第97話 救援依頼
嫁さん達との朝食を済ませ、出発の準備を整えて待っているとナディア達がやって来る。全員の姿を確認して、黙っていられなかったルークが口を開く。
「出発の前に、ナディアに1つ聞きたい。学園長の服は皆で選んだはずだよね?」
「・・・・・そうよ?」
「なら、どうして学園長がメイド服を着ているのか、簡潔に教えて貰えるかな?」
「誰にも止められなかったのよ!わかるでしょ?ねぇ、わかるわよね!?」
「あ、あぁ、わかったから落ち着いて!」
服を選んでいる時の光景が想像出来たので、それ以上は何も言えなかった。ヤツの暴走を止められる者はいなかったのだろう。どうせ破れるかもしれないんだ、放っておこうじゃないか。全員が何も無かった事にしようとしているのがわかったので、オレは話を進める事にした。
「じゃあ、ユーナを学園に送り届けた足で、オレ達はダンジョンに向かうから。近々城に大勢の人が訪れると思うけど、とりあえずは城で教育して貰えるかな?帰ったら指示を出すから。」
「わかりました。城の事は任せて下さい。」
「スフィアには迷惑を掛けるね。オレが勝手に決めた事だから、今回の経費は預けてあるお金から出して欲しいかな。それと、協力してくれる人へのお礼をティナに渡してあるから、後で受け取っておいてね。」
「お礼、ですか?」
「昨日大量にお菓子を作っておいたんだ。」
「「「「「「「「「「お菓子!?」」」」」」」」」」
何の相談も無しに沢山の人達を受け入れる事にした為、お詫びの気持ちを込めてスイーツを差し入れる事にした。それを告げた瞬間、嫁さん達だけでなく、使用人の皆の目の色も変わった気がする。この世界には、娯楽や嗜好品が少ない。反応してしまうのは仕方無い事だろう。
「分配に関してはティナとスフィアに任せるよ。それじゃあ、行って来る!」
「「「「「「「「「「いってらっしゃい(ませ)!」」」」」」」」」」
大勢の人達に見送られ、オレは転移魔法を使用した。あっという間に学園の近くに到着である。事前に説明していたのだが、それでも学園長と事務長は驚いていた。
「これが転移魔法ですか・・・凄いですね。」
「あっという間に学園に着いてしまうとはのぉ・・・寄り道する楽しみが無いのじゃ。」
「寄り道すんなよ・・・。それじゃあ、ユーナの事はカレン達に任せてあるから、何かあったら連絡を取ってね?」
「わかりました。それでは皆さん、くれぐれもお気をつけて。」
オレ達はユーナを見送ってから、獣王国の王都付近へと転移する。冒険者ギルドで手数料を支払ってから、ダンジョン攻略である。ギルドへの道すがら、オレは戦力の把握に務めるとしよう。
「学園長は、どの程度の実力なの?特技とかは?」
「今の私は、Aランク冒険者より少し強い程度ではないかの?特技はいたずらと、服の早脱ぎじゃな!」
「・・・オレの聞き方が悪かったようだ。あんたはダンジョンで何が出来るんだ?」
「ダンジョンでか?そうじゃな・・・かくれん、痛っ!!」
どうやら真面目に答える気が無さそうだったので、アイアンクローをお見舞いしてやった。
「今、かくれんぼって言おうとしなかったか?」
「痛いのじゃ!あんまり痛くされると・・・興奮してしまうのじゃ・・・」
「ほぉ?それは奇遇だな。オレも興奮のあまり、このまま掴んでいる物を握り潰してしまいそうだよ。」
「ま、待つのじゃ!私は罠の解除が得意なのじゃ!!」
脅しながら学園長のこめかみを掴む力を強めると、素直に白状した。最初から素直に教えてくれたら、無駄な力を使わずに済むものを。しかし罠の解除とは嬉しい誤算だ。オレ達の中に、そういった技能を持つ者はいなかった。悪いが存分に働いて貰おう。
そうこうしている内に冒険者ギルドの前までやって来たのだが、何やらギルドの中が騒がしい様子であった。
「オレ達の仲間がダンジョンにいるんだ!助けてくれよ!!」
「救援を送ってくれてもいいだろ!?」
「冒険者を見殺しにするのか!?」
ギルド内部では、大勢の冒険者がギルド職員に詰め寄っていた。ダンジョンで何かがあったのだろうか?ギルド内を見回すと、先日の受付嬢が端に立っていたので近付いて聞いてみる。
「何かあったのですか?」
「あ!アストル様!!実は昨日の夜、ダンジョンに見た事も無い凶悪な魔物が大量発生したようなんです。まだ多くの冒険者がダンジョンから戻っていない状況でして・・・。」
これがカレンの言っていた最高難易度の意味だろうか?罠か仕掛けの類かと思ったが、1度も魔物と遭遇していないオレにはわからない。状況を予測していると、フィーナが受付嬢に問い掛ける。
「救援部隊は送っていないの?」
「Aランクパーティを1チームとBランクパーティを2チーム送ったのですが・・・全滅しました。」
「そう・・・。さらにランクが上の者は?」
「ギルド本部に問い合わせたのですが、どんなに急いでも招集に7日はかかるとの事です。」
「生存は絶望的ね。」
「・・・はい。」
沈痛な面持ちの受付嬢はそう言うと、黙り込んで俯いてしまった。さて、こういう場合はどうすべきだろうか?幸いにも元ギルド幹部がいる事だし、確認してから行動すべきだろうな。
「フィーナ?オレ達はどうするのがいいの?」
「そうね・・・救援に向かう、というのが最良の選択かしら?」
「それ以外に無いでしょ?」
「ナディアも賛成か。そうなると、ルビアは行かない方が良さそうだね。」
「でしょうね。足手まといになるのが目に見えるもの。」
となると、ルビアを送り帰して代わりの戦力を入れる必要があるかな。しかし、カレンは学園の送迎、ティナは直に到着する者達の教育がある。オレが勝手に決める内容では無さそうだ。
「それじゃあ、ルビアを送り届けて代わりをカレンかティナに頼むとしよう。」
「それまで私とナディアは情報を集めるわ。」
「学園長はどうする?今回は参加しなくても構わないと思うけど?」
「そうじゃな・・・私はダンジョンに入るとするかの。お主が戻るまでは、フィーナ達と共に情報を集めておこう。」
「わかった。それじゃあ、1時間後にここで。」
一旦バラバラになり、それぞれが行動を開始する。オレとルビアは城に戻るべく、急いで王都の外へと向かい、人気の無い場所で転移を行う。城内に戻ったオレは、すぐにスフィア、ティナ、カレンを呼び出して状況を説明する。
「と言う訳で、出来ればどちらかに来て欲しいと思うんだけど、どうかな?」
「戦力的に考えるとカレンさんでしょうけど、何かあった場合の移動手段を残して頂きたいのが本音です。教育は他の者にも出来ますからね。」
「では、私がルークと共に参りますね。支度をするので、少し待って頂けますか?」
「うん。まだ時間はあるから、焦らずしっかり準備してね?」
話し合いが終わり、ティナが準備の為に席を離れた。待っている間にダンジョンの内部について確認しておこう。
「カレンは獣王国のダンジョンに入ってるよね?どんな感じだった?」
「私が入った時は、少しずつ進んでは転移で戻り、苦もなく50階まで辿り着きました。その瞬間です。転移を封じられたのは。その後は急いで脱出したのですが、出現する魔物が変化していました。お陰で脱出に1週間も要しました。お風呂にも入れず、食事は焼いた魔物の肉ばかり・・・。あれは私の汚点です!」
もっと詳しく聞きたいのだが、カレンの様子を見てやめておく事にした。大蛇の住む藪を、自分から突く事もないだろう。これ以上話す事も無さそうだったので、オレはティナの部屋に向かおうとしたのだが、ティナが走って戻って来た。
「お待たせしました。」
「随分と早かったね?準備は大丈夫なの?」
「はい。必要な物はアイテムボックスに入っていますので、部屋の窓を閉めて来ただけですよ?」
そうか・・・オレも工房にあるものを、全て持ち運べばいいのか!気付かなかったぁ!!まぁ、次回からって事にしよう。まずはダンジョンでの救助が先だ。
ティナを連れて獣王国の王都へと戻ったオレ達は、冒険者ギルドで待っていたナディア達と合流する。それからダンジョンへ向かう為に、例の受付嬢に告げる。
「今からダンジョンに向かいます。出来る限りの救助はしますが、奥に進んだ冒険者は間に合わないかもしれません。」
「いいえ、アストル様。貴方のランクでは、ダンジョン潜入を許可する事は出来ませんよ?」
あ、今はアストルだった。態々変装を解くのは面倒だが、ギルドカードの偽造等を疑われるのはもっと面倒である。渋々本来の姿に戻り、今度はルークのギルドカードを渡す。しかし、周囲の目がある場所で変装を解いたのは失敗だった。驚いた受付嬢が、つい声を張り上げてしまったのである。
「そのお姿は・・・それにこのギルドカード!大変失礼致しました、フォレスタニア皇帝陛下!!」
「「「「「「「「「「皇帝陛下!?」」」」」」」」」」
周囲に居合わせた冒険者達も、受付嬢の言葉を聞き一斉に驚きの声を上げる。
「オレ達は全員Sランクの実力が有るから、ダンジョンに入っても問題無いよね?」
「も、勿論です!今回は手数料も要りません!!ですから、どうか!冒険者達の救援を!!」
「陛下!オレ達、いえ、我々の仲間を助けては頂けないでしょうか!!」
「私の仲間も!」
「お願いです、陛下!」
しまった。余計な騒ぎを引き起こしてしまった。冒険者達が一斉に詰め掛けて来ちゃったよ。まぁ、それだけ仲間を心配してるんだろうな。ナディア達に手を出そうとした奴等の仲間はいないみたいだし、何とかしてやろう。
「わかりました。出来る限りの事はします。それと、今回は50階まで向かう必要がありそうなので、14日間戻らない可能性もあります。ですから安全が確認されるまでは、早まった行動を謹んで下さい。」
「それでは今回は、ギルドからの救援依頼という形にさせて頂きます。それより14日も、ですか?50階とは、どういう事でしょうか?(やっぱりかっこいいなぁ)」
「あまり時間もありませんので、戻ってから説明します。すみませんが、もう行きますね。」
受付嬢が説明プリーズという様子だったのだが、こんな事に時間を割く余裕も無さそうなので、強引に話を切り上げてダンジョンへと向かった。
ダンジョンの入り口にある受付にて事情を説明し、いよいよダンジョンである。皆は今から戦闘体制に入っている。油断していない様子に安堵し、オレも気持ちを切り替える。学園長が静かなのは、考えてはいけない事である。嵐の前の静けさなのだから。
入り口の扉を抜け、穴の中にある階段を降りると、一昨日の長閑な景色は見られなかった。数多くの魔物が歩き回っている。目の前に広がる草原には、デカイ牛の群れ。皆が『ゴクリ』と生唾を飲む音が聞こえる中、『ジュルリ』という音が聞こえる。
「ティナ・・・シリアスな雰囲気が台無しだよ。」
「すみません、ルーク。あまりにも美味しそうな牛さんが目に入ったものですから・・・。」
真っ赤になりながらも、牛を捕らえて離さないティナの視線を追い、皆が苦笑する。今日もティナさんは安定の食いしん坊キャラでした。
「のう、ルークよ?あの牛でロデオ対決とかはどうじゃ!?」
「やらせねぇよ!?」
学園長がおバカ発言を繰り出した。今日も学園長は安定のおバカキャラでした。
はぁ、頭痛い・・・。
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