桜木華凪という女
俺と華凪は3歳の時から児童劇団に所属し、子役として芸能活動をしていた。当時は俺の方がドラマやCMに出演する機会が多かったが、そのせいで俺は小学校を休むことが多かった。一方、華凪はあまり仕事がなく、夏休みを中心に数日ドラマや映画の撮影があるくらいで、学校を休む機会はあまりなかった。小学生当時の俺は、学校に行っても居場所がなく、華凪と話すくらいしか学校生活を楽しめなかった気がする。俺が学校を休んだときは、いつも華凪が学校で何があったか話してくれたな。
中学校に進学すると、俺と華凪の立場は逆転した。俺は仕事は激減し、夏休みを中心に数日ドラマや映画の撮影があるくらいになってしまった。そして中3の時は高校受験のため、1年間ずっと仕事を断っていた。一方、華凪はすぐアイドルのオーディションを受けて、そのままデビューしたため、頻繁に学校を休むようになった。そして高校生になり、俺はまだ事務所に所属している身であったが、横浜市内の近場の高校に進学し、華凪は芸能科のある東京の高校へ進学した。高校生になって2ヶ月、華凪は仕事で遠出する時もあって、華凪の顔を見る機会はかなり少なくなったのだが・・・
「彰吾、たっだいまー!」
夜遅く、俺が明日も学校なのでこれから寝ようと思っていた時、ちょうど華凪が帰宅してきた。華凪は家に戻るや否や、自分の部屋に戻り、隣の家でかつ部屋も隣同士という俺に挨拶をしてきたのだ。華凪はこの日も朝早くから仕事で、今日の服装は6月ということもあってか、半袖でかなりラフな服装であった。
「華凪、着替えするんならカーテンくらいしろよ」
「何よ、今更。それに好きな人なら何見られたって平気だし」
「俺が気にするわ。それにお前、少しはアイドルという立場を考えろ」
「はいはい」
俺が華凪の着替えについて注意すると、華凪はカーテンを閉めた。着替えが終わると、華凪は再びカーテンを開けた。
「彰吾、ちょっと話があるんだけど」
「つーか俺、そろそろ寝ようと思っていたんだぞ」
「5分で終わるから!」
「はいはい」
華凪は俺に話を振る。話の内容は、たわいもないただの会話。お互い今日何があったかについてだ。華凪は今日、朝からテレビ番組の収録だった。そして夕方からはグラビアの撮影。撮影は夜まで続き、撮影が終わると東京で夕食を食べて帰宅したとか。
「彰吾、高校生活は楽しい?」
「うん。友達もできたし」
「そっか・・・」
「何だよ華凪。物思いにふけって」
「ん?別に。何でもない。ところで彰吾、向こうで彼女作ってないよね?」
「俺はまだ彼女なんていないよ」
「そう、安心したわ。彰吾は私だけのものだから」
少し前、俺は華凪から好きと言われた。つまり、華凪は俺のことを15年間、1人の男として愛しているのだ。そして俺も華凪のことを15年間愛している。つまり、両想いだ。しかし、俺は華凪の告白を断った。断った理由は省略するが、華凪はまだ俺のことを諦めていない。
「ありがと、彰吾。こんな夜遅くに私の話に付き合ってもらって」
「俺も華凪と久しぶりに話せてよかった」
「じゃあ私はこれからシャワー浴びて寝るから」
「俺はもう眠いし、寝るわ。お休み」
「お休み」
俺がもう寝ると言うと、華凪は1階に降りて行った。俺も部屋の電気を切り、ようやく寝支度をする。そして俺が眠りの底についた深夜・・・
「やっぱり彰吾の寝顔、可愛い・・・」
パジャマ姿の華凪がこう小言を漏らし、自分のスマホで俺の寝顔を撮っていた。そして、華凪の小言とスマホのシャッター音のせいで俺が目を覚ましたのは言うまでもない。そして・・・
「何、人の寝顔撮ってんだー!」
「何よ彰吾、怒らなくてもいいでしょ!」
「盗撮だぞ、これ!」
「あっ、ごめんなさい・・・」
深夜、俺が華凪を大説教したのは言うまでもない。
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