第39話 寄り道

文字通り真っ直ぐ進むと宣言したものの、ルークは進行方向から外れた街や村の様子を見る事にした。帝国の街がどうなっているのか気になったのもあるが、挟み撃ちにあう可能性を考え、リスクを減らす事にしたのだ。


風魔法のフライで飛び、かなり大きな街に着く。自分の名前は知れ渡っているだろうから、正規の手続きでは街に入る事は出来ないだろう。街の近くで侵入方法を考えようと思ったのだが、門の方向を見て考えを変える。


「悪い予感が的中したか。帝国兵ってのは、とことん腐ってるらしいな。」


守衛と思われる者達が、門の周辺で血を流し倒れている。近寄って声を掛けると、生き残った1人から返事があった。


「うぅぅ、逃げろ・・・ここにいると奴らに殺されるぞ・・・。」

「少し黙っていろ。メガヒール!」


上級回復魔法を使い、衛兵の怪我を治す。治すしてから、襲い掛かって来たらどうしようかと思ったが、その時は殺せばいいと悩むのをやめる。自分で治しておいて殺したのでは笑えないが、恩を仇で返すような者に容赦するような性格ではない。


「怪我が・・・助かった、礼を言う!私はこの街の警備隊長で、カートと言う。このヤルニの街の領主の息子だ。」

「無事で良かったよ。オレはルーク。帝国に喧嘩を売った者だ。」

「なっ!?・・・どんな大男かと思っていたが、こんな少年だったとは・・・。」

「それで?この状況は、帝国兵のせいだよな?」

「あ、あぁ。奴ら、戦時中だからと街に押し入り食糧や金品、女達まで奪って行った。って、君はどうやってここへ!?」


オレの進行方向から大分外れているのだから、戦争に乗じた盗賊行為という事だろう。帝国兵は殲滅すると誓った以上、見て見ぬフリは出来ない。

カートさんは、帝国兵が国境付近でオレを迎撃すると知っていたらしい。


「帝国兵なら皆殺しにした。それよりも、連れ去られた女達は何処にいる?まだそう時間が経っているわけでもないだろう?喧嘩を売ったオレにも責任がある。助けに行くよ。」

「何だと!?30万の軍勢をたった1人で・・・いや、女達の方が先か。そうだ、奴らはほんの少し前、西の山中に向かった。初めから君との闘いに参加するつもりなんて無かったんだろうな。」


悔しそうな表情で俯いたカートさんを一瞥し、オレは言われた方向へ向けて歩き出しながら声を掛ける。

「すぐに助けて来るから、街の様子を見て来た方がいい。」

「え、あ、そうだ・・・ちょっと待ってくれ!相手は1万人規模の軍勢なんだぞ!?」

「たった1万なら問題ない。街の方は頼んだからな?」


振り返って街の確認を促し、オレは風魔法のフライで一気に山の上空へと辿り着く。山中をどうやって捜索しようか考えていたが、大きく開けた場所に帝国兵が野営の準備をしているのが目に入る。どうやら事に及ぶ準備の最中らしく、攫われた女性達はまだ無事だった。しかし女性の人数を見て途方に暮れる。


「あれって1000人どころじゃないだろ!?男って生き物は、どうしようもないな。」


若くて綺麗な女性が、おそらく1500人程。1ヶ所に固められ、周囲を兵士が取り囲んでいる。分散していないのなら、周囲の兵士を始末してから女性達と帝国軍の間に立てば守り切れるだろう。


ルークは女性達の近くに降り立ち、執事風の礼をしながら双方に声を掛ける。


「麗しき淑女の皆さん、助けに参りました。野蛮な者達はすぐに始末致しますので、今しばらくご辛抱下さい。って事で帝国のクズ共、大人しく死んでくれ。」

「あ?・・・な、な、何だ貴様!?何処からきや、ぐわぁ!」


視界確保の為に空中浮かび、風魔法のウィンドカッターを高速連射して、周囲の帝国兵を全員真っ二つにする。飛んだのは、自分のセリフに恥ずかしくなったのもあります。


女性達は恐怖に怯えているせいか、ガクガクと体を震わせ、抱き合っている者達もいるが声を掛ける余裕は無い。野営の準備をしていた兵士達が、異変に気付いたようでこちらに向かって来る。


お約束では名乗りを上げさせられたり、この軍勢を相手にたった1人で何が・・・とかいう会話があるのだろうが、そんなものに付き合うような優しい性格ではない。山火事の心配も無い地形なので火属性魔法を含めた数々の魔法を放ち、帝国兵に対して無双という名の蹂躙を行う。逃げられないように風魔法で周囲を囲っていた事もあり、ものの数分で戦闘は終了する。放っておいた女性達の元へと歩みより微笑みながら声を掛けるが、どうも様子がおかしい。


「ご安心下さい。もう大丈夫ですよ?」

「ありがとうございます!!」

「な、なんてイケメンなの・・・。」

「騎士様、いえ、王子様よ・・・。」

「素敵!は、鼻血が・・・」

「向こうにテントがあるわ!さぁ、私と参りましょう!!」

「ちょっと!抜け駆けは許さないんだからね!!私も混ぜなさいよ!」

「優しそうな人だし、全員でかかれば何とかなるわ!!」


訂正します!大丈夫ではありません!!あまりのショックに、おかしくなった人達に襲われそうです!!状況を打破しようと考えを巡らせるが、非常時に冷静でいられる訳も無く、あたふたしていると1人の女性が前に進み出た。


「皆さん!今はまず、ヤルニへ戻る方が先決です!家族を安心させてあげましょう!!」


この女性の言葉で冷静さを取り戻したのか、全員が大人しくなった。オレも冷静になったので、礼を告げる。


「ありがとうございました。お陰で助かりましたよ。あ、私はルークと申します。今回帝国に喧嘩を売った者です。」

「まぁ!?私はヤルニの領主の娘で、フランと申します。ルーク様はお強いんですね?そうそう、礼なら体で払って頂きますからね?」


ニッコリという表現が適切な笑顔で、とんでもない事を言った女性も領主の子か。この世界の女性は、基本的に超肉食である。


「はぁ!?どうしてそんな事を!」

「あら?私が助けなければ、全員に襲われていたでしょう?でしたら、私1人くらいで済むなら安いものだと思いますけど?そうですね、ここにいる我が家のメイド達も是非一緒に・・・。」

「いや、もっと自分を大切にした方がいいですよ・・・。」

「大切にすればこそです!あなたの様な素敵な方が初めての相手だなんて、一生自慢出来ますよ!」


そんな事は自慢して欲しくない。勘弁して欲しいので、話を切り上げ全員に声を掛けてヤルニの街を目指す。魔物に襲われる可能性を考え、道中は徒歩で同行した。終始女性達に抱き着かれたり質問攻めにあったりして、ヤルニの街に着いた時にはヘロヘロだった。


送り届けた時には夕方だったのと疲れていた事もあって、無理矢理領主の館で1泊する事となった。その夜は早めに寝室で寝ましたよ。ちゃんとね・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る