第20話 モットーのままに!
抑えられない期待は勝利の心臓を激しく動かした。着替えを持ってバスルームに入ると海音が溢れんばかりの笑顔で勝利を迎えた。腕まくり裾まくりをして。そう、服は脱がずに部屋着をを着たままだった。
「海音は入らなくていいのか」
「うん? 入るけどショウさんが先です。早く脱いで脱いで」
何度も肌を晒しあったけれど、こんな明るい場所でしかも正面に立たれて脱げと言われると、さすがの勝利も腰が引けた。一応、まだ恥じらいはある男盛りだ。
それが伝わったのか海音はにこりと笑顔を零してバスルームに入っていく。
「あ、ごめんね。中の準備しとくから〜」
海音はバスルームに入って、ボディタオルを広げたりバスチェアにお湯をかけたりと準備をする。私が癒してあげるは背中を流してあげるということだ。勝利はしばらくぶりに愛する女に裸を晒す。まさかいきなり盛るつもりはないけれど、そうならないように己を律する。
(おい、俺。サルじゃないんだ落ち着け!)
勝利はいつもより表情を引き締めて、前をタオルで隠してバスルームのドアをくぐった。
「座って?」
「ああ」
促されるがままにバスチェアに座わると、海音はシャワーで勝利の躰を流した。勝利の肩や背中は相変わらず硬い筋肉で覆われており、盛り上がったその肉はまるで鎧のようだ。この筋肉が人を助け、そして勝利自身を守ってきたのだ。
海音はボディタオルにソープを付けて泡立たせ、勝利の広い背中から洗った。
「どう? 弱かったら言ってね」
鏡越しに勝利の顔を見で反応を確かめた。
「悪くないぞ、ちょうどいいな。気持ちがいいよ」
「よかった。でも、遠慮なく言ってね」
勝利は真剣に丁寧に背中を洗う海音の表情を鏡で見ていた。いつだって海音は勝利を労い、危険な仕事でも頑張ってと背中を押してくれる。もっとわがままを言って欲しいという気持ちもあるけれど、理解ある彼女に勝利は感謝をした。
勝利は目を閉じ、会えなかった月日を振り返る。月に数度しか確認できないプライベートのメールには、いつ読むか分からないのに毎日少しづつの海音の日常が書かれてあった。その中には一通も、寂しいとか、辛いとかそういった内容のものはなかった。
―― 頑張るね!
―― 楽しかったよ!
―― 七管区も雪が降りました!
全てに、自分は元気だから大丈夫。心配しないで頑張って。そんな見えないメッセージが隠されていたように思える。
(もう、絶対に離さない。出来るだけ海音の傍にいるよ)
ひそかな決心を勝利がしていると、なんだか背中がおかしい。
「っーー!」
背中を洗っていた感触が気が付くと変わっていて、それは海音が自分の躰のラインを手のひらでなぞっているのだと分かった。そうされていると分かった途端に、一か所が妙に熱くなる。
「っ、海音」
「ん?」
海音の反応はまるで気づいていないように、手は背中におかれたままだ。そんな海音に勝利の中にある劣情がむくむくと顔を出し始めた。
「そのタッチは俺に対する挑発か」
「え、そのタッチ? あ、ごめん擽ったかったよね。ごめんごめん」
「海音はもう少し男の躰を知る必要があるな。ちょっと俺の前に座れ」
その劣情はもう抑えられない。
勝利は海音の腕を掴んで自分の膝の間に座らせた。
「やだっ、お尻が濡れる!」
勝利は騒ぐ海音を片腕で引き寄せ背中を自分の躰に密着させた。濡れたタイルが海音のズボンを湿らせるのも気にせずに。
「ショウさん、怒ったと?」
「怒ったんじゃなくて、起きたんだよ。ほら、どうするんだよこれ。海音が手で背中を撫でまわすからだぞ」
「あっ、うそ。でも、触ったのは背中であって、ソコじゃ」
まるで分かっちゃいないと、勝利は海音の首筋をペロリと舐めた。そのまま上に移動して耳朶をカプリ。驚いて出た海音の声は浴室内で反響した。
「ひ、あっ!」
「直接触らなくたって感じるだろ? な? 海音だって」
勝利は低くい声で、明らかに甘さを含んだ言い方で海音の耳を掠めるように言う。勝利は海音の躰に伝われと、唇だけで首筋を撫でた。
「はぁ……んっ」
漏れた海音の切なげな声を聞いて勝利が更に追い打ちをかける。
「愛する女に触れられたら熱くなるに決まっている。海音はどう思う。俺から触れられたら感じるか? ちゃんと俺の愛情は、伝わっているのか?」
『解けない魔法をかけて......』
いつかの夜の言葉が勝利には聞こえた。魔法が使えるならば、自身の声で海音の思考までも侵したい。俺の愛情に溺れて欲しい。何があっても浮き上がることは出来ない、深い深い海の底に一緒に沈もう。そんな願いを込めた。
「伝わってるよ。その愛情がないと、もう生きていけない。離れていた時も感じてた。ショウさんの、愛情」
そう言いながら海音は躰ごと振り返り、ぶつかるように激しく勝利の唇に吸い付いた。伸び始めた勝利の顎髭が海音の柔らかな肌をジリと刺す。
海音は勝利の肩に負担をかけまいと、自分から躰を寄せて唇を開いた。そして勝利の熱い舌を誘い出してお帰りと迎え入れる。勝利は何が起きたのかと驚いたがそれも僅かで、すぐに自分も応えた。
ずっとこうしたかった。
寂しさを殺してあがった甲板、仲間に子供が生まれると聞いた夜、訓練続きで悲鳴をあげる躰、海音を想いながら監視活動をした
互いに互いの舌を追い回し、情熱的に絡みつく。二人の息は荒く、少しづつ熱く燃えていく。
「っはっ、はぁはぁ」
「なぁ海音。飢えた仔猫は何が欲しい」
「ショウさんはっ、飢えとらんと? 私、だけなん?」
「そんなわけないだろ。ほらっ、分かるか」
勝利はぐっと腰を海音の腹部に押つけた。海音は洋服越しでも分かる、そのガチガチの情熱に思わずフッと笑みを零す。
(自分だけが余裕か?)
勝利は海音の反応に、つい苛立って膝立ちの海音のズボンを荒々しく引きおろした。
「きゃっ、ちょっとぉ!」
「ちょっとぉ! じゃないんだよ。ほら、全部脱げっ! もうこの服はびしょ濡れで着れない」
「濡らしたのはショウさんなんに」
「おおそうだ。濡らしたのは俺だ。責任取って海音の全部を濡らしてやる、覚悟しろ」
「え、やだっ。あーんもう、怪我人のすることじゃないってば! んんー」
ギャーギャー騒ぐ海音の口を勝利はキスで塞ぎ、傷みが響かない右手で器用に海音の服を脱がせた。そして海音の手を自分の昂りに持っていく。すると大騒ぎだった海音は静かになった。
「海音だから、我慢できない」
「でも、左胸が痛いって」
「だから、海音がしてくれるんだろ? コイツ、もう鎮まらないってさ」
勝利は導くように海音の腰を引き寄せて、優しくその躰を愛撫した。その触れ方に、海音は悶える。太くて皮の厚い、ロープを握りしめる時にできた手のひらのマメさえも、海音の中に眠った女を呼び戻す。海音は久しぶりの感覚に身も心も震わせた。小さな額を勝利の右肩に押し付けて悶え耐える。はぁはぁと熱のこもった息を吐きながら、勝利にその全てを預けた。
「しょ、しょうりさっ」
「我慢しなくていい。海音、ほら」
しなだれかかる女の躰に勝利はこれ以上ない悦びを感じた。
(俺がなによりも守りたいものは、海音だ)
「海音は自分で慰めなかったのか」
「するわけ、ないよ。私、ショウさんのが、いいもん。ずっと待っとったと」
「このやろ、なんて事を言うんだ。くそー! こんな躰じゃなかったらなぁ」
「まだ、言ってる。ふふっ、だから私が癒してあげるて言ったのに」
「あああああ。やっぱり我慢はできねーなっ」
「えっ! なに? 待って、ひあぁっ」
◇
そして、今は二人ベッドの上。大きなクッションを重ね、それを勝利は背もたれにした。海音は顔を真っ赤にして勝利を跨いで上から見下ろしている。自分が癒してあげると、言った手前もう後には引けない。それに、いちど灯してしまった愛の火は、そう簡単には消せないことも知っている。
「癒すって言ったけど、実はよく分からんとよ」
「あ?」
「自分から、したことない」
火が出そうなほど、顔を赤く染めながら言う海音に勝利は心の中で悶えていた。
(マジか! 初めてなのかこの態勢。おいおいおい! 可愛いすぎるだろー! どうしてくれるんだよ)
「そうか、なら手伝ってやるから」
海音が勇気を出して移した行動は、勝利にはもうそれだけで十分だった。その気持ちだけで男の心は満たされて行ったから。だけれど心と体は別物で、それを形にしたいと本能が蠢き始める。
(やっぱり長いことお預けはよろしくないな。海の男はこれだからしつこいと言われる!)
「海音っ、すまん」
「うわっ」
ごろんと態勢を入れ替えた。海音が下、勝利が上。痛まない方の右腕だけで支えて、勝利主導で愛を語る。決してこれの為に鍛えているわけではないけれど、片腕腕立て伏せなんて延々とできるぞ! と、暑苦しさ全開で自身の熱を愛する女に放った。
..。o○☆○o。..:*゜♡ *:..。o○☆○o。
Speed, Smart, Serviceは海上保安庁のモットーである。勝利のSpeedとSmartさ、海音のSmartとServiceで久しぶりの熱い熱い夜は、ゆっくりと更けていった。
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