はるか彼方へ

26

前編

澄んだ空の下、わたしは独りで死に場所を探していた。

よく考えなくてもわたしは生きるべき人間ではなかった。婚約者がいるのに女と床を共にしたり、働くことを諦めて昼夜問わず遊びに遊んだ。ついに恋人に死んでしまえと言われてしまえば、わたしは自分を直そうとせず簡単に死を選ぼうとしている。

あぁ、あんなところでいいや。と見つけた、ちいさな橋の上で、傷だらけになった髪の短い幼女に出会った。彼女とはいちども出会ったことがない筈なのに、どこか何度も見たことのあるような不思議な感覚であった。

「兄ちゃん、なにしにきたの。」

蚊の飛ぶような声で女の子は訊いた。わたしは死ぬことを悟られたように感じて、何も言えなかった。

「あたしね、ここから落っこちる人何人も見たんだ。」

川の流れる音と、風が木々をかすめる音が聴こえる。

「落っこっちゃったら、あたしも楽になれるかなあ?」

彼女は橋桁に足をかけた。わたしは彼女の雰囲気に飲まれ、なにもできなかった。緊張が走った刹那に、彼女の姿は水面に消えた。

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