第3話 不満

この世界で生まれて、5年が経過した。決して裕福ではないが、幸せな家庭に産まれた。家族の仲も良く、家庭環境に不満は無い。しかし、色々と思う所はある。


まず、母娘が絶世の美女というのは考えものだ。自分の感覚が狂いそうである。今はまだ大丈夫だ。前世の記憶を鮮明に思い出せるのだから、比較対象には不自由しない。これはまぁ良しとしよう。前世でも、ほとんど恋愛せずに生きてきたのだ。今世でも恋愛しなくたって、何とかなるだろう。


しかしだ。どうにも許せない事がある。特に料理だ。辺鄙な田舎である以上、食材の種類は少ないのだろう。いや、そもそもこの世界に、多種多様な食材があるのかすら不明なのだ。


周囲が森である以上、野菜に関しては諦めもつく。大きな畑が無いのだから、まともな野菜を望むのは間違いなのだ。森の中で取れる木の実や雑草の様な物ではあるが、それなりに美味なのは救いだろう。


魚についても、近くに小さな川があるらしく、そこで獲れた20センチ程の魚が時々食卓に上る。いかにも『川魚です』と主張してくる、独特のクセがある。好き嫌いが分かれるかもしれないが、贅沢は言えない。食事はバランスが大事だ。


問題は肉だ。見た事の無い、不思議な生物なのだ。知識のある人達に言わせると、おそらくは『ファンタジー食材』となるのだろう。しかし、少なくとも俺は詳しくない。小説は読んだが、絵は見た事が無い。いや、想像上の存在を描いているのだから、正しくはないのかもしれない。だが、心の準備は出来るだろう。


『ひょっとしてこれ、オークじゃね?』とか。流石に人型の肉を食すというのは、今の俺には抵抗がある。他にもゲテモノ食材と分類すべき肉もある。いずれ慣れると信じたいものだ。


それから、俺の置かれた状況にも不満は有る。人口20名程の小さな村、名前をエリド村と呼ぶそうだ。こんな辺境にある村なのだから、何か訳ありな者達が暮らしていると考えるべきなのだろう。現状、特に危険は無いのだから、この点は考えても無駄だろう。唯一問題なのは、村の外に出して貰えない事だ。村の周囲は、木で作られた簡単な柵で囲われている。出入口には門も無い。しかし、そこから出して貰えないのだ。


今は子供だし、ある程度大きくなったら許可が出ると信じて、戦闘訓練に励むしかない。食材確保の為には、食材となる生物を討伐出来なければならないのだから。


忘れてはならない、声を大にして言いたい最大の問題。それは調理に関する全てだ。まず、調味料が一切無いのだ。様々な味の木の実しか、味を付ける事が出来ない。工夫次第では味を整えられるだろう。しかし、村に住む者達の誰もが、その工夫をしていない。火を通して終わりである。煮るという調理法もあるが、食材に火が通ったら終わりなのだ。


調理器具も問題だ。鍋はある。しかし、それ以外が無い。包丁すら無いのだ。食材を捌くのに、ナイフや短剣を使っている。一体何処の原始人だと言いたくもなる。材質が石でないのが救いだろうか。村の外に出れば、鉄などの金属素材が手に入り、鍛治を行える者がいるのだと思われる。異世界と言えば、様々な国の美味しいを堪能するのが、当たり前だと思っていた。現実とは、ままならないものである。


この状況は、なんとかしなければならない。料理人の端くれとして、味だけではない、見た目も併せての料理なのだ。美味しい料理は人を豊かにする、と俺は考える。


その為にも、調理器具や調味料の確保は絶対だ。調理させてもらえるまで、暫くの間は我慢の日々だろう。


今出来ること、それは強くなる事。そして、過去の様々なレシピをイメージする事だろう。紙が無いのだから、メモする事さえ出来ない。文明の利器とは、偉大にして崇高という事か。


難しく考えたが、なんのことはない。要は暇なのだ(笑)食事と特訓と睡眠で1日が終わる。寝る暇無く働いていた俺に、長い夜が苦痛になろうとは。休みが欲しいと思っていた、あの頃が懐かしい。


こんな日々を重ね、さらに成長して行く。

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