第106話 青葉、会長になる⑥~風紀委員長を誰にする?~

 俺と青葉あおばはその日の放課後、中富なかとみ先生から「話がある」と言われて職員室へ一緒に行った。そこにはらん先生と鬼鹿おにしか先生、雄信内おのっぷない先生、それに恵比島えびしま先輩と紅葉山もみじやま先輩がいた。

 俺と青葉が中富先生の横に並ぶ形で座ると、早速蘭先生が口を開いた。でも、その表情は笑顔だった。

「ごめんなさいね、いきなり呼び出した形になって」

「あー、いえ、全然気にしていないですから」

「実は鬼鹿先生経由で恵比島君に副会長就任の件を打診したんだけど、本人は全然構わないって言ってくれたから顔合わせの意味もあって来てもらったのね」

「そうなんですかあ、恵比島先輩、ありがとうございます」

 青葉が歓喜の顔をして立ち上がって恵比島先輩に頭を下げると恵比島先輩はクールな顔で「いや、そんなに改まって頭を下げられるとおれの方が恐縮しちゃうから勘弁してくれ」と言って軽く笑った。

 青葉がニコニコ顔で再び席に座ると、さっきまで笑顔だった蘭先生が今度は渋い表情になって口を開いた。

「・・・ただねえ、もう公示まで時間が無いからもう一人の副会長である風紀委員長を誰にするのか、それを相談したくて串内くしないさんと駒里こまさと君にも来てもらったのよね」

「「そうだったんですか・・・」」

「ズバリ串内さんに聞くけど、あなたの意中の風紀委員長は駒里君よね。それは雄信内先生や鬼鹿先生もそう思ってるけど、どうなの?」

「あー、やっぱりバレバレですかあ。そうですよー」

「はーー・・・先生も串内さんから駒里君の話が出た時にピンと来たけど、これに関しては雄信内先生も鬼鹿先生も懐疑的よー」

「えー、どうしてですかあ?」

「それについては鬼鹿先生が話してくれるわ。ここからは鬼鹿先生、お願いします」

 蘭先生はここで話を鬼鹿先生に振ったけど、鬼鹿先生は蘭先生以上に渋い顔をしながら話し始めた。

「・・・串内、これはあくまでオレ個人の考えだけど、駒里が野球部やサッカー部など、我が校の運動部から最強とまで恐れられているのは知ってる。まあ、オレも駒里個人の実力を疑ってない。ただ、駒里が最強だと恐れらているのは今まで挑まれた勝負に全て勝っている事と、その後に起きた出来事、つまり『駒里大成たいせいの呪い』が関係しているのは先生方も承知の事実だ」

「あれー、鬼鹿先生も知ってたんですかあ?」

「当たり前だ。お前は知らないかもしれないけど『串内青葉ファンクラブ』なる非公認組織まで存在してるんだからなあ。そいつらが野球部やサッカー部、テニス部などで起こった出来事を『駒里大成の呪い』とか言い出したんだから、風紀委員会が動き出して注意したくらいなんだぞ。ファンクラブは自重したけど噂だけは独り歩きして先生方も困り果ててるのが実情だ」

「そうだったんですか・・・」

「ただ、こういう噂など一時のものだ。それに、駒里大成最強伝説が途絶える、つまり駒里が勝負に負ける事があれば、駒里を軽んじるようになるだろうな。駒里が今後も最強であり続ける保証が無い以上、駒里が風紀委員長になるのは危険だ。まあ、駒里が2年生なら次の風紀委員長になるのはオレだけでなく雄信内先生や東室ひがしむろ先生も異論はないって言ってたけど、今は時期尚早というのが先生方全員の考えだ」

「そうですか・・・」

「あー、そういえば恵比島の考えは聞いてなかったけど、お前の考えはどうなんだ?」

「おれもこの件に関しては鬼鹿先生の意見と同じです。駒里を生徒会書記とかでメンバーに加える事には異論は全然ないですけど、風紀委員長はやめた方がいいと思います」

「・・・そうですか、分かりました。先生方だけでなく恵比島先輩までそういう考えなら私はその方針に従います」

 そう言うと青葉は恵比島先輩の方を向いてニコッと微笑んだ。恵比島先輩はクールな笑みを崩してなかったが、青葉が説得に応じてくれた事でホッとしているようにも感じた。

 蘭先生も青葉が説得に応じてくれてホッとしているのは俺の目から見ても分かる。その蘭先生が右手の中指で眼鏡を軽く持ち上げながら

「・・・ただねえ、そうなると誰を風紀委員長にするかという話に戻るけど、こういうのは会長の意見を第一に考えるべきなんだけど、串内さんの駒里君に次ぐ候補者は誰なのか教えてくれないかしら?」

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