第225話 ブランシェ家の秘密1

みんなに叱られ、すっかり大人しくなった学園長。お陰でこれ以上のトラブルも無く、王都の目の前まで辿り着く事が出来た。今は離れた場所で様子を伺っている状態である。


「こうして見ている限りですと、王都内に入る事は出来るようですね?」

「あぁ。それでも物々しいのはやっぱり・・・」

「例のゴブリンとコボルトでしょうね。」


王都への門を警備する人数があまりにも多いのは、魔物を警戒しているからだろう。そうオレ達は考えたのだが、1人険しい表情を浮かべている。


「どうかしたの、学園長?」

「うむ。どうにも腑に落ちんのじゃ。」

「「「?」」」

「招集されたという村人らしき姿が見当たらん。オマケに警備をしとる連中はガラの悪そうな者ばかりじゃ。」

「言われてみれば・・・」

「確かにそうね。」


え?まだ1キロ以上距離があるんですけど、みんなには顔が見えてるの?狩猟民族恐るべし。しかし、ガラが悪いのは問題なんだろうか?オレが言いたいのは、交易してる国なら問題かもしれないが、ほぼ鎖国状態の国なら構わないのではないか、という事である。


他国の者とトラブルになったらマズイだろうが、自国民ならば国際問題になる事はないのだから。



「いつもと違うのか?」

「少なくとも、数日前とは違うのじゃ。」

「あぁ、なるほどね。ルークとティナは、ほぼ交流が無いんだから問題無いと思ってるでしょ?」

「あぁ(はい)。」

「やっぱり。幾ら国外から訪れる者が少なくても、国内での移動があるでしょ?」

「いや、それは同族なら問題無いんじゃないのか?」

「それは・・・」


言葉に詰まるフィーナの様子を見るに、当たらずとも遠からずといった所だろうか。


「問題はそこでは無いのじゃ。村人を含め、実力者の姿が見えん。そしてガラの悪い連中というのは、軍事行動中に和を乱す可能性がある。」

「つまり村人を含めた軍隊が、今は王都にいないとおっしゃりたいのですね?」

「ティナの言う通りじゃ。」


なるほど。学園長は村人と軍の混成部隊が、ゴブリンとコボルトの討伐に向かったと考えているのか。いや、討伐と言うよりも防衛だろうな。


「学園長の言いたい事はわかった。でも冷たいようだが今回、オレ達の目的は魔物の討伐じゃない。」

「う〜む・・・わかったのじゃ。」

「「・・・・・。」」


あえて口にはしなかったが、要請も無しに手を貸す事は出来ない。辺境の村であればすっとぼける事も出来るが、流石に王都で誤魔化すのは無理だろう。嫁さん達が賑やかに食卓を囲う状況で、冷蔵庫からプリンを取り出すようなもの。


約1名、絶対に見逃してくれそうにない者がいるよね?今回の場合、それが王族だという話。立場上、絶対に見逃すはずがないのだ。臣下に示しが付かないし、強かな者であれば賠償請求する事態も考えられる。


まぁ、嫁さん達の家族が危険なら助けに入るつもりだ。ティナもフィーナも、それがわかってるから何も言わないんだろうし。



「さて。ここで景色を眺めてても仕方ないし、そろそろ移動しないか?」

「そうですね。」

「このまま王都で情報収集するの?」

「いや、まずは学園長の故郷を目指そうと思う。」

「それは有り難いが・・・一体何故じゃ?」

「まず1つは、王都に留まると騒動に巻き込まれる可能性が高いという事。」

「高いっていうか、確実に巻き込まれるでしょうね。」


フィーナの言葉に、ティナと学園長が頷く。説明が必要かと思ってたけど、みんなの理解が早くて助かる。


「もう1つは、王都周辺の村と同じ状況に陥ってる可能性があるからなんだ。まぁ、かなり低いとは思うけどね。」

「確かに魔物は王都近郊に集まっているようですが、移動経路までは不明ですからね。遠回りしていないとも限りませんし。」

「そう。それに、1度行っておけばいつでも転移出来るし。」

「ルークぅぅぅ!恩に着るのじゃぁぁぁ!!」


学園長が物凄く喜んでいるので言えないが、必ずしも助けられる保証は無い。だって、連絡手段が無いんだもの。いつでも転移は出来るが、都合良くピンチに現れるとは限らない。まぁ、いたずらに不安を煽るものでもなし、黙っておくとしよう。



「なら、王都を抜けて行く道でいいのね?」

「いいと言うか、私とルークは道がわかりませんので・・・。」

「今更空を飛ぶ訳にもいかないし、フィーナと学園長に任せるよ。」

「わかったのじゃ!」



こうしてオレ達は、王都内を通り抜けるべく門に向かったのである。予想外の展開が待つとも知らずに。






「そこで止まれ!・・・ダークエルフのガキに、エルフが2人。それに人族か?奴隷・・・じゃなさそうだな。順番に身分証を出せ!!」

(随分と偉そうだな?)

(そうね。絡まれるとしたらルークだけど・・・大丈夫?)

(問題無いだろ。今回の身分証はスフィアが用意してくれたし。)


みんなは冒険者ギルドのカードを出すつもりらしいが、オレは違う。色々と学習したのだ。今回の身分証は帝国が発行する正式な書類。『吾輩は皇帝である』って書いてあるのだ。アイテムボックスから取り出し準備万端で待ち構えていると、思わぬ肩透かしを喰らう事となった。


「ティナ=ブランシェだと?確か・・・おい!」

「何ですか、隊長?」

「すぐに調べろ!!」

「はっ!!」


なにやら兵士達の動きが慌ただしい。まさか最初のティナで躓く事になるとは思わなかった。待つ事数分、何かを調べに行っていた兵士達が応援を引き連れて戻って来た。隊長と呼ばれた男に耳打ちし、みんな揃ってオレ達に槍を向ける。


「ティナ=ブランシェ!お前には入国禁止命令が出ている!!」

「「「「はぁ!?」」」」


全く心当たりも無い命令に、ティナ達が揃ってオレを見る。やめて!今回はオレじゃありません!!


「色々と怪しいな・・・。お前達、その男とどういう関係だ?」

「え?夫婦ですけど・・・」

「夫婦だと?・・・・・そうかそうか。」


ティナの言葉を受け、隊長と呼ばれた男が気色悪い笑みを浮かべる。


「人族の男に腰を振るような売国奴は、きっちり取り調べないとなぁ?」

「隊長、なら?」

「あぁ。このエルフ2人を捕らえて、体に聞くしかないだろ?」

「「「「「へへへ・・・・・」」」」」

「たっぷり可愛がってやるよ!来い!!」


ティナに向かって伸ばされる隊長の手。誰もがティナを掴んだと思ったのだが、その手がティナに触れる事は無かった。


「へっへっへっ。・・・あれ?っ!?何だ貴様は!!」

「オレの女に色目を使っただけじゃなく、勝手に触れようとしやがって。まぁ、今回は腕1本で勘弁してやる。」

「何だと!?」


ティナの前に移動したオレに驚き、声を上げた隊長。ウチの嫁さん達は美人揃いなので、何時かこういう連中が現れるとは思っていたが・・・まさか美形のエルフも、とは。


「た、隊長!腕が!!」

「あ?腕?・・・なんじゃこりゃあ!!!」


部下の指摘にようやく気付いた隊長が悲鳴を上げる。腕が無くなっているのだから無理もない。ちなみにだが、腕を斬ってから傷口を塞いでやったので死ぬことは無い。返り血を浴びるのは嫌だし、殺さなければ言い逃れは出来る。・・・はず。


「「「「「貴様!!」」」」」

「待つのじゃ!このティナという者は、守護神であるアスコットとエレナの娘じゃぞ!!」

「なっ!?」


仲裁に入った学園長の言葉に、兵士達が驚きの声を上げる。


「・・・エレナだと?嘘を吐くな!あの女が子供を産めるはずがない!!」

「なんじゃと?」

「あの女はなぁ、若い頃に大怪我を負ったんだ。そのせいで、子供を産めない体になっちまったのさ!」

「「「「っ!?」」」」


全く信用出来ない相手の言葉だが、オレ達が動揺するには充分な内容だった。そして隊長は更に畳み掛ける。


「アスコットも馬鹿だよなぁ。あんな欠陥品なんか捨てて、他の女に乗り換えりゃいいものを。」

「何故お主がそんな事を知っておる!?」

「あ?そんなもん決まってるだろ?その時同じパーティにいたからだよ!」

「「「「っ!?」」」」


この男の言葉、何が真実かはわからない。しかし丸っきり嘘を吐いているとも思えないんだよな。意味が無いんだから。どうせ嘘を吐くなら、もっとマシな嘘を吐くはず。


更に言えばオレの時とは違って、ティナとエレナはソックリだ。親子に見えないとしたら、思い浮かぶのは姉妹って程に似ている。


「嘘・・・お父さんとお母さんが・・・・・」

「ティナ!・・・くそっ!!フィーナ!?」

「ごめんなさい。私も知らないわ・・・。」


完全に動揺しているティナに呼び掛けるも、心ここに非ず。事情を知っていそうなフィーナに呼び掛けるが、彼女にも動揺が見られた。


身動き出来ずにいるオレ達とは対象的に、兵士達が冷静さを取り戻す。こんな事なら隊長の腕を止血するんじゃなかった。


「貴様は徹底的にいたぶってから殺して・・・いや、貴様の目の前で女共を犯してから殺してやるよ!!」

「・・・ここまでオレを怒らせた馬鹿は久しぶりだよ。」

「あ?」


このまま王都と一緒に消し飛ばしてしまいそうになるのを必死で堪える。今は争うよりもティナのケアを優先したいからな。


「明日、アストラル王国に対して正式に抗議させて貰う。」

「何だと?」

「あぁ、そう言えば名乗ってなかったな。オレはフォレスタニア帝国皇帝、ルーク=フォレスタニア!精々首を洗って待っている事だ。」



何だか悪党の捨て台詞みたいになってしまったが、今はそれどころじゃない。ティナ達を連れて城へと転移したのだった。






残された兵士達は、と言うと ーー


「消えた・・・」

「帝国の・・・皇帝陛下?」

「不敬罪なんじゃ・・・」

「た、隊長!」

「う、五月蝿い!すぐに城へ向かうぞ!!」


普通、悪党ならばもみ消す為に報告しないか逃げ出すだろう。しかし彼等は違った。素直に城へと報告に向かったのである。だがそれは、自らの首を差し出す為では無い。



彼等が罪を犯しても咎められる事無く兵士を続けられる理由。それが城には存在していたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る