第268話 ナディアの目指すべき道1

唖然とするナディア達の下へと戻ったルークに、理解出来ない者達が質問を投げ掛ける。


「い、今のは何なのじゃ!?」

「魔法じゃないのか!?」

「どうやったの!?」


エア、アース、ナディアが詰め掛けるも、アクアだけは様子が異なる。


「魔力による身体強化・・・だけではありませんね?先に見せて頂いた魔弾に近い・・・?」

「流石だな。魔弾と魔拳は似たような原理さ。」

「「「似たような原理?」」」

「あぁ。魔弾は放出した魔力の威力によるもの、っていうのはわかるよな?」


ルークの言葉に、全員が揃って頷く。簡潔に言うと、魔力の弾丸というのは容易に理解出来た。だからこそ、ルークも難しい説明をしなかったのだ。しかし、魔拳についてはそうもいかない。きちんと説明しなければ、勘違いすると想像出来たのだから。


「実は魔拳も原理は同じだ。」

「同じ、じゃと?」

「身体強化じゃないの?」

「残念ながら違う。」


ルークの予想通り、エアとナディアは拳の威力が上がったと思ったのだろう。


「まさか・・・拳から魔力を放出した、って事か?」

「そうだ。インパクト、は通じないか。え〜と・・・拳が衝突した瞬間に、魔力をぶつけたって事だな。」

「つまり、魔弾と同じ・・・。ですが、威力が桁違いなのは何故です?」

「それは使用した魔力量の差によるものだ。」

「魔力量の差?」

「何故同じ魔力量では駄目なのじゃ?」

「それは魔力が霧散・・・拡散してしまうという性質のせいだ。」



魔力は空気と同様、大気中に存在している。それは魔力が自然に圧縮されたりはしないという事でもある。多少は密度の違いがあるものの、塊になったりという事は無い。つまり、無理やり圧縮しても拡散してしまう事となる。


魔弾は圧縮した魔力の塊を放出する。大きくなればなる程、その難易度は跳ね上がるのだ。無理なく塊にして放出する事が出来るのが、掌サイズだという事。しかも何倍にも圧縮する事は不可能であり、精々1.5倍程度。圧縮と呼ぶよりは、形を整えている方が近いかもしれない。


加えて言うなら、銃の砲塔に見合った銃弾を撃つのに似ているだろうか。



一方の魔拳だが、砲弾のサイズは魔弾と然程変わらない。しかし圧縮する必要は無く、接触した部分から送り込む事が出来る。ほんの一瞬ではあるが、その魔力量は魔弾の比ではない。


圧縮、維持、放出に意識を回す魔弾に対し、魔拳はインパクトの瞬間に放出するだけなのだ。そして魔力は勝手に拡散する。魔弾よりも格段に範囲が広がる分、どうしても貫通力には劣る。しかし拳打の威力も上乗せされる分、威力は爆発的に高まるのだ。



「結局魔力の使い方については格闘と魔法、どちらが良いとは一概に言えない。身体強化は無限に強化出来るものでも無いし、魔力自体を用いた攻撃に使える魔力量も限られるのが短所かな。長所は瞬発力と持久力。加えて一対一の爆発力って所か。」

「疑問なんじゃが、何故魔法は大量に魔力を込められるのじゃ?」

「それは魔力を圧縮している訳じゃないからだ。」

「「「「?」」」」

「例えばファイアーボールだけど、込める魔力が多いとどうなる?」

「・・・大きくなる?」


エアの疑問に対し、ルークが質問で返す。それにアースが答えるものの、疑問系だったのは訳がある。大きくせずに、凝縮する事も出来るからだ。


「普通ならばそうだ。しかしアースが疑問に感じたのも当然だろう。魔法は威力を凝縮する事も出来るからな。」

「それは何故です?」

「魔法の威力を凝縮出来るのは、別に魔力を圧縮している訳ではないからさ。」

「どういう事じゃ?」

「魔法は魔力を凝縮してるんじゃない。変換された現象そのものを凝縮しているからだよ。炎ならばより高温で爆発力の高い物を。氷ならばより強固で低温な物って具合に。勿論限度はあるけどね。」


ルークの説明に、全員が様々な魔法を思い浮かべる。どんな魔法であれ、高等な魔法は威力と共にその範囲が広がる。その方が効果的で手っ取り早い。だからこそ、同じ系統の魔法でも種類があるのだ。



「結局の所、私の戦い方は魔法に劣るって事になるのかしら?」

「いや、さっきも言った通り、格闘と魔法には一長一短がある。高度な魔法は発動までに時間が掛かるからね。距離を詰めてしまえば、ナディアの方が圧倒的だよ。」

「その方法が問題なんじゃない?魔弾で牽制して時間を稼ぐってのも、多勢には厳しいでしょ?」

「そこは使い方だろうな。まさか掌からしか魔力を放出出来ないと思ってないか?」

「え?」

「そうか!足じゃな!?」

「足?・・・まさか、それで移動を?」


流石に足から魔弾を撃つという発想は飲み込んだのだろう。ナディアも馬鹿ではない。そうなると、違う使い方を模索する事になる。


「魔力は使うし、地面も爆ぜる。多用するのは色々と問題があるけど、ここぞと言う時には使えるはずだ。」


魔力の放出による推進力を利用し、急発進や急加速を可能とする技術。地に足をつけて戦うナディアにとって、自ら足場を乱すのは愚行かもしれない。だが、距離を詰める為だけならば有効的だろう。そして近付いてしまいさえすれば、全身が一撃必殺の武器となるのだ。


「それで、私はどうすればいいの?」

「只管魔力操作を学ぶしかないな。」

「・・・そうよね。」



ルークの言葉にガックリと肩を落とすナディア。それもそのはず。魔法を使えないナディアは、これまで魔力操作を学んだ事が無い。元ギルド長ともあって、魔力操作の練習は何度も目にしている。あまりにも地味な光景を思い浮かべたのであった。

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