第255話 閑話 目玉は焼きません3

カレンに頼み、全員揃って転移した嫁達。おもむろにアイテムボックスから武器を取り出し、テキパキと装備して行く。全員が戦闘訓練を行っていた為、これは何の不思議もない。準備が整ったのを確認し、ルビアが声を掛ける。


「準備はいいかしら?それじゃあ作戦を説明するわ!」


ここでルビアが指揮を執るのには、それなりの理由がある。とは言っても、勿体ぶるようなものではない。単に卵について理解しているのが、ルビアだっただけの話。



しかしルビアは説明の仕方を間違える。戦闘面での実力者にはオツムの足りない者、気の短い者が多い。とりわけ獣人はその傾向が強い。自国の軍を指揮した経験により、ルビアはそのクセが抜けていなかった。


「簡単な事よ!手分けして卵を集める事。それが今回の作戦!」

「わかったわ!」

「卵ですね!」

「出来るだけ大きな物を集めて参ります!」

「でしたら私は量に重点を!」

「え?あ、ちょっと!」


今回の成果がそのまま自分達の食卓事情へと反映される。だからこそ、全員の気が逸る。普段は野外活動を行わない事もあって、ほぼ全員が最後まで説明を聞かずに散って行った。冒険者組も釣られて走り去ってしまったのだから、最早始末に終えない。


呆然とするルビアの前に、只1人立っている者の姿。予想外にも、それはカレンだった。


「ちょっとよろしいですか?」

「え?あ、何?」

「卵とは・・・一体どのような外見をしているのでしょう?」

「そこからなの!?」


魔物を討伐する事はあっても、普段は素材を集めたりしないカレン。食材確保に強力し、狩った魔物を丸ごと持ち帰る事はあっても、解体などする訳がない。野菜全てを葉っぱと宣うティナと同等。寧ろそれ以下である。


料理もしないカレンにとって、調理前の食材などどれも一緒。卵なんてものは記憶に無かった。変な話、じゃがいもを手渡されて『コレが卵』と言われれば信じるレベル。これまで騙されずに済んでいたのが奇跡であろう。


下手な事を言えない状況に、ルビアは懇切丁寧に卵とは何かを説明する。実物が手元に無い為、わかり易い例えで。


「トカゲなんかが産む、白くて丸いのがあるでしょ?あれが卵よ。」

「トカゲ・・・あぁ、アレですか!」

「ルークが使うのは鳥の卵だからね!」

「鳥、ですか?・・・では、鳥を見つけて産ませれば良いのですね?」

「間違ってないけど、正しくもないからね!?」


キョトンとしてからニッコリと微笑むカレンの言葉に恐怖を覚え、ルビアがツッコミを入れる。カレンが脅せば何個でも産みそうだが、その前にショック死するだろう。


「そうですか・・・。では早速『鳥』の卵を探しに行きましょう!」

「あっ!・・・・・ヤバイ、嫌な予感しかしない。」


こちらも最後まで話を聞かずに移動するカレン。しかも移動方法が転移である。ルビアの予想を裏切らないカレンなのだが、それが判明するのは数時間後の事。


そもそも、鳥の種類を伝えていないのだから当然だろう。規格外のカレンにとって、鳥とはどのようなモノなのか。その認識自体が怪しいのである。



さらに言うと、慌ただしく散った嫁達は此処が何処なのか確認すらしていない。だからこそ、すぐに悲鳴が響き渡る。ここは世界でも屈指の魔境、エリド村の近くであった。ただし、全員がルークの加護を受けており、誰1人として傷を負う事はなかったのだが。



カレンの事を諦めたルビアが移動しようとした時、突然背後から呼び止められる。


「ちょっと待て!」

「っ!?・・・ルーク!」


ルビアが恐る恐る振り向くと、そこには頼れる夫の姿が。当然すぐに駆け寄り、事情を説明する。全てを聞き終えたルークは、盛大に頭を抱えるのだった。しかしすぐにルビアを叱りつける。


「どうしてちゃんと説明しなかったんだ!?」

「勝手にどっか行っちゃったの!」

「いやいや!ルビアは一言も『ニワトリ』って言ってないじゃないか!!」

「鳥って事は言ったのよ!」


叱る側と叱られる側。ルビアの反論により、双方の認識が一致していない事を悟ったルーク。


「カレンだけじゃない!みんなにも言ってないだろ!!」

「あ・・・・・」


ルークの指摘により、ルビアもようやく理解する。自身を含めた嫁達に対し、共通して言える事。料理をする者が1人もいないのである。この時点でルビアは最初のやり取りを思い出す。そう言えば誰かが言っていた。


「出来るだけ大きな物を集めて参ります!」


と。


先入観からSMLのサイズと思い込んでいたが、そんな詳しい事を知るのはルークとルビアだけ。最初にニワトリの卵を集めると言えば済んだ話。食卓の危機に慌てた事で、簡単に説明し過ぎたのだ。


卵と言ったら鶏卵。そんな常識、この世界には存在しない。ニワトリの養殖もルークの発案である。


あとはルビアも想像出来よう。ニワトリの卵を持って来る者がいないという事を。ここは辺境の中でも屈指の魔境。そんな危険な場所に住むニワトリなどいない。正確にはニワトリのような鳥なのだが、大した差ではないだろう。



この世界にも養殖という概念はある。しかし卵に関して言えば、飼育されているのがコカトリスと言う魔物。これは卵の味が濃厚で、とりわけ貴族に好まれる為に行われていた。しかしルークの作る料理に対し、あまりにも卵の主張が強すぎて却下された経緯がある。即ち、余程の掘り出し物でもない限り、みんなが集める卵ではスイーツが作れないのだ。




地下農場建設の際に聞かされた内容を思い出し、絶望感丸出しで項垂れるルビアの姿がそこにはあった。さらにはルビアの正面で菩薩のような笑みを浮かべ、天を仰ぐルークの姿。


「爬虫類、ダメ!絶対!!」



果たしてルークの願いは聞き届けられるのだろうか・・・。






ーーーーーーーーーー あとがき ーーーーーーーーーー


正直なところブログにて先行公開している状況ですが、こうして投稿サイトを利用するのは非常に手間。一応この閑話は最後まで投稿しますが、その後は本気で利用しません。続きが気になる方は是非、ブログを利用して頂ければと思います。


https://shiningrhapsody.hatenablog.com/



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