第86話 ガールズ?トーク

翌日の移動の際、アストルは落ち武者に関する説明を受けていた。落ち武者は反乱を起こしている一部族の族長で、ルビアを人質にして交渉の場に国王を引きずり出そうと画策していたらしい。かなり大きな部族の長を返り討ちにした事で、王女に刺客を差し向ける部族は少なくなるだろうとの事であった。移動速度が格段に落ちている現状では、かなりの朗報だろう。


王女は豹の獣人なのだが、魔法に特化している分、身体能力・・・この場合は持久力に乏しいそうだ。その為、徒歩で王都を目指している。オレとフィーナのスピードであれば半日で着く道程が、3日掛かるとの事だ。つまりは、あと2日も移動に時間を割かれる計算になる。


只でさえレベルアップの時間は限られているのに、これでは余りに勿体ないと思ったアストルは、王女達から離れ過ぎないように気を配りながらも魔物と戦っていた。護衛はフィーナに任せているのだが、日中に反乱分子が襲って来る事は無さそうなので、ハッキリ言って暇そうだった。いや、正確にはガールズトークに忙しいのだが・・・。


「皇帝陛下には、何人の妻がいるんです?」

「え〜と、8・・・9人かしら?ごめんなさい、私にもわからないわ。」

「「「「そんなに!?」」」」

「確かに多いとは思うけど、もっと多くても構わないって話だったわよ?」

「皇帝陛下って、そんなに女性が好きなんですか?」

「あぁ、ごめんなさい。そう言ってるのは奥さん達よ?皇帝陛下は奥さん達に頭が上がらないから、実権は奥さん達が握ってるわね。」

「姫様!これはチャンスですよ!!」

「そうですよ!今夜にでも関係を持ってしまえばいいのです!!」

「そ、そそそ、そんな事を言われても・・・。」


付き人達に後押しされるが、ルビアは真っ赤になって動揺している。しかし、今回は一筋縄ではいかない事を、フィーナの口から告げられる。


「私が言うのもアレだけど、今の陛下は強敵よ?本来はエルフ族の奥さん1人だけのつもりだったみたいだけど、あまりにも奥さんが増えちゃったから自重してるもの。」

「エルフ族・・・フィーナさんの事ですか?」

「違う違う、他の人よ。」

「そうですか。ところで、お2人は何故旅をしておられるのです?」

「アストルのレベルアップが目的かしら?」

「レベルアップですか?お強いのに?」


アストル自身も知らないのだが、この時Sランク冒険者として充分なレベル80に達していた。事情を知らない者達からすると、これ以上強くなろうとする意味が理解出来なかったとしても無理は無い。


「私が勝手に話せる内容じゃないから、知りたければアストルに聞いて?」

「・・・教えて頂けそうにありませんね。」

「姫様、お話中の所申し訳ありません。」

「ミケ?どうかしましたか?」

「はい。今の内に、フィーナ様とアストル様の馴れ初めに関してお聞きしておくべきかと。」

「何故です?」

「アストル様を攻略する糸口になるかもしれないからです。」


付き人の1人であるミケと呼ばれた人物が、フィーナが最も聞かれたくない事を聞くよう進言して来た。これにより、一瞬ではあるがフィーナは動揺を表に出してしまう。そして、それを見逃すルビアではなかったのだ。


「あら?フィーナさん、どうかしましたか?」

「え?あぁ、いや、何でもないわ。」

「そうですか?では、ミケがこう言ってますし、フィーナさんとアストルさんの出会いについて話して頂けませんか?」

「いやぁ、恥ずかしいから遠慮しておくわ・・・。」

「話せないような、恥ずかしい馴れ初めなんですか?」

「別に恥ずかしいような事は無かったわよ?単純にはな「では話して頂けますよね?」・・・。」


フィーナが「話す事が恥ずかしい」と言い切る前に、ルビアは言葉を遮った。これにより、話すという行為を避けようとしたフィーナの退路は断たれてしまう。こういった部分が、ルビアが切れ者と呼ばれる所以である。この後、必死の抵抗も虚しく、フィーナは馴れ初めを披露してしまうのであった。


付け加えておくと、フィーナが普段通りの精神状態であれば、ルビアの追求を躱していただろう。しかしこの時のフィーナは、自分の馴れ初めを聞かれるという初経験の状況に、冷静さを欠いてしまっていたのだ。


この後、ルビア+付き人4人という大群の勢いに押されたルビアは、根掘り葉掘り聞き出される事となる。


「なるほど、非常に参考になりました。私達は作戦会議がありますので、少し失礼しますね?」

「え、えぇ。わかったわ。(助かったぁ・・・)」


この時、フィーナは作戦会議という言葉を聴き逃していた。これが後に、自身の首を絞める事となるのだが、それはまた後日の話。


「さて皆、どうやってルーク様を攻略すべきかしら?」

「そうですね・・・フィルフィアーナ様が命懸けでやっとハメられる程ですから、話術での攻略は危険かもしれません。」

「私もそう思います。ルーク様の性格を考えると、1度断られたら次は無いと考えるべきです。」

「では、どうしろと言うのです?」

「やはり小細工無しの真っ向勝負・・・でしょうか?」

「・・・つまり?」

「「「「体で!」」」」

「・・・きゃあ!」


付き人達の言葉を聞いたルビアは顔を真っ赤にし、手で顔を覆ってしまう。


「きゃあ!じゃありません!!いい年して、何を恥ずかしがっているのですか!?」

「ね、年齢は関係無いでしょう!!」

「そんな事はありません!」

「姫様が結婚なさらないせいで、一体どれだけの者が苦労している事か。」

「毎日結婚相手を探す為に、家臣がどれだけ奔走していると思っているのですか!?」

「姫様を狙う男達の対応に、我々がどれだけ苦労していると!?」

「大体、姫様は理想が高過ぎるのです!」

「それに輪をかけて、国王陛下の要望通りの者など・・・」

「ルーク様しかいないではありませんか!」

「「「「わかっているのですか!?」」」」

「う・・・ごめんなさい」


日頃の鬱憤が溜まっているのか、付き人達に責められて言い返せずにいるルビアであった。ルビアの理想とは、見た目重視の高い身分、オマケに優しい事である。これだけならば何とかなりそうなものであるが、これに国王の要望が加わる。それは単純明快、『強い事』である。


この全てを満たせるの者は、この世界には少なかった。これまで家臣達が世界中を探し回り、ついに見つからなかった事からも、いないのではないか?とまで噂されていた。しかし最近になり、ようやく見つかったとの報せが入った。それがルークである。


しかし、周囲の思惑を理解していなかった国王は、一番可愛がっている末っ子のジュリアを送り出してしまったのだ。これにより絶望視されていたルビアの結婚相手候補が、どういう訳か目の前にいる。付き人達も必死になるというものである。勿論ルビアの事を想っての事ではあるが、ルビアとルークをくっつけてさえしまえば、自分達は苦労から開放されるという目論見もある。


「さて、大まかな行動方針も固まった事ですし、詳細を詰めて参りましょう。」

「どのようにルーク様を籠絡するか、ですね?」

「ルーク様の籠絡もですが、その前にフィルフィアーナ様をどうやって遠ざけます?」

「私達がふた手に分かれて対処するしか無いのでは?」

「あのぉ・・・」


付き人の4人が話を進める中、空気となっているルビアが口を開くが誰も相手にしてくれない。


「では、フィルフィアーナ様の対応はウサギさんチーム、ルーク様と姫様の対応はネコさんチームとしましょう。」

「ウサギさんチームは、フィルフィアーナ様の気を引く重要な任務ですね。パターンは・・・10あれば良いでしょうか?」

「姫様の事が済むまでは絶対阻止ですから、もう少し必要かもしれませんね。」

「そちらは直前まで考えましょう。まずはネコさんチームの方です。」

「経験の無い姫様が籠絡するとなると・・・やはりネコさんチームも参加すべきですか?」

「あのぉ!!」

「「「「・・・姫様?」」」」


4人に気付いて貰う為に精一杯の大声を出し、ようやく気付いて貰う事が出来たのだが、その4人は『いたの?』というような反応を返すのだった。


「はぁ、はぁ・・・ルーク様の事は、私が1人で何とかします。」

「え?ですが、姫様お1人でどうするおつもりです?」

「いいから私に任せて!貴女達まで一緒だなんて、恥ずかし過ぎるもの!!」

「・・・わかりました。それではルーク様の事は姫様にお任せして、フィルフィアーナ様には全員で当たりましょう。」

「それでは姫様、私達は作戦を練りますので・・・」

「えぇ。好きにして構いませんよ。(助かったぁ!)」


その後は夕食を終えるまで、付き人達の作戦会議は続けられた。アストルは前日寝ていない為、今日は交代する予定になっているのだが、どちらが先に休むかまでは決まっていなかった。アストルとフィーナが順番を決めようとした時、付き人達から声が掛かる。


「アストル様は、昨日一睡もしておられません。」

「フィーナ様が先にお休みになられた方が、アストル様もゆっくり休めるのではないでしょうか?」

「寝る時間は同じだし、オレはどっちでも構わないよ?」

「いいえ。明日はアストル様がご自身で起きられるまで、出発を送らせても構わないと思います。」

「そういう事なら、私には反対する理由も無いわね。」

「そうして頂けると助かります。」

「助かる?どうして皆さんが助かるのです?」

「それは・・・もしもの時、アストル様が万全であった方が、護られる側も安心出来るではありませんか!?」


なるほど。そう言われるとそうだな。そう考え、オレとフィーナはアドバイスに従ったのである。まさかあんなトラップが仕掛けられているとも知らずに・・・。

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