第204話 帝国の決断4

アークによって両肩を押さえられた美少女が必死に抵抗し始める。


「放して!チョコレートパフェが呼んでる!!」

「いや、呼んでねぇし逃げねぇよ?」


必死?ある意味必死だ。


「逃げなくてもヴァニラに食べられる!」

「ガ〜ン!」


引き合いに出されたヴァニラがショックのあまり、両手を床につけて項垂れる。そこまで食い意地を張っていないと思うのだが、否定しない辺りが少しだけ怪しい。


「あ〜、お取り込み中悪いんだけどさ・・・誰?」

「誰って・・・何となく察してるだろうが、一応紹介しとくか。いや・・・その前にメシにしよう。」


自己紹介なんて数分あれば終わると思って聞いたのだが、女性達の視線がチョコレートパフェに釘付けなのに気付いたらしい。手に持つチョコパフェを動かしてみれば、犬や猫のように首ごと視線が追い掛ける。このままではオレが危険かもしれない。とりあえず持っているパフェを収納した。


「「「「「あぁぁぁぁ!」」」」」

「五月蝿い!これは食後のデザートだから!!」

「みんな、さっさと食べるわよ!」

「「「「「はい!」」」」」


女性陣の責めるような叫びを躱すべく、シメである事を強調しておく。するとどうだろう。初対面にも関わらず美少女主導の下、全員の意志が一つとなった。食い物、特に甘味に対する執念は凄まじい。


最高神の登場という事もあって、事前に人払いを行っていた。使用人もいないので、配膳するのはオレである。まぁ、1人1人の目の前でアイテムボックスから取り出すだけなんですけど。


てっきり出された料理をかきこんでデザートに至るもんだと思っていたのだが、予想に反してじっくり料理を堪能している。非常に賑やかなのだが、オレは信じられない光景を目にしていた。自分でもわかる程に驚愕していたのだが、どうやらアークもオレの表情に気付いたらしい。


「どうした?」

「ティナが普通に味わってる・・・。」

「そ、そうか・・・。」


口いっぱいに頬張り、対して咀嚼せずに飲み込んでしまうティナが女性らしく食べている。こんなに嬉しい事は無い。今にも泣きそうだ。


だが、声を掛けられた事でふと気付く。


「一緒に食べなくていいのか?」

「ここで食べる勇気は無い。後でのんびり頂くよ。」


まぁ、あの中に男1人は拷問だよな。気の毒だし、落ち着いたら渡すとしよう。


「話の方はどうするんだ?緊急事態なんだろ?」

「確かにそうなんだが、あの様子じゃ良くて上の空。悪けりゃ集中攻撃されるだろ?大人しく食い終わるまで待つとするさ。」


お、大人だ。物分りが良過ぎてビックリしちまった。オレだったら「食べながら聞いてくれ!」とか言ってるよ。そんで一斉にムッとされて、こっちはシュンとするんだ。わかってるんだけど、そういう時って慌ててるから余裕が無いんだよな。いや、ドラマとか映画のワンシーンに感化されてるのかもしれない。何かカッコイイじゃん?



とりあえずは食事も終わって、みんながまったりしている。オレはと言うと、順番に空いた食器を片付けてる。だってパフェの器なんてこの世界に無いんだもん。回収しとかないと騒ぎになる。


「・・・ティナ。そんな真剣に器を見つめても、もうお代わりは無いからな?」

「そんな・・・!?」

「別腹で5杯もパフェ食っといてそんな顔すんな!」

「・・・はい。」

「また作るから。」

「「「「「ホントに!?」」」」」

「お、おう。」


ティナに言ったんだが、全員が目をキラキラさせてこっちを向いたので頷いてしまった。20人以上が一斉に食いつくと怖いもんがあるんだよ?


とりあえずティナも笑顔になったので、本来の目的であるアークの緊急事態に移ろう。そもそもオレだって詳しい話は聞いてないんだ。叔母さんじゃないとダメとか言ってたけど、具体的な内容までは聞いてないからな。



「さて、オレが態々ここに来たのはシルフィに用があったからだ。」

「あら?私を連れ戻しに来たんじゃないの?」

「もうここに来ちまったんだから、今更ヴィクトリアを連れ戻す意味は無いさ。」

「じゃあ何かしら?」

「・・・女神カナンの手引によって、異世界召喚が行われた。」

「「「っ!?」」」

「「「「「?」」」」」


驚いているのは美女と美少女とヴァニラの3名。カレンを含めた嫁達は首を傾げてる。かく言うオレもその1人だ。異世界転移じゃなくて召喚?何か違うのか?


あ、美女がヴィクトリアと言ってオレの産みの母。美少女が最高神の妹でシルフィ。オレの叔母さんだ。どう見てもオレより年下にしか見えないから、叔母さんと呼ぶのはやめておいた。どうして改めて自己紹介しないのかって言うと、食事中に嫁さん達と自己紹介してたから。



シルフィは金髪金瞳で、髪はサラッサラのセミロング。パッと見12歳って感じだ。身長は140センチって所だろう。オレの関係者では珍しく、つるぺたすとーんである。悪寒がするのでこれ以上は言えない。



そして母親は絶世の美女だが、正直オレは何も感じない。美人耐性さんが全力を発揮してるのかと思ったのだが、どうやらそういう訳でもないらしい。母親に欲情する程の下衆ではなかったという事だろう。


見た目はちょっと驚きなんだが、紫色のロングヘアで瞳の色は赤。身長170センチ位のダイナマイトボディである。この人を見てると、確かにアレが父親なんだと実感が湧く。容姿の好みがソックリだもの。美人っていうか、妖艶という言葉が良く似合う。大人のお姉さんと表現するのが相応しい。


もう1度言うが、母親に対しては欲情しない。不思議な事に。おっと、激しく話題が逸れてしまった。何だっけ?・・・そう、異世界召喚だ。わからない事は素直に聞くべきである。



「何か問題なのか?それに転移とどう違うんだ?」

「そうか、お前もカレンも知らないんだよな。お前達に嘘も吐いてたし、それも含めて説明しておこう。」



最高神の説明はこうだ。



異世界転移とは異なる世界間を行き来する事で、上級神にのみ許された移動である。一方の異世界召喚とは、『ある上級神』の許可を得る事無く行われる一方通行の移動を言う。ここで言われている『ある上級神』というのがシルフィを指しているそうだ。


異世界転移は王族のみが行えると聞いていたのだが、どうやら王族を含めた上級神というのが正しい表現らしい。何故嘘を吐いたのかと言うと、オレが躍起になって練習し、偶然でも地球に行くのを阻止する為だったそうだ。何やら説明とか準備が必要になるとかって理由みたいだが、確かにこのまま地球に行ったら怪しい人だろう。



「結局問題なのは、帰る手段があるかどうかって事か?」

「いいや、そんな事はオレ達の知ったこっちゃない。言い方は悪いが、自ら命を絶とうとする者を神が止める事は無いだろ?それと似たようなもんだ。いちいち干渉はしない。」


地獄への片道切符みたいなもんか。言ってから気付いたけど、上級神が手を貸せば帰れるもんな。なら問題は何だ?


「上級神は世界に影響を与えずに転移する事が出来るんだ。それ以外の者が世界を渡ると、互いの世界に影響を及ぼす。」

「影響?」

「わかり易く言うと、移動する為に開けた穴が塞がらずに残るんだよ。」

「それってつまり・・・」

「人や魔物が好き勝手に行き来する事になるな。」

「「「「「はぁ!?」」」」」


みんなも驚いているが、オレとは違う意味で驚いているんだろう。みんなは地球からの侵略を恐れているんだと思うが、オレは地球の心配をしている。だって魔物が地球に行ってしまったら、恐らく人類は激減する。滅びはしないだろうが、成す術無く蹂躙されるはずだ。


「まぁ、互いの世界にとって良い事なんか無い。だから制限してるんだ。」

「では今もその穴は空いたままなのですか?」

「スフィアだったか?そうだ。そして唯一塞ぐ事の出来る存在がシルフィだ。しかも正確な場所を感知出来るのもコイツだけでな。他の神々じゃ大まかな位置しか特定出来ないんだよ。」


だからシルフィを探してたのか。最悪場所さえわかれば通せんぼ出来るしな。それならさっさと特定して貰おうじゃないか。


「・・・場所の特定には糖分を消費する。極上スイーツ、具体的にはフルーツタルトが必要。」

「なぁ、妹よ?どうやらじっくりたっぷりねっとりと話し合う必要があるな?」

「労働には対価が必要。これは労働者に保証されるべき当然の権利。権力には屈しない!」

「「「「「・・・・・。」」」」」


いや、叔母さん。カッコよく聞こえるけど、単に自分が食べたいだけだよね?しかもブル○ス・リーみたいなポーズとってるけど、ちっとも強そうに見えないからね?みんなも呆れちゃってるよ?



こんな人がオレの叔母さんなのかよ!?・・・いや、発言や思考を鑑みると正にオレの叔母さんだよ。そして時に現実とは残酷なものである。オレは今から非情な宣告をしなければならない。アホらしいからさっさと言おう。


「残念だけど、今は食材が無いから作れない。」

「ガ〜ン!!」


そこまでショックなの!?言っとくけど、オレもショックだからね!クールビューティな叔母さんを想像してたのに、蓋を開けたら欲望ダダ漏れの少女って何だよ!!もう叔母さんっていうより、近所の後輩にしか見えねぇよ。



「・・・仕方ねぇな。非常事態だから食材は手配してやる。」

「流石です、お兄様!」

「「「「「・・・・・。」」」」」


何処かで聞いたようなセリフに、全員が冷たい視線を向けている。もうシルフィには威厳の欠片も見出だせないだろう。それより気になる事がある。


「女神カナン?の手引って言ったけど、その女神が実行犯じゃないのか?」

「ん?あぁ、そっちの説明がまだだったな。アイツは本当に狡猾な女だよ。直接召喚してたらオレが制裁を加えられたんだがな・・・。単に唆しただけさ。」

「誰を?」

「召喚する側とされる側さ。あぁ、具体的には不明だぞ?オレ達じゃ場所の特定が出来ないから、人物の特定も無理なんだ。」

「そうか。って、される側?」


昔聞いた話だと、こういうのって強制的に呼び出すんじゃないのか?


「ラノベ・・・物語とは違うからな?無理矢理連れて来るなら唆す必要無いだろ?」

「まぁそうだな。」

「簡単に教えると、召喚する側に必要な知識と力を与え、召喚される側の同意を得るんだ。双方の同意を得られて初めて成立する、移籍契約みたいなもんだな。」

「同意が得られてる契約なら問題には出来ないか。」

「何言ってんだ?問題だらけに決まってるだろ。」

「「「「「?」」」」」


これにはオレだけでなく全員が首を傾げる。特に問題は無いように思える。だがそれは、詳しい事情を知らないからであった。


「アナタ?ルークもカレンも知らないのよ?」

「「?」」

「どうして態々転生させたのか、1度も考えた事は無いかしら?」

「どうしてって・・・穴が塞がらないから?」

「私達には穴を塞げるシルフィがいるわよ?」


それもそうか。そもそもシルフィの許可を得られれば転移は可能って話だった。なら何だ?


「ルークに料理を作らせる為?」

「それなら恩を売れば済むんじゃない?」


カレンの答えも、態々転生させる程の理由にはならない。確かに家族ならば頼み易いかもしれないが、返し切れないような恩を売ればいいだろう。


となると、転生と転移の違いに焦点を当てるべきかもしれない。違う所と言ったら・・・


「体・・・肉体か?だが構成自体に目立った差は無いだろ?」

「本当に?」


何だ?体の何処が違う?


「寿命・・・ですか?」

「ブブー。今、神族である事は関係無いわね。」


この世界の人間にあって、地球の人間に無いもの・・・まさか!?


「魔力か!」

「正解!」

「魔力が無いと、何が問題なのでしょう?」

「運が良ければ問題にはならないわ。でもね?この世界で生活する為には魔道具が必要でしょ?魔道具も使えない者が、どうやって生活するの?働く事もままならないわよね?」

「「「「「っ!?」」」」」


あまりにも自然に使っていたせいで、この場の誰もが気付かなかった。この世界の誰もが魔力を持つ。それを大前提として、生活の為の魔道具が流通している。マッチやライターなんて無いし、ランプも魔石を燃料とした魔道具だ。燃料は魔石だから必要ないが、使用時には極少量の魔力を要する。


ど田舎で自給自足をする分には無くても問題ないかもしれないが、街で生活するなら魔力が無ければ話にならない。一切の魔道具が使えないとなれば、役立たずと見なされるだろう。



「冗談・・・だろ?地球から来る者にとっては地獄じゃないか。」

「だから言ったろ?唆された、って。」

「強大な力を与えるとか、チート能力は!?」

「「「「「ちーと?」」」」」

「そんな都合のいいものがあると思ってるのか?出来る事と言ったら、精々加護を与える程度だよ。まぁ、あの女神はそれすらもやらないだろうがな。」


そんなのって、唆すって言うより騙されたって言うべきじゃねぇか!しかもハードモードどころか無理ゲーだぞ!!頑強になった肉体でぶつかり合う、脳筋だらけの格闘ゲームだろ。



他人には興味の無いオレだが、今回ばかりは無関心ではいられなかった。とにかく解決策を聞き出す必要がある。その事だけを考えて、神々のトップ達と交渉する事を心に決めるのであった。

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