桜木華凪の握手会
1学期の終業式を週明けに控え、高校生活最初の夏休みに突入する7月半ばの日曜日、俺は華凪が所属しているアイドルグループの握手会に参加していた。ちなみに握手会に参加するのはこれで5度目。しかし、まだ朝だというのに暑い。酷暑だ。どうやら35度を超す暑さらしい。
朝9時、開場。俺は厳重な警備を長い行列とともにくぐり抜け、会場に入った。そして朝10時の握手会開始に向けて、大勢のファンが一斉に走り出し、それぞれのブースに列を作る。また握手会と平行して、ミニライブが午前と午後、計2回行われるが、それはまた別の話にしておこう。
そして俺は真っ先に、華凪が座るブースへと駆け出した。・・・しかし、すごい行列だ。華凪、やっぱり人気あるんだな。
「皆さんお元気でしたか〜?桜木です。今日、握手会に参加する皆さんに私から2つ、お知らせしたいことがあります。握手会に参加する際はまず、手をしっかり消毒して、綺麗にしてから握手会に参加してください。あと、今日は大変暑くなります。水分をしっかり摂って、熱中症にならないよう気をつけてください。以上、桜木華凪からのお知らせでした!」
華凪が拡声器を使い、そう言うと、レーンが開放され、握手会が始まった!
握手会のテンポは意外と速い。1人1回あたり最大5秒で強制終了となり、次の人と握手をすることになる。華凪ほどの人気メンバーとなれば、それが何時間も続き、お昼休憩を挟んだとしても、夕方までひたすら握手をすることになる。華凪は今まででいったい、何人と握手したのだろうか?下手したら、選挙区をこまめに回る政治家よりも、握手をしているのではないのだろうか?
しかし、華凪も脂汗の染み付いた野郎共とは握手なんかしたくないと思うだろう。他のメンバーもそう思っているはずだ。まぁ俺もそうだし、向こうも手汗は気にしているだろうけど。そう考えていると、握手会をやるアイドルも大変なんだな・・・
俺が列に並んでいる間、そう考えているうちに、ついに華凪と握手する番が回ってきた!俺は手荷物検査と金属探知機によるチェックを受け、さらに手前にあった消毒液で手を洗い、ついに華凪と対面する!
「カナギ、おはよー!」
「おはよー!」
「俺、来週から夏休みなんだ!」
「君、学生?私も来週から夏休みなのー」
「ところで、カナギは夏休みはどこ行くの?」
「海と温泉があるとこ!」
「そうなの?俺も行くよ」
「本当!?会えたらいいね!」
握手会で俺に接した華凪の対応は、いつものような『幼なじみ』でも、ましてや『恋人』でもなく、ただ単純に、『アイドルとファン』だった。華凪は普段、ファンから『カナギ』と呼ばれている。そして、俺は華凪との握手会を終えると、時間があったので、隣の会場でやっていたミニライブを見ることにした。華凪からすれば後輩にあたる、2期生や3期生の若手メンバーが中心だったが、みんな華凪に劣らず可愛い。
午後になり、俺は昼食を食べるため会場近くにあるレストランに向かった。ほどなくして華凪からLINEが届いた。LINEには、『彰吾、今日握手会来てくれてありがとう!』と書かれていた。俺は華凪に返信をする。すると、華凪もこれから休憩だということがわかった。そして、昼食を済ませると『華凪、午後からも握手会頑張れよ』というLINEを送り、俺は会場を後にした。そして、華凪から『ありがとう!私、彰吾から励まされちゃった。これからも握手会頑張っちゃうからね!』という返事が来ていたことは言うまでもない。
そして夜になり、華凪が帰宅した。帰宅した華凪は夕食を食べる前に自室に戻った。そして、窓越しに夕食を食べ終えたばかりの俺がいるのを確認するや否や、窓を開け、俺の部屋に入って来た。
「彰吾、今日は握手会に来てくれてありがとう・・・」
「しかしお前、俺が握手会に何回来てると思ってるんだ。5回目だぞ」
「そりゃそうだけどさぁ・・・」
「しかも、ライブにも何度か行ったし」
「うん。それはわかってる」
「5月の武道館ライブの時、全力で歌ってる華凪・・・すげぇ可愛かった」
「え、そうなの?私、彰吾に初めて可愛いって言われたかも」
「いや俺、昔から華凪のことずっと可愛いなって思ってたよ」
「嬉しい、ありがとう!・・・あ、そういえば夏休み、私と一緒に旅行行くこと忘れてないよね?」
「ああ、忘れてねぇよ。こう見えても俺、華凪と2人で旅行行くの楽しみにしてるんだからな」
「さすが私の彰吾!じゃあ、これからご飯食べるからまたね!」
華凪は俺に笑顔を見せ、自分の部屋に戻った。そしてすぐ、夕食のため1階に降りていったのは言うまでもない。
しかし、何を言っているんだ俺。とうとう華凪に可愛いって言っちまった。とはいえ、実際「1億年に1人の美少女アイドル」と言われるだけあって、めっちゃ可愛い。綺麗に伸びた長い黒髪に、雪のように白く、綺麗な肌。いかにも日本的である端正な顔立ち。文句なしの美少女である彼女にブスっていう人はいない。いたらよっぽどのアンチか、美的感覚が異常であるかのどっちかだ。
俺はそんなことを考えながら、風呂に入ることにした。そして風呂から上がり、部屋に戻ると、いつものごとく華凪が俺の部屋に入って来たのは言うまでもない。
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