまねぎの神様、カレールーの神様に感謝を! いっただっきまーす!」

「いただきまーす」

「いただきます」

 涼太はいつもこの調子なんだよな。

 具材の神様に感謝を忘れないのはいいけど、カレールーの神様ってまとめ過ぎじゃない!? それならもうカレーの神様で良くないかな!?

「それで転校生についてだが、父様曰く、前の学校ではコミュニケーションがあまり上手くいかなかったみたいで、いじめにあっていたそうなんだ。それもけっこう酷い。無視とかそういうレベルじゃない。靴に画鋲が入れられたりとか、プールの授業で足と床にある排水口をロープで結ばれて、無理やり溺れさせたりとか。他には恐喝とか暴力があって、一番酷かったのは屋上から無理やり落とされたんだとさ。2人揃って。奇跡的に怪我は軽かったみたいだ。そしてこれらの全てのことは不慮の事故とか自殺未遂としか捉えられなくて、学校側は隠蔽したそうだ」

 亀有さんの父親はこの学院の理事長なので、2人の転校生が前の学校でどのようであったかが分かる。

 にしても酷すぎる。いや、もう酷いとか次元じゃない。それは完全に犯罪だ。

「そうなんだ……」

 なんと言ったらいいか分からなかった。

 しばらく僕と亀有は押し黙るが、

「クーッ!」

 涼太はそう言って、ジョッキを置く様に皿をテーブルに置く。

 僕達が話している間涼太はずっと真面目にカレーを飲んでいたのだ。カレーは飲み物とはまさにこのことだね。腹壊さない? 大丈夫? ってかスプーンがまだペーパーに包まれたままだけど!?

「お前らもさっさと食っちゃえよ!」

 そう言われてやっと僕は野菜炒め定食に、亀有さんは鯖味噌定食に手を付けた。



 さて、朝のショートホームルームの時間となって、担任の英語担当の馬込うまごめクリスティーヌ椿つばき先生はホップステップジャンプからのくるくるくるりん。

「今日は! みんなに転校生の紹介をしますね! 入って来てちょうだい!」

 椿先生がそう言うと2人の女の子が白を基調とした水色のラインが入ったセーラー服を纏って歩いてきた。

 一瞬初等部の生徒が入ってきたのかと思った! でもその胸のエンブレムは高等部のものだから高等部の生徒で間違いないね。

 2人が中央のところに移動すると椿先生は、

「2人は地方から転校してきて、東京入りしてまだ間もないらしいの! だから色々頼むよ!」

 いじめが原因で、このいじめがないことで定評のあるこの学院に転校してきたんだもんな。まあ、いじめ根絶のために風紀委員会ってのも設置されてるくらいだし。

 2人はやっぱり二卵性双生児だってことが分かる。地は似ているが、細かい部分が少し違う。

「んじゃーあ! 自己紹介をよろしくね!」

 椿先生の言葉に2人は頷き自己紹介をした。

「あ、あたしは永田真希ながたまきです! えっと、よろしくお願いします!」

 真希と名乗った方は乳白色の長いツインテールと紺碧の瞳が印象的だ。見た目は普通に可愛らしい。

「私は希望のぞみ。よろしく……」

 希望と名乗った方は赤色のツインテールで、真希と同じく紺碧の瞳を持っている。こちらも同様に可愛らしい。だけどなんか凄く暗い感じ。

「じゃあ、席はまあカメちゃんとキ君の間の席ね! じゃあこれでホームルームは終わりね!」

 だから『キ』って呼ぶのやめろ! みんなをニックネームで呼ぶってのは心の距離が近くなるからいいんだけど、いくら僕の名前に掴みどころがないからって樹=木でそれは酷過ぎでしょ!

 まあ、せっかくつけてくれたんだから、本人に直接文句は言いませんけど……。

 真希と希望は僕と亀有さんの間に空いている2席に着席した。

 うわー、めっちゃちっちぇー。まじでミニマムだ。

 ミニマムなのでやはり胸も小さいし、お尻もちっちゃい。女子としては魅力的な要素はないが、とにかく可愛さでそれをカバーしているね。



 ☆勧誘☆



 さて、放課後になった。

 亀有さんの提案で、僕達は真希と希望をオカ研に勧誘することになった。

 他にも色んな部活で勧誘をしにきたみたいで、既に色々とパンフレットなどを持っていた。

 そんな2人に亀有さんは話しかける。

「やあ、君達。オカルト研究会に入らないか?」

「おかると研究会……? なんですか? それ」

 真希は小首を傾げた。

「何と言われては困るが、まあ、楽しいことをする部活だ」

 たしかにオカ研には決まった活動ってのはない。オカルトについて研究することなんてあんまりない。

「そうなんですか。具体的にはどんなことをするんですか?」

「そうだなぁ。ゲームやったりラノベ読んだりマンガ読んだりアニメ見たりだな」

「オカルトなのにですか?」

「名前だけの部活って感じだが、お前たちがツチノコを探しに行きたいとか言うならそのような活動もするぞ。とにかく自由かつ楽しい部活だ。それはどの部活にも負けていないと胸を張った言える」

「なんだか面白そうですね」

 お、これは手応えあるぞ!

「あたし達、部活には入らないつもりでした。運動オンチで楽器も吹けなくて、芸術的センスもないですから……。でもただ楽しいことをやっていける部活なら、あたし達も参加できると思います。希望はどう?」

 真希は自分の意見を述べてから無口な希望に尋ねた。

「私はどっちでもいい」

 無愛想な感じでそう答える。それに続いて真希は、

「じゃあ見学させてもらってもいいですか?」

「もちろんだ!」

 この学院ではいじめはおこらないと思うけど、2人がいじめられていたことを知っている生徒は僕と亀有さんだけだから、そんな2人に過去のことを忘れさせて、楽しい思い出で上塗りしてあげたい。

 だから前向きな返事が聞けて本当によかった。



 ☆見学☆



 2人と共に部室棟2階にあるオカ研の部室へ移動した。その最中に僕達は2人に自己紹介を済ませておいた。

「わぁ。ここがオカ研の部室ですか?」

「……」

 オカ研の部室内は関係者以外が見たら大抵こんな反応をする。

 部室の右側には本棚があり、ラノベやマンガが所狭しと並んでおり、左側にはテレビにゲーム機(プレフォーとかその他色々)、ボードゲーム盤があって、中央にはテーブルとパソコン、奥にはソファーや冷蔵庫、台所がある。まあ、一見オタクの家だ。

「そうだ。ここで私達はいつも活動をしている」

「すごいですね。一見家です」

「……本がたくさん……」

 真希と希望はそれぞれに感想を吐露する。

 ちなみに本はこの前涼太と数えたら1000冊くらいありました。

「さあ、ここに座れ」

 亀有さんにそう促されて2人は座る。

「見学と言っても、これといってしようと思っていたことはなかったんだよな……」

 亀有さんがそう頭を悩ませていると、

 ――トントン

 オカ研のドアが叩かれた。

 それに涼太が出た。

「やあ番人」

「やあ仙人」

 ドアの方を向くと、そこには学園一デブの大男が立っていた。見た目は熊。

 紹介しよう。彼は学食の番人と呼ばれる2年の男子生徒だ。

 その二つ名と見た目通り、彼は涼太に負けず劣らずのフードファイターだ。

「もう半年が経っていたのか。はやいものだな」

 亀有さんが「待ってました!」って感じで立ち上がった。

 ――ピンポンパンポーン

『これより、第23回学食の仙人と学食の番人によるフードファイト対決が開催されます。ご観戦なさる生徒はA寮学生食堂へおこしください。繰り返します……』

「ついにこの日が来たのだな」

 亀有さんは呟いた。

 これは11年前から行われて、伝統となった行事であり、1年に2度開催される。

 この学院はけっこうそういう他の学校にはないような行事が目白押しだ。

「真希、希望、今日のところ見学は以上だ。だがお前らも私達について来い」

 2人の頭上には幾つものハテナマークが浮かんでいるが、説明するよりも、実際にしてもらった方がいい。

 すると、ドアの向こうから、

「仙人、番人、移動をお願いします」

 と、この企画を運営している生徒会役員が涼太と番人に声を掛けた。

「おう、分かった」

「了解だ」

 2人の後ろ姿はもはや戦いへ赴く戦士の様だった。



 ☆第23回学食の仙人と学食の番人によるフードファイト対決☆



 食堂は既に観客で埋め尽くされていた。

『これより、第23回学食の仙人と学食の番人によるフードファイト対決を開催いたします。……』

 司会の実行委員長である生徒会長は両者へ激励の言葉を向け、無事を祈っていた。

 学院に来て初日の2人は、初の行事への参加に若干緊張している感じもしたが、なんといってもこの雰囲気に驚いていた。

 そりゃあそうだ。普通の学校ではこんなことはまずないからな。

『では、ルールの確認です。まず最初にどちらが勝つかを観客の皆さんで投票してもらいます』

 司会のその言葉を聞いて、

「投稿するの?」

「……どういうこと?」

 と、2人は揃って首を傾げている。

『その後、制限時間30分でフードファイトを開始します。より多く食べた方が勝者となり、四天王・ファーストGの称号とGHQ・学食半年四半額券を得ます。また、勝った方に投票した生徒全員に学食半年半額券をプレゼントいたします!』

 そう、さっき僕が『実際に体験してもらう』といったのはこのためだ。

 これはただの観戦ではない。観客も一体となって戦うのだ。豪華な景品を巡って。

「この学校はすごいですね。初日から楽しいこと尽くしです!」

「……わくわく」

 真希と希望の2人ともだんだん学院の楽しさを分かってきているようだ。



 投票が終了し、前回覇者である涼太の方が若干得票率がいい。ちなみに前々回は番人で、前回は涼太だった。

 この対決には予選リーグが2つあり、それぞれ仙人リーグ、番人リーグと呼ばれている。これには色んな生徒が参加するが、みんな予選決勝で2人に負けてしまう。だから最近はこの2人のイベントみたいになっている。

 ――カーン!

 ゴングが鳴って、ついに対決が始まった。

「いけー仙人!」「負けるな番人! そのお腹は俺らの希望だ!」「食いすぎて死ねー!」「食い倒れろ!」

 みんなは2人を鼓舞している。なんか暴言みたいなのも混じっている気がするけど、それはいつものこと。

 ちなみに今回の料理はラーメン各種の大盛りだ。

 醤油→塩→味噌→とんこつを順に食べていくという感じだ。

『さあ始まりました! 第23回学食の仙人と学食の番人のフードファイト対決! 今回の解説は2年5組担任の英語教諭、馬込クリスティーヌ椿です!』

『は〜い! みんなー! 楽しんでるか〜い!? 私はめちゃめちゃ楽しんでるよー!』

 椿先生、なんかそれ解説じゃない気がします!

 だが、『うぉー!』と観客達は更に盛り上がった。

 馬込クリスティーヌ椿。彼女はただの英語教師ではない。

 この学院の先生のほとんどは、このような生徒だけで考案した行事に前向きに参加するが、その中でも彼女は抜きん出ている。

 年齢は自称永遠の18歳の35歳。若作りし過ぎな感じがあるが、実際年齢にしては若く見える。『年齢にしては』ってのがポイント!

「あの先生って担任の馬込先生ですよね?」

 真希が僕に尋ねた。

「そうだよ。あとついでにオカ研の顧問でもあるんだよ」

「そうなんですか」

 真希がそういうと、

「……へんなの」

 希望がそう呟いた。まあたしかにそうだけどね。

『両者ほぼ同じタイミングで一度目のお代わりです。早いですね椿先生』

『そうね。でもまだまだ2人ともセーブしている感じかしら』

『そうなんですか?』

『そうよ。彼らの胃袋はもはや胃袋じゃない。四次元胃袋よ。それに見て! メガフェプスよ!』

『メ、メガフェプス!?』

 会長は聞き返した。

『メガトンフェイス食いプランストライク!』

 椿先生、それはあまりにも無理が過ぎます!

 だが、観客達は『うおー!』と雄叫びを上げている。なんで?

『それはどんな技なんですか!?』

『説明しよう。あの食い方を見よ。顔を丼に埋めて食べる作戦! まさなメガフェプスではないか!』

『そうですね! あれは完全にメガフェプスです!』

 ……駄目だこいつら。たしかに顔を埋めてるからフェイス食いは分かるけど、別にメガトンな要素はないし、最後のストライクも意味不明だ。

 てかメガフェプスって動名詞だけをとる動詞の覚え方やん!

 会長もたまにおかしくなるからな。きっと今もそうなんだろうな。

「すごいです!」

「メガフェプス……」

 真希と希望も目を輝かせて2人のファイターを見つめている。

 まあ、2人が喜んでくれるならいっか。

『これはもはやただの大食いではない。超次元大食いよ!』

 椿先生の言う通り、これは大食いの域を脱している。

 そう、椿先生は気づいたのだ。その素晴らしい観察眼で。

 周りから見れば2人は普通に食べているかの様に見えるが、実はそうではい。普段から食事を共にしている僕には分かるのだ。

 実は2人はある大技をしている。

 その名も――、

『FPS!』

『よく聞く言葉ではありますが、どのような技なのですか?』

『FPS・フードピースセレクトは万能だけど、最高難易度の技なの。食べ物を胃に落とすときに、できるだけ低くするために、落下する位置をコントロールする技よ!』

 だから無理やり過ぎ! 今のはメガフェプスよりはよかったとは思うけど。

 更に椿先生は言葉を継ぐ。

『たまに身体を少しずらしているのが見えるでしょ? あれがそうよ』

 いやー、ほんとにうちのフードファイター達は格が違う。

 胃袋のサイズも規格外だけど、その戦法も誰もが予期せぬものだ。

 これまで涼太も番人も全く同じ数だけお代わりしている。

 2人の食べる能力はほぼ互角だ。そのため結末を分けるのは根気と技である。

 2人ともこの日のために日々トレーニングに励んできたのだ。絶対に負けられないよな、自分に投票してくれた人のためにも。



 2人は様々な技を駆使し、その度に椿先生が解説しつつも、やかて戦いは終盤に差し掛かった。

 会場のボルテージも最高潮に達している。

「頑張れ頑張れ〜」

「もっともっとー」

 真希と希望も拳を突き上げて応援している。

「クッ! さすが番人も強いな……」

 亀有さんも親指の爪をかじりながら涼太を見守っている。

『残り1分!』

『こっからが見どころよ』

 会長の残り時間のコールを聞いて2人の箸の動きが止まった。

 いや、止まってなどいない。むしろ速い。速過ぎて止まって見えてしまっているのだ!

『UKだ!』

 何度か涼太が披露してくれたから僕もそれを知っている。

『UK・ウルトラ吸引はラーメンフードファイトの中で最もポピュラーにして最も汎用性が高く、最も有効的な技だ』

 2人の吸引力はダイソンにも匹敵するものだといわれており、そしてちゃんと吸引力が変わらないのだ。そのため歩く掃除機とも呼ばれている。

 そんな2人は最後の最後でその技を使ってきたか。

 ――ズルズルズルズルズル――

 すさまじい肺活量を全力で使って麺を啜る。

 これは非常に疲れる技らしいので、あまり長く使えないから、最後に持ってくるのが定石だそうだ。

『すごいです! 今まで見てきた中で最も白熱してます!』

『2人とも今回はより本気だね』

 刻一刻と制限時間が迫るが、

 ――うぉー!

 会場は今年一番の盛り上がりを見せている。

 ――カンカンカンーン!

 試合終了のゴングが鳴った。

 涼太と番人が同時に箸を置くと、更に歓声が大きくなる。

 2人ともたった30分で15杯を平らげ、16杯目に到達していた。

 なので実行委員2人が仙人と番人のカップを回収し、軽量を実行した。

『ななななんと! 同じ重さです!』

 一瞬時が止まったかのように静寂した。

 ってとこはつまり、引き分けってことか……?

『ひ、引き分けです!』

 会長は叫んだ。

『今まで何年間もこのイベントに参加してきたけど、こんなのは初めてよ』

 この学院で10年以上も務めている椿先生ですら、このような出来事を見るのは初めてなようで、非常に驚いている。

「おいおい、どーなるんだよ!」「計量し直せ!」「勝敗をハッキリさせろ!」「再試合しろ!」

 などと、観客から抗議の声が飛んできている。

「はわわぁ。一体どうなるんですか?」

「……引き分けなら投票は?」

 真希は周りの迫力に圧倒されて手をわたわたさせているが、希望は騒ぎの根底となる疑問を呟いた。

『静粛にお願いします! せーしゅくにー!』

 会長は騒ぐみんなを鎮めようとするが、一向に収まらない。会長はムスッとした顔をする。



 しばらくすると、緊急会議が開かれ、

『審議の結果。この度の対決は引き分けとします。なので、四天王・ファーストGの称号は2人に渡されることになります。そして、投票に関しては投票された全ての方に、学食半年四半額券を贈呈します!』

 会長はそう説明した。

 会場は再びドッと沸いた。

『はいはーい、静かにー! じゃあ控えを持って大会本部の方まで来てねー! 券渡すからー!』

 椿先生がそう言うと、生徒達はゾロゾロと列を作って実行委員である生徒会役員の元に並んだ。

「ははは! 楽しかったー」

「初日から充実してた」

 真希と希望はそう言って、座って固まっていた身体を同時に背伸びしてほぐす。

「どうだ? これが我が学院だ。他の高校とは格が違う」

 亀有さんはボインな胸を張って自慢げに言った。

「うん、前の学校はこんなイベントなかったもん。だからすっごく楽しい!」

 真希は笑顔をキラキラ輝かせる。

「こういうのがたくさんあるの?」

 希望は小首を傾げている尋ねてきたので、それに僕は答えた。

「月に2、3個はあるよ。もっと多い月もあるけど」

「じゃあいっぱい楽しんだね」

 あんまり表情を変えない希望もちっちゃく微笑んでる。

 2人の笑顔が見れて本当によかった。

 こんな様子じゃ酷いいじめを受けていたようには到底思えない。きっと周りから悟られたくないと思っているんだろうな。



 僕らは学食半年半額券をもらった後、そのまま食堂で食事を済ませた。やはりついさっきまで大会会場であったので人でごった返していた。

 その後、僕と涼太、亀有さんと真希と希望で大浴場で入浴をし、それから休憩室で真希と希望に今日の感想を聞いたり、歓談したりして、この日は終わった。



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