第205話 帝国の決断5

色々と言いたい事はあるが、一刻も早く被害者と合流する必要がある。そう考えて、必要な情報を根掘り葉掘り聞き出す事にする。


「最善の解決策は、召喚された者を送り返す事だよな?」

「確かにそうなんだが、もし2度と元の世界には戻らない、って契約を交わされてると難しいな。」

「何とかならないのか?」

「もし騙されての契約だとしても、正式に交わされちまうと無理だ。契約違反でもない限りは干渉出来ない。あの女神が迂闊な真似をするとも思えんし、期待しない方がいいだろ。」


なら次の手は・・・その前に、召喚の目的は何だ?


「そこまで回りくどい事をして召喚する理由があるのか?」

「・・・あるにはある。そもそも神が世界に降りて好き勝手するには条件がある。1つはその世界を管理する主神となる事。今はカレンがそれに充たる。もう1つがその主神を手助けするべく伴侶となる事。それがお前だな。最後の1つが、その世界の者と何らかの契約を結ぶ事。これは契約を結んだ相手が死ぬまでの期限付きだ。だからってエルフ族と契約されたら困るからな。人族限定って制約がある。」


だから産まれた時からカレンの婚約者だったのか。でもカレンが主神なのって、言わば唯一神になったからだよな?ならそれ以前は、カレンも誰かと契約していた事になるのか?


「昔居たっていう他の神々は?」

「・・・中々鋭いな。特例だ。」

「特例?」

「ルークは魔神がどの世界にも居ると思ってるんじゃない?」

「いや、幾つかの世界って聞いた気がする。」

「3つよ。」

「え?そんなに少ないの?」


少なくとも2桁はいってると思ってたけど、たったそれだけか。


「しかも性根の腐った連中が押し込められているの。そこまで大勢でもないから3つの世界に分けて、ね。そして荒くれ者を押さえ込めるだけの力を持った神々が居る世界に限られるわ。ここは全員を封印出来たから、今はカレンしかいないのよ。」

「・・・知りませんでした。」

「他の2つは今も争いが続いてるんだが、お陰でオレ達の目が光ってるんだ。」

「魔神を押さえ込める者達が特例って事か。そして言い換えれば、ここは神々の監視の目が行き届いてない?」

「あぁ。気付いたみたいだが、恐らく女神カナンの狙いは魔神だろう。それをどうするのかは不明だがな。」


魔神達を利用する為に、監視の緩いこの世界で期限付きの自由を手に入れた。居場所も具体的な目的も不明。オレ達に至っては相手の容姿もわからない。お手上げだな。いや、今なら情報は手に入るか。


「女神カナンの特徴とか、何らかの情報は無いのか?」

「そうねぇ・・・素の状態なら一目で気付くと思うわよ?だって金髪金瞳だし、リノアちゃんより少しだけ劣る美人だもの。」


いやいや、少しだけ劣るって言われてもわかんねぇよ?個人の主観が入りまくってるんじゃ、納得出来るとは限らないし。


「最終的な目的ならわかってるだろ。」

「「「「「?」」」」」

「お前の嫁全員の排除。それからルークを籠絡ってのが大方の予想だ。」

「「「「「!?」」」」」

「その女神・・・当然強いんだよな?」

「あ?強いって何だよ?」

「いや、この前加護を1パーセント貰っただろ?あれでレベルが1000も上乗せされたんだよ。って事は、恐らくオレ達の数十倍は強い事になるんじゃないか?」

「レベル?・・・そう捉えたのか。いいか?レベルってのは言わば総合力だ。神にだって得意分野があって、カレンみたいに戦闘に特化してる者もいればシルフィみたいに時空間に特化した者もいる。レベル=戦闘力みたいな考え方は浅慮ってもんだ。」


結局何が言いたいのかと言うと、神々のレベルは神力と能力によって決まるのである。カレンの様に戦う事しか出来ない者は、レベルという数値に反映され難いのである。一方のシルフィやアークに至っては、個々にしか成し得ない特別な能力を保有している。だからこそ規格外のレベルとして表示されてしまうのだ。


「なら戦闘となれば勝ち目はあるのか・・・」

「いや、確実に負けるだろうな。」

「はぁ?」

「どう転んでも、お前とカレンは下級神だ。上級神には手も足も出ない。」

「カレンが下級神?」


予想外の暴露に、思わず聞き返す。しかし答え難そうにしている最高神に代わってシルフィがハッキリと告げる。」


「戦女神なんて呼ばれてるけど、結局は暴れる事しか出来ない。カレンは所謂落ちこぼれ。」

「「「「「はぁぁぁぁ!?」」」」」

「あぅ・・・」


驚きに大声を上げるオレ達に対し、珍しく顔を真っ赤にして俯くカレン。シャッターチャンスです。


「シルフィ、まだ時間は有るか?」

「問題無い。」

「そうか。なら丁度いい。この機会に神についても教えておこう。まず能力的な話をしよう。お前とカレンは加護を与える事しか出来ないから下級。中級になると、凄い事が出来ると考えろ。超凄い事が出来るなら上級。これが大雑把な分類になる。で、凄い事が出来るって事は保有する神力もそれなりの量って事だ。ここまでで質問は?」

「凄い事って?」

「そうだな・・・わかり易く戦闘に例えるなら、この街を一撃で綺麗に消し飛ばすって所か?お前とカレンはそこまで大掛かりな技を持ってないだろ?」

「あぁ。」

「はい。」


オレが禁呪を使っても、帝都を綺麗に消し飛ばすのは無理だろう。加護を貰っている今なら出来るが、本来の力じゃ難しいものがある。


「上級は例えば・・・あぁ、島を空に浮かべるって言えば理解出来るか?」

「ローデンシアか。納得だな。」


島を空高くに浮かべるなんて、どれ程の力を込めればいいのか想像もつかない。まぁ、力を込めるだけじゃないって事なんだろうな。


「ちなみに神力の量だけで言えば、カレンは中級にあたる。」

「凄いじゃないか!」

「でも何も出来ないから落ちこぼれ。」

「ぐふっ。」


アークに持ち上げられ、シルフィに落とされた。何だかカレンが不憫に思える。


「まぁ、ダメな子程可愛いって言うだろ?だからオレはカレンに目を掛けて来たんだ。」

「言いたい事はわかるけど・・・。」

「他に質問は?」

「でしたら亜神について教えて下さい。」


話を切り上げようとしたアークに質問したのはティナだった。これは正直意外である。ティナが率先して聞くような内容とも思えなかったからだ。


「亜神ってのは、神が見初めた者に対する救済処置だな。寿命の無い神の伴侶となるんだから、寿命で死んだり年老いたりすんのは可哀想だろ?だからせいぜい、不老で頑丈な肉体になる程度だ。特別な事が出来る訳でもない。(今はな・・・)」

「そうですか。ありがとうございます。」


「そうすると、加護って何なんだ?」

「加護って言うのは、体の中にデカイ魔石を入れるようなものだ。そうすりゃ使える魔力が増えるだろ?」

「「「「「なるほど!」」」」」

「減れば加護を与えた神から無意識に供給されるから、時間と共に回復する。」

「正に魔石ですね。」


スフィアも納得したように、魔石。つまりはバッテリーみたいなものだな。


「言っておくが神、ルークが酷く消耗してる場合は供給されないからな。そこは気をつける事だ。」

「あぁ。しかし亜神と加護は全くの別物か。参考になった。」

「なら話を戻すぞ?下級神が上級神に勝てない理由だが、この街を綺麗さっぱり消し去る程の力を連発されたらどうだ?」

「流石に耐え切れないな。」

「仮に追い詰めたとしても、相手は世界を超えられる。同じ土俵に立てなければ、結局は仕留め切れずに逃げられるって事だ。」


格下が挑む場合、気付かれる前に近付いて一撃で仕留めるしかない。・・・無理だな。不可能じゃないだろうが、酷く勝算の低い賭けになる。失敗されれば警戒されるし、今度は不意打ちに怯えなければならない。


VRMMOに例えるなら、ゲーム中に現実の肉体が襲われるようなものだ。相手が悪すぎる。嫁さん達が狙われているだろうし、こちらからちょっかいを出すのは控えるべきなんだろうな。


「積極的に関わるべきじゃないと理解したようだな?」

「あぁ。寧ろ目立たないように行動する必要がある。」

「だが召喚された者は救い出して貰う。」

「え?嫌だよ?何で嫁さん達を危険に晒さなきゃなんないのさ。所詮私は日陰の身。俗世を離れ、ひっそりと暮らすのが似合っているのです。」

「てめぇ・・・」

「「「「「・・・・・。」」」」」


最高神様が怒っていらっしゃるが、そんなのは当たり前だろう。嫁さん達も何か言いたそうにしているが、オレにとっては嫁さん以外は他人である。知ったこっちゃない。


え?助けなきゃっていう使命感はどうしたって?そんなのは犬にでもくれてやる。オレは自分が、自分達が可愛いんだ!


「そこで名案がある。私が残れば万事解決。ぶい!」

「いや、シルフィ、それは流石に・・・」

「際限無く召喚させる訳にも行かない。私がいればこれ以上の召喚は阻止出来るし、甥っ子の嫁達を守る事が出来る。護衛の対価はスイーツで良い。実に経済的で魅力的な提案。」

「あら?だったら私も残るわ。」

「「はぁ!?」」


オレだけでなく、アークも同じように驚いている。鏡というか、パントマイムみたいなのでやめて欲しい。親子だけど、流石に同じ顔って気持ち悪いよな。


「折角お腹を痛めて産んだ我が子と再会出来たんだもの。このまま帰るなんて嫌よ。それに義娘達と仲良くなる絶好の機会でしょ?・・・魔神達が利用される恐れがあるのなら、私は残るべきよ。」

「お前、本音と建前が逆だからな?」


急に真剣な顔つきになったと思ったら、本音を暴露してから建前を思い付いたのか。アークの指摘が無ければ気付かなかった。何となく自分の母親がどんな人物なのか理解した。


「最高神・・・苦労してんだな。」

「お前には言われたくねぇよ!」


折角労ってやったと言うのに文句を言われてしまった。畜生、こうなったら反撃してやる。


「とにかく嫁さん達を危険に晒すつもりは無い!安全策が講じられるまでは協力しないからな?」

「アナタ?背に腹は代えられないでしょ?」

「私達の提案を受け入れるしかない。私の甥っ子は賢い。少しは見習うべき。」

「あ〜、くそっ!わかったよ!!但し、た〜だ〜し!くれぐれも羽目を外すんじゃないぞ!?」

「「わかった(わ)」」

「オレはそろそろ戻るから、ヴァニラは一緒に来い。詳細を説明する。」

「畏まりました。」

「シルフィ、ヴィクトリア!本当に任せたからな!?」



若干キレ気味で話を進めるアークに対し、母と叔母はニコニコと手を振っている。やっぱり権力者なんてなるもんじゃねぇな。結局別れの挨拶も無いまま、最高神は嵐のように去って行った。嫁さん達が気にしていたが、母と叔母によって言い包められているのは気のせいだろう。



これでやっと本来の・・・本来の?




そうだ!帝国として重要な決定を下そうとしてたんだよ!!急に来んな、クソ親父!!!

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