第270話 ナディアの目指すべき道3

時間を掛けてゴブリンとコボルトの群れを殲滅し、また新たな群れを探す。それを何度も繰り返しながら進み、ボロボロになったナディアがルーク達の下へと戻って来る。


「お、終わった・・・。」

「お疲れさん。かなり使いこなせるようになったな。じゃあ今日はゆっくり休んで、明日は一気に移動しようか。」

「え?もういいの?」


ルークから告げられた予想外の言葉に、ナディアが思わず聞き返す。その顔が非常に嬉しそうなのは気のせいだろう。


「あぁ。ナディアを待ってる間、アースに先の階層を見て来て貰ったんだ。3〜5階層は追加でサソリとワーム。そして6階層以降は岩石砂漠になるけど、特に魔物の種類は変わらないらしい。」

「妾の背に乗って、一気に11階層まで進むのじゃ!」

「11階層以降も一旦偵察して貰って、余裕がありそうならまた練習かな。」

「そう・・・。」


目に見えて落ち込むナディア。ルークは笑いを堪えつつ、徐に取り出した物を差し出す。


「とりあえず晩ごはんが出来るまで、コレでも食って休むといいよ。」

「何よ・・・って、この匂いはプリンね!?」


誰よりもプリンをこよなく愛するナディアは、屋外で匂うとは思えないプリンの匂いを嗅ぎ分けるらしい。どうでも良い豆知識を手に入れたルーク。その対価は当然、手から奪い取られたプリンである。


なんだかんだとナディアに甘いルークは、肩を竦めて晩ごはんの支度に取り掛かるのだった。




翌朝、ルーク達は既に11階層へと足を踏み入れていた。普通であれば、日が沈んだ砂漠は寒い。しかし此処はダンジョン。現実の砂漠とは気温が異なる。故に、まだ薄暗い内からの移動が可能であった。まぁ、エアが本来の姿で移動する為というのもあったのだが。


冒険者がいるかもしれない状況では、ダンジョンの浅い階層に竜が居るのは色々とマズイ。ならば目立ちにくい、薄暗い時間帯を選ぶのは当然の事。


あっと言う間に11階層へと辿り着き、当初の予定通りアースが様子を伺いに行く。待っている間に朝食を準備していると、思っていた以上に早くアースが戻って来た。


「随分と早かったのじゃな?」

「あぁ・・・魔物が1匹も見当たらなかったもんでな。」

「「「え?」」」

「・・・・・。」


予想外の言葉に驚くナディア達。だがルークだけは表情を変えない。


「ナディアの夫・・・心当たりでもあるのか?」

「あぁ。多分ユキが狩り尽くしたんだろうな。」

「「「「・・・はぁ!?」」」」

「いつ食糧難に陥ってもおかしくない状況だからな。狩れる時に狩っておこうと思っても不思議じゃないさ。それより冒険者は居たか?」

「そうか・・・いや。隅々まで見渡した訳じゃないが、目の届く範囲には居なかったな。」

「なら、そろそろルークの姿じゃなくても良さそうだな。」


そう告げるが早いか、ルークは瞬時にシュウの姿へと変化する。もし仮にアースが見逃した冒険者が居たとしても、それ程大勢では無いだろう。


ナディアと共に行動する以上、変な噂が立つのは避けたい。しかし本来の目的である、アークの息子と気付かれないようにする事の方が優先度は高い。ここまで来ればどうとでも言い逃れは出来るのだから、姿を変える事に躊躇いはなかった。



とりあえずは朝食を済ませ、今後の方針をシュウが告げる。


「じゃあ昨日言ったように、エアに乗せて貰って行ける所まで行く。おそらくは21階層で景色が変わるだろうから、そこまで頑張ってくれ。あとはまぁ、何か見つけたら止まってくれて構わないかな。」

「わかったのじゃ。」

「その前にちょっといい?」

「うん?」

「昨日から思ってたんだけど、どうして態々ご飯を作るの?」


ナディアがそう尋ねたのは、常日頃からアイテムボックスに作り置きをしていたのを知っているから。不便なダンジョン内で料理しなくとも、作り置きを出せば済む話だ。浅い階層であれば匂いに釣られて寄って来る魔物は驚異とはなり得ないが、それでも近付かせない方が都合はいいはず。


「あ〜、オレのアイテムボックスなんだけど・・・調味料が入ってる物以外はユキに渡したんだよ。

「全部!?」

「そう、全部。食材確保の為ではあったんだけど、オレも不在がちだったろ?・・・デザートもほとんどユキが持ってるから。」


まさかとは思いつつも、ルークが一つの真実を告げる。するとナディアは真剣な表情でエアに向き直った。


「エア!」

「な、何じゃ?」

「急いでユキを見つけるわよ!!」

「・・・まさか、プリンの為とか言わんよな?」

「そそそ、そんな訳ないじゃない!非常食の為よ!!非常事態なの!」

「「「「・・・・・。」」」」


世界規模の非常事態だし、料理の出来ないユキにとっては毎日が非常事態である。非常食ならば、ユキが食べるのに何の問題も無いだろう。しかしそれ以上に、ナディアにとっての非常事態である。プリンの無い食事など考えたくもないのだ。


全員がそれを察したのだが、面と向かって指摘する者はいない。食い物の恨みは恐ろしいのだから。





ちなみにルークがプリンを持っているのは、直前とは言えナディアの同行を知ったから。普通に作り置きしてあった分を持参したのである。



そしてナディアのアイテムボックスには、500個近いプリンが仕舞われている。これはナディアの全財産なのだ。それに手を付けるようでは、本当の意味で非常事態。ここからは本気でユキを見つける事に注力しようと決めたナディアであった。



同時に実の姉がプリンに負けた瞬間でもあったのだが、ナディアを含めて気が付いた者は皆無である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る