第59話 クレア

翌日も普段通りに登校している。かなり気まずかったが、リノアは普段通りだった。ええ子や~!まぁ、皆にはある約束をさせられましたけどね・・・。女性だって欲求不満になるそうで、夜の営みだけでなく朝も追加するようにと・・・。人数が増えたので理解は出来ます。でも、少しはジョンも労わって欲しい。ちょっとは休みたいよな?なんて思ったけど、心と体は別物です。ジョンは欲望に忠実でした。え?オレもだって?よせやい!照れるわ!!


エミリアも城に住むという事になり、手続きを済ませて教室で授業を受けます。と思ったら実技なので、訓練場でした。最初は簡単な魔法の授業。的に向かって初級魔法を撃つ訓練。リノアは初級も満足に使えなかったので、オレが丁寧に教えました。先生!オレも生徒です!!と抗議してみたが、「私は他の生徒を見ますからぁ、お願いねぇ?」って言われたので諦めました。他にも魔法が苦手な生徒は多いようです。


以前教わった、人は魔法の適正を持つ者が少ないというのは本当のようだ。


で、状況は一変して剣の授業。驚いた事に、フレイヤ先生は剣の腕前も相当な物だった。学園の特待生クラスで教鞭を執れるというのは、優秀な者の証なんだそうだ。伊達に年くっ・・・フレイヤ先生の手から剣が飛んで来たので、考え事は控えます!


剣の扱いが上手くない者の面倒をフレイヤ先生が見る事になったので、オレは今ボーっとしている。模擬戦でもしないのかって?嫌だよ、面倒くさい。しかし、この世界は今日もオレに厳しかった。通常営業である。


「ルーク様?もしよろしければ、私と手合わせ願えませんか?」

「え?あぁ、私はそれ程剣が得意という訳では無いんですよ。私が使うのは、特殊なものですから。」

「それはどのような?」

「片刃で反りのある、刀という珍しい「刀ならあります!」あるの!?」


クレアの誘いを断ろうとしたのだが、雪がオレの言葉を遮り凛が刀を差し出して来た。

渋々刀を受け取り、鞘から抜いて刃を眺める。


「綺麗な直刃だ・・・いい業物ですね?」

「「っ!?」」


雪と凛が驚いているが、おかしな所でもあっただろうか?確認しようとしたが、クレアによって遮られる。


「武器が用意出来たのでしたら、お相手願えますね?」

「・・・・・はぁ、わかりましたよ。少しの間、お借りしますね?」

「「はい!!」」


雪と凛に許可を貰い、鞘を預ける。学園の制服では、腰に差す事が出来ない。抜刀術の類を使う訳でもないし、特に困らないだろう。


クレアと距離を開け、互いに構える。この時、もっと情報を集めていれば、騒動に巻き込まれる事も無かったのだ。いや、恐らく無理だったろう。雪と凛の情報など、出て来なかったのだから。しかしそれは、もう少し後のお話。


お互いに隙が見当たらなかったせいで、動き出せずにいた。仕方ないのでわざと隙を作り、誘い込む事にした。クレアはその隙を見逃さず、上段と見せかけて横に剣を振るう。美桜であれば受け止めていたが、借り物だった事もあり躱す事にした。峰を返すと、相手の刃がボロボロになるでしょ?鍛え上げたこの腰の動きにかかれば・・・戦闘でやったらマヌケだな。


躱された事に驚いたのか、クレアの構えが突然変わった。それとも、オレの腰の動きに目を奪われ・・・ごめんなさい。冗談です。


「ヴァイス王宮剣術師範代、クレア=ブリジット=ヴァイス・・・参ります!」

「え?ちょっと!これ模擬戦、くっ!?」


先程までと打って変わって、数段剣速があがった。おまけに急所も狙うようになり、いよいよ躱し切れなくなる。空振りは疲れるって言うのに、これだけの手数を出せるのは素直に感心する。たゆまぬ修練の賜物だろう。だが、いい加減うんざりした為、思わず技を繰り出してしまう。


「神崎流伍の太刀『散華』!」

「「「なっ!!」」」


高速で振るわれる剣に合わせ、オレの刀がクレアの剣をガード付近から両断した。あ、オレの刀じゃなかった。すぐに借りた刀を確認するが、刃こぼれ1つ無い。オレは安堵して雪と凛に刀を返し、クレアの剣を折った事を謝る為に近付いていく。


「剣を折ってごめんね?明日、代わりになる剣を持って来るから許して貰えないかな?」

「・・・・・あぁ、すみません。いえ、いいんです。私の腕が未熟だったせいですから。」


あまりにも悲しそうに笑うクレアの様子に、胸が締め付けられた。オレの責任ではないだろう。だが、剣を折ったのは間違いなくオレなのだから、責任はとる。と言っても、剣を弁償するっていうだけで、男女の話ではない。これはフラグではない。大切な事なのでもう一度言おう。これはフラグではないのだ。


その日、授業が終わってリノア、エミリアと共に城へ戻ったオレだったが、エミリアに言われてクレアの様子が気になった為、学園の特待生寮へと足を向けた。


「あ!ルーク殿!!」

「良かったでござる。クレア殿が魔の森の方へ向かってしまったのでござる!」

「何!?わかった!オレが探して来る!!」


全速力で魔の森へと向かった。雪と凛が武士のような口調だったのに、何もツッコまず。一生の不覚でござる。


魔の森へと入ったオレは、魔物と戦う音のする方へと向かった。何処から調達したのか、オレが折った剣とは別の剣を振るっていたが、おそらく安物だったのだろう。剣は中ほどから折れてしまっていた。相手はデカい蛇だ。名前は忘れた。それどころではないのだ。クレアはボロボロになり、膝をついている。


しかし待て。これはデジャヴュというヤツではないだろうか?助けに入ったら、折角2回も言ったのに結局はフラグという事になり兼ねない。だが、迷っている暇は無い。助けてから考えよう。


オレはアイテムボックスから美桜を取り出し、デカい蛇との距離を一気に詰める。余裕が無いので『天音』で一閃し、クレアと向き合い回復魔法で傷の治療をしてやる。。


「あのなぁ?今までの剣ならまだしも、その剣じゃこの森から生きて出られないと思うけど?」

「す、すみません。助かりました。ただ、もっと強くなりたくて・・・。」

「だからって、そんなボロボロになって・・・送って行くよ。立てる?」

「は、はい。・・・あっ!」


傷は治ったが、死に瀕した恐怖で腰が抜けたようだった。仕方がないので、クレアをおんぶしてクレアの部屋まで送り届ける。寮の入り口に雪と凛がいたので、問題無いと伝えておいた。


思い詰めたクレアを見て、剣を渡す事にした。本当は、別の剣を渡すつもりだったが、生憎手元には1本しかない。


「この剣、お詫びにプレゼントするから元気だしてよ?」

「・・・これは!?」

「オリハルコンの剣なんだけど、オレは使わないからさ。」

「こ、こんな私で良いのですか!?」

「・・・え?」

「我が国のしきたりで、剣を折られた相手から新しい剣を渡されるのは、求婚の証だとされているのです!」

「そんなしきたり知らねぇよ!?」


なんだよそれ?じゃあ、剣を渡さなきゃ良かったの?騎士王国もバカなの?しかもクレアさん、オレの話聞いてないよね?


「実は、明日新しい剣を頂けると聞いて、胸が高鳴ってしまって・・・。落ち着かなくて剣を振ろうと思い、森の前まで行ったのですが・・・どうせなら魔物を倒そうと思って入り、あのような状況に・・・。」

「あ、はい。」


ねぇ、クレアもおバカキャラなの?この学園に、普通の女性はいないの!?


「ルーク様!此度の求婚、お引き受け致します!!不器用ではありますが、末永くよろしくお願いいたします。」

「え?いや、あのね?ちょっとクレアさん?ちょ、そんな嬉しそうにされると・・・」

「それで・・・求婚を受けたら、その日のうちに交わるのが我が国の・・・しきたりなんです。」

「だからそんなしきたり知らねぇよ!?って、真っ赤になってモジモジされると・・・」

「ルーク様の立派な剣で、私に消えない傷をつけて頂けませんか?」


元々クレアはオレのタイプである。そんなクレアが、デレた上に上目づかいで抜剣したのだ、オレが伝家の宝刀を抜刀したのは言うまでもない。何の太刀まで披露したのかも覚えていない。

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