第189話 生存への道2

カイル国王を送り届け、オレはライム魔導大国へととんぼ返りした。魔物達が他国に到達するのは数日後だろう。ならばまずはライム国内の街や村を回り、安全を確保するしかない。いや、街には防壁が築かれている。だったら小さな村だろう。


以前カレンに無理を言って転移ポイントを増やす際、知る限りの村や街の近くを回って貰った。その経験がこんな所で活かされるとは。


「事前説明も無しに申し訳ないが、死ぬよりマシだろう。いや、説明しに行った所で信用して貰えないだろうな。少なくない数の犠牲は出るだろうが・・・こればっかりはな。」


これから手に負えないような魔物がやって来る。そんな事を言って回った所で、全く相手にされないだろう。血の気の多い者なら討伐に乗り出すに決まってる。残念だが、そんな者達の相手をする余裕は無い。


オレは一切の説明も無しに、土魔法で村々を囲って回る事にした。木製の柵など、あちら側の魔物には意味が無い。出来れば岩が望ましいのだが、そこまでする時間は無いだろう。


「これが街だったら、大きさ的に無理だったよな。」


大規模な街であれば、囲うのに時間が掛かる。回るのが規模の小さい村で助かったって所か。



突然の揺れと音に、何処の村も大騒ぎとなっていた。だがそんな事には構わず次々と知り得る限りの村を回る。こうして何とか日が暮れる前にライム国内を回り切り、今度はドライアドの下へ転移する。



限界まで搾り取られたものの、何とかライム周辺の国までは地下トンネルを繋げる事が出来た。何だか単なる燃料タンクだった気がするものの、考えたら負けである。



ヘロヘロになりながらも、夜遅くに城へと帰る。このまま休みたいが、まだまだやる事は多い。オレの両親がしでかした事である以上、尻拭いはしなければならない。これが全くの他人であったら、多分ここまで必死には動かなかっただろう。


かなり薄情かもしれないが、愛する者達さえ守れればいいと思っている。オレはそれ程器用じゃないから、全てを守ろうとすれば何処かで失敗する。その失敗が自分の大切な人であってはならないのだ。


それに平和で恵まれた日本とは違う。下手に施しを与えれば、妬みから争いが生まれる。素直に感謝する人ばかりではない。誰もが生きる事に必死なのだ。




「ただいま。」

「お帰りなさい。」

「ご苦労様でした。」


執務室に転移すると、帰りを待っていたスフィアとカレンが労ってくれた。有り難い事だが、今はすべき事が山積みである。


「あぁ、ありがとう。スフィアも疲れてるだろうけど、ちょっといいかな?」

「はい。明日からの事ですね?」


カレンも疲れているのかもしれないが、何をしていたのか知らないので触れなかった。特に気にした様子も無いので、このまま話を進めよう。


「勝手に行動して悪いんだけど・・・世界政府の緊急招集を掛けたって聞いたから、進行をカイル国王に任せて来た。」

「そうですか・・・確かに私が進めるよりも良いでしょうね。ありがとうございます。」


少しだけ考えていたが、微笑みながら礼を言われた。オレの考えなんてお見通しって事なんだろうな。


「明日各国の王達をライムに連れて行くから、スフィアにはタイミングを見てこっそり連絡を頼みたいんだ。」

「では転移魔法を・・・仕方ありませんか。口で言っても信用して頂けないでしょうし。」


これには渋々納得してくれた。この非常時に隠してもいられないのは理解出来るのだろう。


「あぁ。で、各国の民衆についてはそれぞれの王達が勝手に対応すると思う。だからカイル国王にはありとあらゆる穀物の種子を確保して貰うように頼んである。」

「種子を?あぁ、来年以降の食料確保ですね。ですが農地はどうするのです?」

「今日も作って来たけど、各国の王都を地下通路で結ぶつもりだ。あとはその脇に地下農場を作らせればいい。」

「なるほど!でしたらルビアさんに問題点を洗い出して頂きましょう。」


これにはオレもハッとさせられた。農地はただ作ればいいって物でもない。完全に任せ切りだった為に知らないのだが、きっと多くの問題があったはずだ。後できちんと礼を言っておこう。


「悪いけど頼むよ。一応他の国も手遅れになる前には繋げるつもりだから、それも説明してくれると助かる。で、肝心な話だ。カレン!」

「はい?」

「魔物を抑える手段に心当たりは無いか?あとは食料問題も。」

「残念ですが、確実な手段はありませんね。」


確実な、と言う事は何かあるんだろうな。


「この際何でもいい。思い付く事は全部教えてくれ。」

「・・・ルークには教えていませんでしたが、海を渡って北に進んだ所にも大陸があります。そして南にも。」

「「っ!?」」


この情報にはスフィアも驚いたようだ。勿論オレも初耳です!


「順番に説明しましょうか。まず北ですが、これは本来神々が住まう土地でした。大きさはこの大陸の半分といった所でしょうか。当然今は誰も住んでおりません。穏やかな気候で、非情に恵まれた土地です。」

「なら・・・」

「ですが、そこは神々の為の土地。人間や魔物が住む事は出来ません。いえ、ただ住むだけならば問題はありませんが・・・その土地で育つ物は神以外にとって毒でしかないのです。いずれはルークと共に暮らそうと考えておりました。勿論スフィアや他のみなさんも一緒に。」


まぁ神なんてのは、その辺を彷徨くようなもんじゃないよな。隠居した時の住まいは確保されてるとして、とりあえず北はダメと。


「なら南は?」

「そちらが今回繋がってしまった大陸になります。非常に大きな大陸ではあるのですが・・・説明するまでも無いでしょうね。」


だろうな。ここより酷い。そうなると他の大陸はダメって事だな。当然カレンもそう言うと思っていたのだが、飛び出したのは予想外の言葉だった。


「実は此処とその大陸の間にはまだ大陸があるらしく・・・」

「「は?」」

「1つは竜族の住む土地との事です。」

「らしい、ってのは?」

「私も訪れた事が無いのです。」


これは意外。カレンの事だから何度も足を運んでいると思っていたのだが、行った事が無いと言う。


「カレンさんでも危険な土地という事ですか?」

「いいえ、それはありません。」

「でしたら何故?」

「それは・・・」


何だか言い辛そうにしているカレンだが、オレには見覚えがある。これは多分、下らない理由に違いない。いじめてるみたいで何も言えないオレに代わり、スフィアがとことん追求する。


「カレンさん?」

「よ、用が無いのです!」

「・・・へ?」

「だって、竜しか住んでいないのですよ!?そんな所に行ってどうすると言うのですか!!」

「「・・・・・」」


スフィアも気付いたらしい。これはアレだ。風呂も無いような場所には行きたくないっていう、カレンの我儘に違いない。これ以上この話を続けてカレンが拗ねても困る。オレはスフィアに視線を送り、話題を変える事にした。


「さっきの言い方だと、まだあるって事だよな?」

「え?えぇ。竜族が住む大陸の南西にもう1つあるそうです。」

「そっちも行った事が無いのか?人が住んでないから?」

「いいえ、人は住んでいます。・・・いるはずです。」


何だか釈然としない言い方に、オレはふと思い出す。


「人神って言う位だから、カレンは人族を見守って来たんだよな?それなのに知らない?」

「はい。・・・はぁ。いずれお話するつもりでしたが、この際仕方ありませんね。」

「・・・隠し事はしないって言ったよね?」

「誤解しないで頂きたいのですが、好きで隠している訳ではないのです。勝手に言えないだけで。」


勝手にって事は口止めされてるのか?でもカレンに口止め出来るって言ったら・・・あっ。


「カレン!ちょっとま「許可を頂いて来ますね!」あぁぁぁ!!」


引き留める間も無く、カレンが何処かへと転移した。ヤバイ、嫌な予感が!頭の頭痛が痛くなって来た!!


「ちょっとルーク?どうしたのですか?」

「いや、考えてもみなよ!カレンが許可を得るような相手って言ったらわかるだろ!?」

「許可を得るのですから、それは当然上司・・・上司!?女神の上司って何ですかっ!!」


スフィアも自分で言っててパニックに陥る。カレンの上司と言えばアイツだ。ここでそんなのが出て来るなんて、完全に何かのフラグだろ!これは逃げるしかない。


「スフィア、今すぐ逃げ「よっ!馬鹿息子!!」キターーー!!」


来ちゃったよ、最高神!ってか何でそんなに軽いんだ!!


「ルークがもう1人!?」

「すみません。止めようとしたのですが・・・」


驚くスフィアに、謝るカレン。だがそんな事はどうでもいい。


「何で態々来たんだよ!」

「いや、こっちにも事情があってな?面倒だから1度に済ませようと考えた結果・・・来た方が早くね?ってなった訳だ。」

「そんな適当に来ていいのかよ!?」

「本来はルール違反だからダメだ。けど、オレがルールみたいなもんだし?」


おぉう。完全に独裁者の思考じゃねぇか。


「あの・・・失礼ですが、どちら様ですか?」

「ん?おぉ!ルークの嫁か!?そうかそうか。って、自己紹介がまだだったな。オレはルークの父親でアーク。一応カレンの上司、所謂最高神だ。」

「はぁ・・・はぁ!?」


突然の義父登場に、スフィアは顎が外れんばかりに口を広げている。そっと塞いでやりたいが、オレもそれどころではない。何をツッコんでいいのか、絶賛思考中である。


「カレン、コイツの嫁全員を集めろ。」

「全員は難しいです。」

「なんかあんのか?」

「この世界には空に浮かぶ島がありまして、その管理を行っているのがルークの妻達なのです。全員が不在となると落下する恐れが・・・」


そう。リリエル達がいなくなると、ルーデンシアは落っこちる。だが最高神には通じない。


「誰だよ?そんなもん作ったのは。しょうがねぇなぁ・・・コレだな?」


ーー パチン


最高神がブツブツと文句を言いながら目を瞑り数秒。何かに気付いたのか、突然指を鳴らしてとんでもない事を言い出す。


「落ちないようにしてやったぞ!さっさと呼んで来い!!」

「は?・・・あ、はい!」



鳩が豆鉄砲をくらったような表情を浮かべたカレンだったが、すぐにアークの指示に従って何処かに消える。



カレンが振り回されるという、非常に珍しい物が見られたオレとスフィアは落ち着きを取り戻す。だが冷静になればなる程、言いようのない不安が胸いっぱいに広がるのだった。

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