第70話 扉の先
城へ戻る予定だったが、オレとナディアは森にいた。夜の森は危険であるが、それを承知で留まっている。オレとナディアが夜になっても戻らなければ、嫁さん達が心配するはず。そして、事情を知っているスフィアが、カレンに理由を説明した場合の反応を探る為だ。オレ達の考え通りならば、カレンはこの森に来る。あの扉を確認する為に・・・。そして狙い通りに、カレンがやって来た。真っ直ぐ扉に向かい、何やら調べている。
「扉が開いた形跡はありませんね。ですが、近くにいるはずの若いグリーンドラゴンがいません。これは・・・一杯食わされたという事でしょうか?ねぇ、ルーク?」
「何を言っているのか、全く理解出来ないな。オレ達はただ、不思議な扉を眺めていただけだよ?」
「そうですか。・・・私に聞きたい事でもあるんですよね?」
「いや、無いな。その扉は明日の朝に開けるつもりだ。自分の目で確認する方が早い。」
「っ!?いけません!」
「まぁ、オレ達はもう戻るよ。夜の森は危険だから、カレンも気を付けて!」
カレンに有無を言わさずに、オレとナディアは城へと転移した。普通に質問しても、カレンが全てを説明するとは思えない、そこでオレ達は、危機感を煽る事にしたのだ。
「不味いですね。ルークなら本当に開けてしまうかもしれません。こうも展開が早いと、後手に回ってしまいますし・・・どうしたものでしょうか?」
独り言を呟いた後、カレンも城へ転移して来た。今回オレは、徹底的に追及するつもりだ。その手は無論、ティナにも伸びる。今を逃すと、学園を卒業するまで機会が巡って来ない気がするのだ。
「皆聞いてくれる?実は、新しい魔法を習得したんだ!」
カレンが戻って来た事を確認し、嫁さん達全員に告げる。そしてオレは、先ほど確認していたステータスを表示した。それを見た全員が驚いている。
「神皇子って何でしょうか?」
「許可を得し者って、何の許可かな?」
そんな会話が、嫁さん達の間で交わされている。ここまでは予定通り。そろそろティナを追及してみようか。
「『許可を得し者』っていう称号が気になるんだけど、ずっと一緒に生活していたティナにもあるのか確認したいんだよね?だからティナ、確認させて貰うよ?」
「え?わ、私には無いと思いますから、確認して頂かなくて構いませんよ?」
「確認すれば済むんだから、憶測で話をするよりも確実でしょ?だから、確認させて貰う。
「い、嫌です!!わ、私はあのような状況には・・・・・。」
ガタガタと震え、自身の体を掻き抱きながら俯いてしまった。ティナのこんな姿は初めて見た。相当なトラウマを抱えていたようだ。この後どうすべきか躊躇していると、カレンが口を開いた。
「ルーク、これ以上ティナを追い込まないで下さい。称号まで知られてしまった以上、全てお話しますので。」
「なら、ティナは何に怯えているんだ?」
「それは・・・順を追って説明しましょう。まず、フォレスタニアという世界において、この大陸に生きる者達は・・・護られている存在なのです。」
「護られるって、誰から?何に?」
「神によって。魔物から、ですよ?」
「魔物なら外に沢山いるだろ?」
「この大陸の魔物など・・・赤ん坊のようなものですよ。」
「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」
それでは説明しましょう。本来この世界には、もっと多くの魔物が棲んでいました。そして神と魔神の長きに渡る争いの中、驚くことに魔神は魔物の改良を行っていたのです。神々が気付いた時、既に半数近くの魔物が改良されていました。その魔物の強さは、この世界に生きる者達にとっては死活問題だったのです。魔神と戦いながら、増え過ぎた魔物に対応する余裕は神々にもありませんでした。
そこで神々は、強過ぎる魔物と魔族を別の大陸へと封じ込めたのです。ですが、そのままでは解決策とは成り得ないと考え、いつかこの大陸に生きる者達が討伐出来ると信じ、大陸を渡る扉を取りつけました。それが、魔の森にある扉です
しかし、誰でも開け放てるようではこの大陸が危険に晒されます。その為、最低限生き延びる事の出来る強さの者にのみ、扉を開けられる仕組みを作りました。それが冒険者ギルドの鑑定の魔道具であり、レベル200なのです。レベルが200を超えた事が確認されると、扉を開ける許可を得られるようになっているのです。
そしてティナが若かりし頃、魔物の討伐に乗り出した者達がいました。それが現在の、エリド村に住む者達の両親や家族達です。当時100人を超えるこの大陸の強者達が、扉を潜りました。そして戻って来たのは・・・ティナの両親を含む30人程です。死を待つだけの者のうち、半数以上をティナが看取りました。その光景が未だ忘れられず・・・許可を与えられる事を拒んでいるのです。
ちなみに、敗走の原因は仲間割れだったと聞いています。神々が勇敢な者達の助けになればと、その地に残した強力な魔道具を巡り・・・争っている所を、魔物の大群に襲われたそうです。魔道具の争奪戦から1歩身を引いていた者達だけが、間一髪で生き残れたようでした。
残念な事に魔物達は、逃げた者達の様子を見ていました。転移の扉によって、異なる場所へ移動出来る事を知っています。そして今も尚、扉の前で待ち続けているのです。あの時逃した者達を、食らう事が出来るその日を・・・。
「以上が、あの転移扉にまつわる全てです。」
「そんな事が・・・。あの、質問してもよろしいでしょうか?」
「何でしょうか、スフィアさん?」
「どれほどのレベルならば、互角に渡り合えるのでしょうか?」
「バランスの良いパーティであれば最低300、単独ですと・・・最低でも400といった所でしょうか。ですが、それは短時間の場合です。魔物の数が多ければ持久力が問題になりますから、あくまで参考程度とお考え下さい。」
その後も説明は続いた。定期的にカレンが転移扉を通り、魔物をけん制している事。その為、扉が開いても初めは弱い魔物しか来ないだろうと言っていた。知能の高い、強い魔物は、安全を確認してから転移扉に向かうとの予想である。そして話の途中、オレが倒したグリーンドラゴンが、年若い弱いドラゴンであった事。古代竜ともなると、カレンに近い強さらしい。まぁ、頭悪そうだったしねぇ・・・。
次回に続く!
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