第5話 魔法2

「まず、魔法には階級があるわ。ルークが毎日使っている魔法は水属性の初級、ウォーターボール。」

「初級という事は、他にもあるって事だよね?」

「上級まで存在するわね。それ以外に、禁呪と呼ばれている魔法もあるわよ?」

「禁呪?」

「そうよ。上級を超える魔法。こちらは13階級まであると言われているわ。」

「言われているの?」

「えぇ、そうよ?今現在、世界で使える者は一人だけ。聖女と呼ばれている、遠い国の人。その聖女が光属性の第十三階級を使えるそうよ。だから、他の属性も第十三階級までは存在するはず、と言われているわね。」


何とも雲を掴むような話だ。一つの属性で確認出来たからと言って、他の属性も同階級とは限らないと思うのだが。まぁ、知識の無い俺がどうこう言うのも間違っているのだろう。続きを聞こう。


「魔法は熟練度に応じて、魔法名が頭の中に浮かぶようになるわ。でも、この説明を聞いた事が無いと、それ以上の魔法は使えないのよ。」


勝手に頭の中に浮かぶとか、ご都合主義万歳。しかし、勝手に理解出来るのに、説明を聞いてないと使えないのは何故なんだろう。良い子を演じる為にも、細かい事も聞いておこう。


「どうして?勝手に浮かぶんでしょ?」

「知らなければ、脳が勝手にこれしか無いと判断する、と昔の研究者が言っていたとかいないとか。事実、ルークはそうだったでしょ?」


確かに。最近では一日に数十発は撃っている。これで熟練度が足りないと言われたら、第十三階級が使える頃には爺だろう。そうなると聖女なんて聖婆って事になる。いや、聖女が何歳か知らないけど。聖女なのだ、若い姉ちゃんでなければ許せない。出来れば美人であって欲しい。折角のファンタジー世界なのだ。癒しを求めるのは当然だろう。


「うん。じゃあ、もう初級以上も使えるのかなぁ?」

「使えるはずだけど、使っちゃダメよ」


なんですと⁉︎ここは大魔法を使って、母さん吃驚、息子は天才よ!っていうのがお約束でしょ。いや、嫌な予感がする。


「魔法は込める魔力量によって、ある程度は威力が変化するのよ。だから、初級でも威力の高い魔法となるの」


ほほう。これは第十三階級とか、必要無い可能性もあるな。しかし、5歳の子供が、ここまでの内容を理解しても問題無いのだろうか?地球時代の記憶では、ヒーローごっことかしてた気がするんだが。いや、魔法とか言ってる時点で似たようなものか。しかし、母の意図が理解出来ない。素直に聞くとしよう。


「じゃあ、何をするの?」

「私が威力を変えながら火属性の初級『ファイアーボール』を放つから、ルークはウォーターボールで消してね。当たる前に。」


お母様、危険が危ないと思います。使う魔法を逆にしてもらわなければ。


「お母さんがウォーターボールを使った方が安全だと思うよ?」

「子供は火遊びしちゃダメよ」


火遊びって…確かに、コントロール出来なければ家とか燃えそうだ。しかし、このままでは俺が燃えてしまうじゃないか。


「失敗したら、火傷しちゃうと思うんだけど?」

「失敗しなければいいのよ。それに、危険だと思えば上達も早くなるじゃない」


失敗しなければって、言うのは簡単だけど、やるのは難しいと思うんだよなぁ。

いや、そもそも相手の魔法の威力をどうやって判断するのだろう?発動までの秒数かな?


「魔法の威力は、どうやって判断するの?」

「そんなのは…勘よ」


………待て。それは一番聞きたくない言葉だ。勘などという不確かなものに、自分の体を預けるのは、馬鹿か脳筋のする事だろう。


「勘って…そんな適当な説明じゃ出来ないよ」


ここは思考をフル回転させて、危険を回避せねばなるまい。俺の小さな脳ミソよ、最上の答えを導き出してくれ!そんな魔法とか、あったら俺に授けてくれ!


「勘は適当なんかじゃないわよ?勘というのはねぇ、蓄積された経験から導かれる、最良の答えに近い物の事だもの」


ふむ。確かに言わんとしている事は、わからなくもない。初めて作る料理でも、調味料の匙加減が何となくわかるのと同じだろう。しかしだ、今問題なのは『蓄積された経験』という部分ではないだろうか。そもそも、今日が初めて。未経験なのだから。


「経験って言ったけど、僕今日が初めてだよ?無理だよね?」

「何事も、初めてはあるものよ。いいからしっかり覚えなさい」


論破したはずが、あっさりと流されてしまった。こうなったら諦めよう。生きてさえいれば、なんとかなる。とにかく自分の身体さえ守れればいい。周囲の何が燃えようと、俺の知った事じゃない。


こうして、生物が火を恐れる理由を学んでいくのであった。多分違うと思うけど。​

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