第19話 ティナの狙い
~ナディア視点~
「さて、ルークも出掛けた事だし、そろそろ話してもらうわよ。」
「えぇ。では・・・何が聞きたいですか?」
「まず、どうして私まで結婚を勧めたの?あ、建前とかは不要だから。」
「わかりました。ナディアとの結婚を勧めた理由は、戦力の増強・・・でしょうか。」
「戦力?ティナとルークがいれば充分でしょ?」
「いえ、全然足りません。時間もありませんし、信用出来る実力者は出来る限り確保しておきたかったのです。」
「足りないって、一体何と戦うつもりなのよ?」
「戦うつもりはありませんが、カレン様です。」
「カレン様?誰よそれ・・・は?待ちなさい。カレンって、ひょっとして『戦女神』の二つ名を持つあのカレン!?世界最強の!?」
「そうです。」
「何で狙われてるのよ!?あんな化け物、相手にするだけ無駄よ!」
「普段ならそうですが、今回はやむを得ない事情があるのです。」
「・・・何なのよ、事情って?」
「カレン様が、ルークの子を産むとおっしゃっているからです。」
「は!?どうしてそうなるのよ・・・。大体、自分より弱い男を一切寄せ付けないはずの『戦女神』が、ルークを求める理由は何?過去に『戦女神』を怒らせて滅んだ国は、1つや2つじゃないのよ?」
あんな化け物に狙われるなんて・・・。でも、相手は世界最強。例えば『歩いていて肩がぶつかった』なんて理由で因縁をつけられた可能性もある。大した理由なんて無いのかもしれないけど、念の為に確認するのは間違っていないはず。
「カレン様は、ルークの実の姉君にあたります。産まれて間もないルークを見て、自分よりも強くなるだろうから、自分はルークの子を成すとおっしゃったそうです。その為の障害となる者は、一切排除しようとなさるでしょう。私はカレン様を拒むつもりはありませんが、万一の保険は必要なのです。」
「兄弟で子供をって、一体何を考えているのよ!?そんなの許されるはずが・・・」
「いえ、カレン様とルークは、それを許された存在なのです。」
「それってどういう・・・。ま、まさか!?」
「はい。ナディアの想像通りです。あ、口に出してはいけませんよ?何処で誰が聞いているかわかりませんから。」
大した事あった。とんでもない理由じゃないの!こんなの、間違っても口に出来ないわ。誰かに聞かれるのもマズイ。けど、一応私の家はプライバシー対策もしてあるから問題無いわね。
「ここは私の家よ。誰も聞いてないわ。でも、そう・・・わかったわよ。しかし、とんでもない相手と結婚する事になったのね・・・。」
「あら、嫌なら断っても構いませんよ?」
「そ、そんな勿体ない事、するわけないでしょ!いいわ、全力で協力してあげる。私の将来の為だしね。正妻じゃないけど、そんなのは関係無いわ。」
正妻の座に興味がある訳でもないし、ティナに譲って構わないかな。誰よりもルークを愛してあげればいいだけの事。そんな私の心を読んだのか、ティナが驚く事を口にする。
「ふふっ。ありがとうございます。一応、私も正妻ではありませんから。」
「え?じゃあ、戦女神が正妻って事?」
「いえ、誰も正妻ではありません。きっと、まだ見ぬ誰かでしょうね。今のところ全員が、話の流れで半ば強引に結婚する事になりましたが、きっと正妻となる方はルークから求婚する事になると思います。」
「そう。そこは私が口出しする事じゃないんだろうけど・・・。で、今後の予定は?」
「ナディアの引き継ぎが終わるのを待って、出来る限り早く母と合流します。ギルドを通して母に連絡してもらえますか?」
「それは構わないけど・・・失敗したわね。こんな事になるなら、ルークをランクSで登録するんじゃなかったわ。」
「何故ですか?」
「いきなりランクSは、ギルド始まって以来の記録なのよ。戦女神の耳に届くのも時間の問題ね。」
「あぁ、それは問題ですね。となると、別行動をした方が良いでしょうか。」
「それは駄目よ。私が合流出来なくなりそうだもの。そうね・・・引き継ぎを早めましょう。2週間で終わらせるから、そしたらここを離れましょう。」
「それならギリギリ間に合うでしょうか。」
私よりも実力が上の2人と離れてしまったら、再会出来るのは偶然以外に無いでしょうね。ギルドの皆には悪いけど、何としてでも別行動は避けないと。
「とにかく、あなたの両親への伝言は明日の朝に頼んでおくから安心して。それで、私がギルドを辞めるまでの間はどうするの?」
「私は魔物を狩ります。ルークはおそらく、料理に集中すると思います。」
「ふーん。まぁいいわ。これ以上の話は、あなたの両親と連絡がついてからって事ね?」
「はい。それまでは各自自由行動ということでお願いします。」
私には自由な時間なんて無さそうだけど、とにかく引き継ぎを頑張らないとね。
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