第2話 ピンク編 その2

 2048年、イエローストーンの破局的噴火とともに、地球は氷河期に入った。

 映画デイアフタートィモローを彷彿とさせる都市パニック、竜巻・津波など自然災害の連鎖が続き、世界人口は半減した。21世紀後半の50年を、人類は「環境適応」のために費やした。それから二世紀。

 地球は全球凍結した。

 不幸中の幸いなのは、気象学者の予想通りの「凍結」完結には、まだ至っていないということかもしれない。地表の平均気温は、未だ零下五十度まで至っていない。海洋凍結も、厚さ千メートルには至っていない。二百年という年月は、地質学的には一瞬だ。これからが寒冷化の本番だ、ということで、各国政府の見解は一致している……。緯度の高低にかかわらず、地球はまんべんなく氷雪が降り注いでいる。極地から徐々に寒冷化でなく、斉一的に気温低下したのは、火山灰の影響というのが、大方の研究者の見解だ。

 地熱地帯、温泉地、火山地帯に続々と新しい都市が生まれた。

 海浜地域のように、従来と同立地上にある都市もある。たいていは地下化したり、シェルターが林立したりしている。そう、限られた生存可能地域、エクメーネに人々は集中的に住まうようになった。

 新しい世界には、新しい世界なりの、新しい仕事が生まれることになる。

 たとえば、これら新都市の建設。地下農場、氷下農場の開発。多種多様な風力発電の運用。私が今、従事しているアルベド改善事業も、その一つだ。

 アルベドとは、天体の外部からの入射光に対する、反射光の比である。天体が白ければ白いほど、この反射能の比率は高くなる。地球でいえば、太陽の反射の度合いが強すぎて、地表を暖めてはくれない、ということだ。地球寒冷化の各種研究は、この全球凍結のプロセスが、負の悪循環であることを教えてくれる。すなわち、全地表が凍結し、白くなればなるほど、太陽熱は反射され、地球を暖めてはくれなくなる。

 対策は、単純だ。

 氷雪に、黒い色をつける。融雪剤の散布。スコップ、散水、ドーザーブレイド等による、直接の除雪。経験的に言って、地表がわずかでも露出していれば、そこから雪を融けていく。科学技術の進歩具合はいわばマダラ模様で、低温物理学等基礎研究は盛んなものの、雪かきの現場では相変わらず原始的な方法論が人気だ。

 そして。

 国際連合という受け皿は既に形骸化して久しいが、それでも先進諸国主導で、寒冷化対策の国際部隊が結成された。「アルベド改善同盟」という、何のヒネリもない、けれどどことなくエラそうな名前が、この「雪かき」部隊につく。そう、立派なのは名前だけだ。スクラップ寸前の雪上車、廃校になった中学校校舎を居抜きした基地、そして寄せ集めの人間。まあ「雪かき」するだけのためには、上等な部類の実行部隊かもしれない。

 乏しい予算額が示すように、各国政府のお偉方からは、あまり期待されてはいない。この手の無駄な抵抗にカネを費やすより、低温度に順応するための技術革新を……というのが、国際コンセンサスなのだ。

 もっとも私たちを目の仇にしているのは、石油、電力等エネルギー産業の面々かもしれない。マスコミは絶対に報道しないが、増加の一途をたどる需要のお陰で、ボロ儲けしているという噂だ。

 でも、そんなコストのかかる熱源より、もっと推奨されるべきものがあると思う。

 太陽だ。


 そう、私たちは、人類の命運をかけて、「雪かき」をしている。

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