第105話 青葉、会長になる⑤~わがままな申し入れ~

 次の朝、俺があまりにも早く家を出ようとしたから、それに気付いたかえで

「おにいちゃーん、もう学校へ行くのー?」

「そうだけど」

「まだ除雪車があちこちにいるからー、走ると危ないよー」

「はいはい、気をつけますよ」

「ご飯は食べたのー?それともこれから食べるのー?」

「もう食べたぞ」

「ふーん」

 とまあ、いつも通りだけどノホホンとした表情で右手を軽く上げて「行ってらっしゃーい」と言ったけど、あまりのノホホンぶりに俺の方が拍子抜けした。みどりはというと、まだパジャマのままだったけど何も言わず「フンッ」と顔を横に向けてしまったけどね。


 俺はいつも通り青葉あおばと一緒に登校、まあ、いつも通りだけど俺が青葉を起こしてから普段より早い時間に青葉の家を出た。

 昨日からの雪がまだ降り続いていて道路は除雪の真っ最中で普段以上に渋滞が激しかったけど、俺たちは登校してすぐに職員室へ行った。

「「おはようございまーす」」

 俺と青葉は普段以上に元気な声であいさつしてから職員室へ入ったけど、らん先生は職員室にいたけど中富なかとみ先生はいなかったので、俺と青葉は蘭先生のところへ行った。

「「おはようございます、蘭先生」」

「あらー、串内くしないさんに駒里こまさと君、おはよう。相変わらずあなたたちはお二人で一緒の登校で先生としては羨ましいですよ」

「蘭せんせー、『相変わらず』も『羨ましい』も余計ですよ」

「まあまあ、それだけ仲がいい幼馴染ってのも、先生から見たら羨ましいの一言ですからね。はああああーーーー・・・」

 それだけ言うと蘭先生は深ーいため息をついた。青葉は少し意地悪そうな顔をしながら

「蘭先生、今年も『シングル・ベル』確定なんですかあ?」

「う、うるさいわね!まだ10日以上あるから大丈夫!今年こそ、ぜーーーーったいにハッピークリスマスにしてみせるわよ!」

「まー、それなりに期待してますからー」

「串内さん、そんな事を言ってると、あなただけ冬休みの国語の課題を2倍に増やしますよ!」

「うっ・・・すみません、さっきの発言は取り消させて頂きます・・・」

「まあ、それは冗談として、先生のところへ来たって事は昨日の件の答えを言いに来たって事よね」

「そうです」

「で、どうするの?」

「その事ですけど・・・」

 青葉は超がつくほどの真面目な顔をして蘭先生に話し始めた。次期生徒会長を引き受けてもいい、だけど、それには条件が2つある。1つ目は副会長を恵比島えびしま先輩が引き受けてくれること、もう1つは俺を生徒会メンバーの一員として加えること、この2つが認められなければ次期生徒会長を引き受けないと青葉は蘭先生に伝えた。

「・・・駒里君を生徒会メンバーに加えるのは全然問題ないはずよ。会計と書記を任命するのは生徒会長の権限ですし、よほどの問題生徒でない限りは基本的に職員会議は会長からの推薦者を承認するだけですからね」

「ホントですか?」

「まあ、駒里君がとんでもない問題行動を起こせば別でしょうけど、彼がそのような事を起こすとは考えられないから、心配しなくてもいいわよ」

「ありがとうございます」

「ただ、恵比島君の件は本人に聞かないと分からないからねえ。まさか彼も後輩が生徒会長になるとは思ってなかったでしょうから」

「それもそうですよね。普通は同じ2年生が会長になるって思うでしょうから」

「まずは先生の方から担任の鬼鹿おにしか先生に伝えます。鬼鹿先生から恵比島君へ話を伝える事になるでしょうけど、場合によっては串内さん自らが恵比島君に頭を下げる必要がでてくるかもしれないって事だけ頭に入れておいてね」

「わかりました。私としても我が儘な申し入れだという事は分かっています」

「それと串内さん、風紀委員長を誰にするつもりなの?」

「そこは恵比島先輩の意見を聞きたいと思います。私個人の意中の人はいますが、その人物が恵比島先輩の意中の人物とは限りませんし、だいたい、その人物が校内を抑えられるかどうか分かりません」

「それもそうね。まあ、串内さんの意中の人物が誰なのかは先生も想像がつくけど、1年生の生徒会長、しかも女の子の生徒会長となると上級生を抑えられるような大物を風紀委員長に据えないとねえ」

「蘭先生もそう思いますか?」

「まあ、先生でなくてもそう思うわよ。ある意味、紅葉山もみじやまさんを陰で支えているのが竹浦たけうら君だというのは衆目一致の意見ですからねえ。清風山せいふうざん高校空手部で初めてインターハイに出場した竹浦君はある意味『空手馬鹿』だけど、同時に空手道とは何なのかを体現しているような子だから、歴代最高の風紀委員長だとみんなが評価するのも当然ね」

「そんな竹浦先輩の後任だから、逆に比較されて結構辛いかもしれないですね」

「それもそうね。ところで駒里君は何か言う事はあるの?」

「いえ、俺の言いたい事は全て青葉が言ってくれましたから特にないです」

「分かりました。中富先生はまだ来てないようですから先生の方から伝えておきますよ」

「「お願いします」」

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