第71話 父親

「結局、あの森の魔物は何なの?」

「許可を得られたからといって、軽々に扉を開かせる訳にはいきません。その為、比較的弱い魔物を結界に閉じ込め、ふるいに掛ける事にしたのです。真に扉を開くに値するかどうか確認する為に。言うなれば腕試し。それが魔の森の真相です。」


結界ですか・・・何も感じなかったけど、そのうち色々と確かめてみようかな。そうこうしているとティナの様子も落ち着いたようで、その様子を確認したカレンが話題を変えた。


「全てお話する約束でしたので、残りはルークの事ですね?」

「そうそう。神皇子って何なの?」

「ふふふっ。ナディア?今から説明しますから、少し落ち着いて下さいね?」



ルークの称号ですが、正直私もどうかと思っています。神に王や皇帝といった概念はありませんから。


ルークのお父様は我々の頂点に立つお方です。私は幼い頃から可愛がって頂きましたが、お父様に関しては、基本どの世界にも干渉はしません。ルークが危険な目にあっても、手出しする事は無いでしょう。ですが、ルークが死ぬような事になれば、きっとこの世界など一瞬で消されてしまうはずです。


この世界を見捨てた神々にお咎め等はありませんでしたが、唯一残った私は、『ルークの婚約者』という特別な褒美を賜りました。ですが、これは喜んでばかりもいられません。ルークを狙っている女神達は、考えているよりも多いそうです。


他の世界への干渉は堅く禁止されているのですが、ルークを手に入れる為ならば、規則を破る女神が出て来てもおかしくはないのです。警戒する必要は無いでしょうが、気に留めておく必要はあるでしょうね。


ルークのお母様に関しては・・・申し訳ありませんが、私も知らないのです。私はずっとこの世界にいましたから。一応他の世界の神々にも訪ねた事はありますが、情報を持つ者は皆無でした。下手に詮索する事も出来ませんので、ルークが直接尋ねる以外に方法は無いでしょう。


「さて、これで終わりますが、質問はありますか?」

「何を質問すれば良いのか、思いつきません。」

「スフィアが無いのなら、私が聞くわ。他の世界って?そして、女神達って?」

「そうですね・・・ここは、木々の豊かな世界です。故にフォレスタニアと呼ばれています。他にも、水の『マリンピア』、風の『ウィンディア』、変わり所では・・・住人以外の全てが巨大な『グランディア』という世界もあります。本当に多種多様なんですよ?」


グランディアは楽しそうだな。ジャックと豆の木を体感出来る世界か。いつか行ってみたいと思う。


「女神達については、私も全員は知りません。私が戦闘特化であるように、恋愛であったり、舞踏や宝石等、こちらも多岐に渡る分野に特化した神がいます。神である以上、ある程度の戦力にはなりますが、私ほどではないのです。逆に私が他の世界に行った場合、役に立たない可能性もあります。万能な神は、ルークのお父様くらいです。・・・ナディアは、女神達がルークを狙う理由を知りたいのですよね?」

「そうね。理由が思い当たらないもの。」

「神とは言えど、万能ではありません。滅びた世界も数えきれない程です。そして世界が滅びる前に、神達は他の世界に移るのですが・・・移動先で生き残る事が出来ない場合も当然あります。そうならない為に、万能な神と行動を共にしたいと考えるのは、どんな生命でも当然の事だと思いませんか?」


それは、旦那に家事や育児を任せて、お菓子を食いながらテレビを観る嫁の構図じゃないか?神って一体・・・あ、男の神は面倒臭がりが多いって言ってたけど、女神も同じなのか!


「あの、ルークが万能という根拠は何ですか?まだ覚醒もしてないんですよね?」

「シェリーの指摘は鋭いですね。きちんと根拠はありますよ?神の力は、子に受け継がれるのです。お母様の事はわかりませんが、お父様は万能です。ですから、その半分でも受け継がれていれば充分万能なのです。ですから、覚醒していなくとも特に問題は無い、という事です。」


なるほど、それは納得だ。しかし、今まで聞かなかったけど、覚醒って何だ?


「さっきから覚醒って言ってるけど、結局覚醒するとどうなるの?髪の色が変わったりとかする?」

「見た目に変化はありません。具体的には、魔力ではなく神力を扱えるようになりますね。それと、神が個々に保有する特殊技能が使えるようになります。」

「特殊技能?何それ???」

「大抵の神がある分野に特化していると言いましたが、これはその特殊技能によるものです。全ての神が2つ以上持っているのですが、ルークの場合は覚醒してみないとわかりませんね。」

「カレンは何なの?」

「私は、身体能力を飛躍的に向上する事が出来ます。それ故の『戦闘特化』なのです。他の技能は秘密です。あまり手の内を明かす訳にはいきませんからね。」


やむを得ない状況で味方同士が戦う状況になったら、手の内を知られてるのは不利だもんな。秘密の1つや2つ、誰だって持ってるだろう。


「完全覚醒は、いつするのかわかりません。明日かもしれませんし、数千年後あるいは数万年後・・・。今考えても仕方のない事ですよ。」

「そうか・・・まぁ、わかった。長々とありがとう、カレン。何だかお腹も空いてきたし、何か作ろうか?カレンは何か食べたい物とかある?」

「でしたらクレープでしたか?あれをまた食べてみたいです!!」

「「「「「「「「「何それ!?」」」」」」」」」」


クレープかよ。ティナがいるから出来れば他の・・・と思っていたら、皆がジト目でオレを見ている。カレンと2人きりの時に作ってあげてから、1度も作っていなかった。これ、非常にマズイ状況では?ティナが生地を焼くよりも早く食べ終えるのは目に見えている。数十個、あるいは100個単位でおかわりされると困るのだ。延々と焼き続ける未来しか見えない。


「カレン!?一体いつ食べたの?」

「ルークと初めて会った時に・・・あら?言わない方が良かったでしょうか?」

「ルーク?どうしてカレンだけなのかしら?」

「ナディア、いや、ティナがいるからそれ「どういう意味でしょうか?」あ、しまった!」


思わず口が滑ってしまい、ティナに襟を掴まれた!最早逃げられない状況である。結局オレは『嫁さんは全員平等』と言われ、皆が満足するまでクレープを作り続ける事になったのである。


言い訳すると、チョコレートが手に入ったら皆に作ってあげようと思ってたんだからね?決して「生地が簡単に作れるから、沢山おかわりしても大丈夫ですね?」ってティナに言われると思った訳じゃないからね?


予想通り言われましたけど・・・。

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