第38話 開戦

現在は、王城の会議室で今後について意見交換を行っている。


「とりあえず帝国は壊滅させるつもりですので、皆さんにはその後の統治をお願いしたいんですよ。」

「あの広大な帝国領を統治など、一体どうすれば・・・。」

「一気にやらなくても良いんじゃないですか?あぁ、他国に分割譲渡するって手段もありですかね?」


面倒な事は他人に丸投げ、これ地球で散々経験しました。される側で・・・。名案だと思ったのだが、スフィアには反対された。そして、代案を出された。


「ルークが勝てば、帝国はルークの物です!我が国には一切関係ありません!!」

「えぇ!?今更~?」

「当然です!そして、アルカイル帝国の皇帝となったルークの元へ、私が嫁ぎます!!」

「はぁぁぁぁ?ちょっとスフィア?何言って「それは名案ですね!」アルトさん!?」


スフィアの案はこうだ。


・スフィアが新帝国へと嫁ぎ、ミリス公国を新帝国の属国とする

・ミリス公国をミリス領とし、名代を立てる。

・新帝国の王城で、新皇帝となったオレと暮らす。

・シリウス学園は帝国王城の目と鼻の先なので、毎日お見送りが出来る。


・・・最後の1文は何ですか?まぁ、女王であるスフィアは、どうやってオレとの結婚を認めさせるか悩んでいたそうだ。この方法ならば、異を唱える者はいないらしいので、アルトさんの許可が出た。


捕らぬ狸の何とかなので、これ以上はオレが勝ったら話し合う事としてお開きにした。それからは、戦争の準備等をしながら過ごした。流石に、魔法のゴリ押しで勝てるとは思っていない。武器や道具を使う事になるだろうから、必要以上に準備した。イチャイチャ出来なくてスフィアは不満そうだったが、戦争が終わるまで我慢してくれた。


こうして現在、公国と帝国の国境近くにある砦にいる。間もなく夜明け。オレは完全にキレているので、砦には誰もいない。全員遠くに避難してもらった。


キレている理由は、数日前に遡る。帝国が宣戦布告も無しに、公国の街に大軍で攻め込んだ為だ。知らせを聞いたオレは、全速力で向かった。そこで見た光景は地獄そのものだった。帝国の兵士により男性は拷問され、女性は強姦された後に殺害されていた。老人から赤ん坊まで、皆殺しである。


同行したセラに、『この街に住みたいと思う人はいないだろう』と言われた為、街の全てを燃やした。その場に居た多くの帝国兵と共に。犠牲となった住民達が安らかに眠りにつけるよう、帝国兵は殲滅する。1人も逃すつもりはない。スフィアを通じて、周辺国へは帝国兵の難民受け入れを拒否するよう通達している。もしも帝国兵を匿うような国があれば、戦争後に脅迫するつもりである。オレは、やる時は徹底的にやる。こんな所は姉に似たのかもしれない。良く知らないが。


空が明るくなってきたので、オレは砦を出て歩いて帝国領へと向かう。日の出頃には帝国の砦が見えてくるだろう。


そして日の出・・・いよいよ戦闘開始である。ここからは曲がったりせず、真っ直ぐに王都を目指す。目の前には30万の帝国兵がいるらしい。オレが負ければ、そのままミリス公国へと攻め込む算段だろうとセラが言っていた。


地平線から太陽が顔を覗かせたのを確認し、オレは帝国の砦へと走る。身体強化はしていない。オレの魔力は全て、帝国兵を駆逐する為だけに使う。


砦まで2kmといった所だろうか。大軍が見える。先頭には馬に乗ったカエル。最後の言葉くらいは聞いてやろう。近付いて行くと、人間の言葉を話し出した。


「わざわざ殺されに来たのか!?」

「・・・・・。」

「ふん!恐怖で何も言えないか?あーはっはっは。」

「お前が戻ったら、一瞬で皆殺しにしてやるよ。降伏は受け付けない。する暇も与えない。わかったらさっさと行け!」

「貴様ぁぁぁ!ふっ、まぁいい。貴様の為に、帝国にいるSSランク冒険者を5人、Sランクを10人連れて来た。最初にそいつらが相手をしてくれる。せいぜいあがく事だな!」


世界に10人しかいないSSランク冒険者から5人、Sランクは50人のうち10人も帝国に従っているのか。まともな性格なら断ってるだろうから、全員禄でもない奴らだろう。事前にギルドへは、帝国へ攻め込むと伝えてある。雇われた冒険者を殺す事になる事も含めて了解を得ているので、これからオレがする事は罪には問われない。罪悪感も感じていない。オレを責めたい者がいるのなら、好きにすればいい。オレは多分、一方的に襲われた街の犠牲者を見て、心が壊れてしまったのだろう。


カエルが自軍に戻った段階で、冒険者と思しき15人の男女が近付いて来る。いきなり魔法を放っても良いが、邪魔されるのも癪なので、まずは全員の機動力・・・足を奪おう。


スフィアから貴重なオリハルコンを譲り受け、新調した刀『美桜』を抜く。この刀であれば、オレの全力に耐え得る。心置きなく振るってやろう。


駆け出した冒険者達に向け、オレも地面を蹴り一気に距離を詰める。大小様々な武器を相手にして、態々切り結ぶつもりはない。多対一用の剣技を放って一気にカタをつける。


「神崎流、壱の太刀『紫電』!」


さらに、後方の冒険者達から放たれた大小様々な魔法に対して刀を構え直し、

魔法を切り裂く為に次なる剣技を放つ。


「弐の太刀『飛燕』!」


魔法を切り裂かれた事に驚愕し、動きの止まった冒険者達に対して刀を振るう。全員の足を片方ずつ切り落とし、ゆっくりとミリス公国側へと歩く。動けなくなった冒険者達から適当な距離を取った所で振り返る。これで全員きっちりと射程内だ。


炎よ来たれ

その身は我が矢となり

その身は我が鎧となりて

我が力を贄とし 我が命を聞け

我が力を燃やして 灼熱と化せ


この詠唱が何なのか、数人が気付いたようだがもう遅い。オレの瞳に映る場所に、

逃げ場など無いのだから・・・。


その身は罰を その身は弔いを

眼前を埋め尽くす炎よ

天を焦がせし劫火よ

その全てを包み込め

浄化を齎す高貴な炎よ

この世の全てを焼き尽くせ    ニブルヘイム!


強烈な炎と共に、熱波が周辺を焼き尽くして行く。数分間燃え続けた後、数キロ四方に焼野原が広がった。草木や建物も、何も残されてはいなかったのだ。

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